オメガの僕が、最後に恋をした騎士は冷酷すぎる

虹湖🌈

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第二章 愛は支配でも犠牲でもなく、未来を芽吹かせる“希望の種”となる。

第25話 黄金色の荒野

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 あの夕陽の決戦から、五年が過ぎた――。

 ドーム軍残党と「ガイアの子ら」との戦いは、熾烈を極めた。だが、俺たちの掲げた「自由」の旗の下には、アキの言葉に心を動かされた、世界中の人々が集っていた。数では劣っていた俺たちが勝利できたのは、武器の力ではなく、一人一人が自らの意志で未来を選び取ろうとした、その想いの力だった。

 そして今、俺たちの共同体「フロンティア」は、「自由共同体連合」の中心都市として、かつての姿が嘘のように生まれ変わっていた。荒野には灌漑用水路が引かれ、緑の畑がどこまでも広がっている。子供たちの笑い声は、かつての銃声に取って代わり、青空の下に高らかに響き渡っていた。

「――以上をもって、連合憲章第五条の改定案を承認します」

 評議会の壇上で、アキが静かに宣言すると、満場が拍手に包まれた。
 かつて泣き虫だった面影はもうない。多くの苦悩と決断を乗り越えたその顔には、若々しいながらも、人々を導くリーダーとしての自信と威厳が満ちていた。
 彼は、壇上から俺を見つけると、少しだけ悪戯っぽく、片目を瞑ってみせた。

 評議会が終わり、俺はアキの隣に並んで歩く。もう、彼の背後から見守るだけの日々は終わった。俺は彼の騎士であり、防衛の責任者であり、そして何より、彼の隣を歩く対等なパートナーだ。

「疲れたでしょう、アキ」
「少しだけ。でも、レオンさんの顔を見たら、全部吹き飛びました」
「口ばっかりうまくなって」

 憎まれ口を叩きながらも、自然と口元が緩むのを止められない。
 すれ違う仲間たちが、次々と俺たちに声をかけてくる。

「アキ、レオン! 今夜、ジンの新しい浄水システムのお披露目会があるんだ、顔を出せよ!」
「サラ教官! 今日の訓練、しごきすぎですよ!」
「はは、あれくらいでへこたれてたら、レオン隊長には一生追いつけないぜ!」

 義手で若者の頭をぐりぐりとかき回すジン。士官学校の教官として鬼のように恐れられているが、誰よりも面倒見のいいサラ。
 誰もが、自分の居場所を見つけ、笑っている。

「行きましょうか」と、アキが俺の手を取った。
「ええ、俺たちのお気に入りの場所に」

 俺たちが向かったのは、共同体を見下ろせる、小高い丘の上だった。
 五年前、ここには赤茶けた砂と、無骨な岩しかなかった。だが今、目の前に広がっているのは、夕陽を浴びて黄金色に輝く、広大な麦畑だ。

「……時々、不思議に思うんです」
 アキが、風に揺れる麦の穂を見つめながら、ぽつりと呟いた。
「ドームの、あの白い部屋にいた俺が、今こうして、この景色を見ていることが。まるで、長い夢を見ているみたいだ」
「夢じゃない」

 俺は、彼の言葉を、そっと肯定した。
「俺も同じだ。お前を連れ出すことだけが任務だった俺が、お前と共に、未来を育てている。……現実だよ、俺たちの」

 アキは、幸せそうに目を細めた。
「見てください、レオン。俺たちが咲かせたかった花が、こんなにたくさん……」
 その言葉に、俺は胸がいっぱいになるのを感じた。ドクター・レンが残した研究は、連合の科学者たちの手で完成し、世界から不妊の呪いを解き放った。この黄金の麦畑も、そして共同体で生まれる新しい命も、すべては彼が咲かせた花だ。

「ああ」と、俺は応えた。
「お前という、たった一粒の“希望の種”から、これだけの未来が生まれたんだな」

 俺は、懐から小さなものを取り出すと、アキの左手を取った。
 それは、薬莢を溶かして、俺が不器用に叩いて作った、シンプルな指輪だった。

「レオン、さん……?」
 驚くアキの薬指に、俺はその指輪を、そっとはめた。
「もう二度と、お前を一人にはしないと誓おう。俺の命ある限り、お前の騎士であり、お前の番だ。……アキ、俺と、永遠に」

 アキの大きな瞳から、一筋、きれいな涙がこぼれ落ちた。
 彼は、言葉にならない声で「はい」と頷くと、俺の胸に飛び込んできた。

「俺も、あなたの隣にいます。永遠に」

 俺たちは、黄金色の世界の中で、静かに唇を重ねた。
 風が、麦の穂を揺らす音が、まるで祝福の歌のように聞こえる。
 世界はまだ、多くの問題を抱えているのかもしれない。
 だが、俺たちの隣には、互いがいる。
 それさえあれば、俺たちは、どこまでだって歩いていける。

 これは、絶望の時代に生まれた、たった一つの愛の物語。
 そして、これから始まる、無数の希望の物語の、始まりの一ページ。
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