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第三章 命は巡り、愛は受け継がれることで永遠となる
第27話 祝福の代償
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レオンの、地を這うような声が、黄金色の麦畑に響いた。
「……君が、アキの命を……」
その言葉は、純粋な殺意ではなかった。理解を超えた現象を前にした、原始的な恐怖と、愛するものを奪われようとしている獣の、悲痛な呻きだった。
少女ハナは、レオンの瞳に宿る暗い光に怯え、わっと泣き出した。周囲にいた大人たちも、何が起きたのか理解できず、ただ遠巻きに囁き合っている。
「今、あの子が……代表に何か……」
「光ったぞ……そしたら、代表が……」
俺は、薄れゆく意識の中、必死にレオンの腕を掴んだ。
「……レオン、さん……やめて……。ハナは、悪く……ない……」
「黙っていろ!」
レオンは俺の言葉を遮ると、その身体を、まるで壊れ物のように、しかし有無を言わさぬ力で抱き上げた。彼は泣きじゃくるハナに一度だけ、鋭い視線を投げかけると、踵を返し、医務室へと嵐のように突き進んでいった。
医務室に駆け込むなり、レオンは叫んだ。
「レン先生! アキが……! あの子供だ、あの子の能力が、アキの生命力を吸い取っている!」
白衣をまとったドクター・レンは、レオンの剣幕に驚きながらも、冷静に俺を診察台に寝かせた。手際よくバイタルを測り、血液を採取していく。
「……落ち着け、レオン。君の言いたいことは、分かる」
レンは、複雑な表情で検査モニターを見つめていた。
「実は、私も恐れていたんだ。ここ数ヶ月のデータを照合して、一つの恐ろしい相関関係が見つかっていた」
「相関関係、だと?」
「うむ。アキ君の生命エネルギー値が、原因不明の低下を見せる周期……。それが、共同体内で『夜明けの子供たち』の強い能力発現が記録された周期と、完全に一致しているんだ」
レンの言葉は、レオンの原始的な恐怖に、冷たい科学的な裏付けを与えた。
レオンは、わなわなと拳を震わせる。
「なら、なぜ黙っていた!」
「確証がなかったからだ! まさか、祝福であるはずの力が、アキ君を蝕む呪いになっていたなどと……誰が信じられる……」
レンが悔しそうに顔を歪める。
だが、俺は、診察台の上で、不思議なほど穏やかな気持ちでその会話を聞いていた。
ああ、やっぱり、そうだったのか。と。
俺は、ゆっくりと身体を起こした。そして、絶望に顔を歪めるレオンとレンに向かって、静かに微笑んだ。
「もし、そうなら……」
俺の言葉に、二人がはっとしたようにこちらを見る。
「それはきっと……俺が、ちゃんと“生きている”っていう、証拠なんですよ」
その夜、俺たちの寝室の空気は、張り詰めた弦のように、触れれば切れてしまいそうだった。
レオンは、窓の外を睨みつけたまま、まるで檻の中の獣のように、部屋の中を何度も行き来している。
「……対策を考えなければならん」
彼が、ようやく口を開いた。
「子供たちを、隔離するべきだ。少なくとも、お前には近づけんように」
「そんなこと、できません」
俺は、ベッドの上から、はっきりと答えた。
「彼らに、罪はありません。それに、俺は……」
「お前は、このまま死ぬつもりか!」
レオンが、俺の言葉を遮って叫んだ。その声は、怒りよりも、悲痛な響きを帯びていた。
「あの子供たちの『祝福』とやらのために、お前が犠牲になるのを、黙って見ていろと!? 俺に、そうしろと!?」
「犠牲だなんて、思っていません」
俺は、静かに彼を見つめ返した。
「レオンさん。俺は、ドームにいた頃、自分の命がただ、そこにあるだけの『資源』でした。誰にも繋がらず、誰にも届かない。ただ、消費されるのを待つだけの、空っぽの器だった」
俺は、自分の胸にそっと手を当てる。
「でも、今は違う。俺の命が、巡っているのを感じるんです。俺の中から溢れた力が、花を咲かせ、子供たちの未来になっていく……。それは、痛いけれど……苦しいけれど……。俺が、この世界と、ちゃんと繋がっているっていう証拠なんです。……俺が、今までで一番、“生きている”って、感じられる瞬間なんだ」
俺の告白に、レオンは言葉を失い、ただ唇を噛み締めていた。
俺の言っていることが、彼にとってどれほど残酷なことか、分かっている。
彼が、命を懸けて、ドームという鳥籠から解き放ってくれた俺が、今度は自ら、命を散らす花になることを望んでいるのだから。
「……俺は、認めん」
長い沈黙の後、レオンは、絞り出すように言った。
「俺は、お前を失うくらいなら、世界中の花が枯れたって構わん。子供たちの未来が、閉ざされたって構わん」
彼の灰色の瞳が、再び、あの狂気的な光を宿し始める。
「俺は、お前を守る。……たとえ、お前自身の願いに、背いてでもな」
それは、究極の愛の告白であり、同時に、絶望的な決裂の宣告だった。
俺たちは、互いの存在を何よりも大切に想いながら、決して交わることのない、それぞれの正義の上に立っていた。
窓の外では、フロンティアの夜が、静かに更けていく。だが、俺たちの心の中の嵐は、まだ始まったばかりだった。
「……君が、アキの命を……」
その言葉は、純粋な殺意ではなかった。理解を超えた現象を前にした、原始的な恐怖と、愛するものを奪われようとしている獣の、悲痛な呻きだった。
少女ハナは、レオンの瞳に宿る暗い光に怯え、わっと泣き出した。周囲にいた大人たちも、何が起きたのか理解できず、ただ遠巻きに囁き合っている。
「今、あの子が……代表に何か……」
「光ったぞ……そしたら、代表が……」
俺は、薄れゆく意識の中、必死にレオンの腕を掴んだ。
「……レオン、さん……やめて……。ハナは、悪く……ない……」
「黙っていろ!」
レオンは俺の言葉を遮ると、その身体を、まるで壊れ物のように、しかし有無を言わさぬ力で抱き上げた。彼は泣きじゃくるハナに一度だけ、鋭い視線を投げかけると、踵を返し、医務室へと嵐のように突き進んでいった。
医務室に駆け込むなり、レオンは叫んだ。
「レン先生! アキが……! あの子供だ、あの子の能力が、アキの生命力を吸い取っている!」
白衣をまとったドクター・レンは、レオンの剣幕に驚きながらも、冷静に俺を診察台に寝かせた。手際よくバイタルを測り、血液を採取していく。
「……落ち着け、レオン。君の言いたいことは、分かる」
レンは、複雑な表情で検査モニターを見つめていた。
「実は、私も恐れていたんだ。ここ数ヶ月のデータを照合して、一つの恐ろしい相関関係が見つかっていた」
「相関関係、だと?」
「うむ。アキ君の生命エネルギー値が、原因不明の低下を見せる周期……。それが、共同体内で『夜明けの子供たち』の強い能力発現が記録された周期と、完全に一致しているんだ」
レンの言葉は、レオンの原始的な恐怖に、冷たい科学的な裏付けを与えた。
レオンは、わなわなと拳を震わせる。
「なら、なぜ黙っていた!」
「確証がなかったからだ! まさか、祝福であるはずの力が、アキ君を蝕む呪いになっていたなどと……誰が信じられる……」
レンが悔しそうに顔を歪める。
だが、俺は、診察台の上で、不思議なほど穏やかな気持ちでその会話を聞いていた。
ああ、やっぱり、そうだったのか。と。
俺は、ゆっくりと身体を起こした。そして、絶望に顔を歪めるレオンとレンに向かって、静かに微笑んだ。
「もし、そうなら……」
俺の言葉に、二人がはっとしたようにこちらを見る。
「それはきっと……俺が、ちゃんと“生きている”っていう、証拠なんですよ」
その夜、俺たちの寝室の空気は、張り詰めた弦のように、触れれば切れてしまいそうだった。
レオンは、窓の外を睨みつけたまま、まるで檻の中の獣のように、部屋の中を何度も行き来している。
「……対策を考えなければならん」
彼が、ようやく口を開いた。
「子供たちを、隔離するべきだ。少なくとも、お前には近づけんように」
「そんなこと、できません」
俺は、ベッドの上から、はっきりと答えた。
「彼らに、罪はありません。それに、俺は……」
「お前は、このまま死ぬつもりか!」
レオンが、俺の言葉を遮って叫んだ。その声は、怒りよりも、悲痛な響きを帯びていた。
「あの子供たちの『祝福』とやらのために、お前が犠牲になるのを、黙って見ていろと!? 俺に、そうしろと!?」
「犠牲だなんて、思っていません」
俺は、静かに彼を見つめ返した。
「レオンさん。俺は、ドームにいた頃、自分の命がただ、そこにあるだけの『資源』でした。誰にも繋がらず、誰にも届かない。ただ、消費されるのを待つだけの、空っぽの器だった」
俺は、自分の胸にそっと手を当てる。
「でも、今は違う。俺の命が、巡っているのを感じるんです。俺の中から溢れた力が、花を咲かせ、子供たちの未来になっていく……。それは、痛いけれど……苦しいけれど……。俺が、この世界と、ちゃんと繋がっているっていう証拠なんです。……俺が、今までで一番、“生きている”って、感じられる瞬間なんだ」
俺の告白に、レオンは言葉を失い、ただ唇を噛み締めていた。
俺の言っていることが、彼にとってどれほど残酷なことか、分かっている。
彼が、命を懸けて、ドームという鳥籠から解き放ってくれた俺が、今度は自ら、命を散らす花になることを望んでいるのだから。
「……俺は、認めん」
長い沈黙の後、レオンは、絞り出すように言った。
「俺は、お前を失うくらいなら、世界中の花が枯れたって構わん。子供たちの未来が、閉ざされたって構わん」
彼の灰色の瞳が、再び、あの狂気的な光を宿し始める。
「俺は、お前を守る。……たとえ、お前自身の願いに、背いてでもな」
それは、究極の愛の告白であり、同時に、絶望的な決裂の宣告だった。
俺たちは、互いの存在を何よりも大切に想いながら、決して交わることのない、それぞれの正義の上に立っていた。
窓の外では、フロンティアの夜が、静かに更けていく。だが、俺たちの心の中の嵐は、まだ始まったばかりだった。
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