オメガの僕が、最後に恋をした騎士は冷酷すぎる

虹湖🌈

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第三章 命は巡り、愛は受け継がれることで永遠となる

第29話 砕かれた理想郷

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 世界が、赤と黒に染まっていた。
 炎がタービンから黒煙を上げ、人々の絶叫が耳をつんざく。祝福の祭典は、一瞬にして地獄の様相を呈していた。
 だが、レオンの世界には、もうその音も、色も、届いていなかった。

 彼の視界に映るのは、ただ一つ。
 演説台の上、純白の衣装を己の血で赤く染めて倒れる、アキの姿だけ。

「――アキッ!」

 それは、咆哮だった。理性の鎖が砕け散る音だった。
 レオンは、パニックに陥った群衆を、まるで嵐のように掻き分けて進む。彼の全身から放たれる凄まじい気迫に、人々は怯え、道を開けた。

「どけ! 道を開けろ!」

 彼はステージに駆け上がると、ぐったりと意識を失った俺の身体を、まるで羽のように軽々と抱き上げた。その腕は微かに震えている。
「サラ! 広場を封鎖しろ! 住民を安全な場所へ誘導! ジン! 医務室の全機能を起動させろ! 今すぐにだ!」
 彼の命令は、混乱の中、唯一絶対的な響きを持っていた。仲間たちが、はっとしたように動き出す。
 レオンは、俺を抱いたまま、炎に包まれた広場を振り返った。そして、怯えて泣きじゃくる「夜明けの子供たち」を、氷のように冷たい瞳で一瞥した。その視線は、もはや彼らを未来の希望ではなく、愛する者を蝕む「災厄」として捉えていた。

 医務室の廊下は、外の喧騒が嘘のような、息の詰まる静寂に包まれていた。
 手術中のランプが点灯した扉の向こうで、レン先生たちが懸命に俺の治療にあたってくれている。その扉の前で、レオンは壁に寄りかかったまま、微動だにしなかった。その横顔は、まるで石像のように無表情だった。

「……これから、どうするんだい」
 沈黙を破ったのは、サラだった。彼女の顔には、煤と疲労が色濃く浮かんでいる。
「あの子供たちを、どうする?」
「決まっている」

 レオンは、目を閉じたまま、静かに答えた。
「管理下に置く。彼らの能力は、危険すぎる。アキのため、そして共同体の未来のためにも、封印すべきだ」
「封印ですって!?」

 その言葉に、血の気の引いた顔で立っていたジンが、悲鳴のような声を上げた。
「そんな……! 彼らは子供なんだ! 武器じゃない! 大体、原因は……俺の照明が、カイトの能力を増幅させたのかもしれないし、あの子をいじめてた奴らが悪いんだ! なのに、あの子たちだけを……!」
「なら、お前はアキを見殺しにしろと、そう言うのか!」

 レオンが、初めて感情を爆発させた。彼の瞳が、ジンを射殺さんばかりに睨みつける。
「俺は、もう二度と、あんな光景はごめんだ! アキを守れるなら、俺はなんだってする。たとえ、それが悪魔の所業だと言われてもな!」
「待て、二人とも」

 エルダーが、その間に割って入った。
「レオン、君の痛みは分かる。だが、怒りに任せた決断は、さらなる悲劇しか生まん。そしてジン、君の言うことも正しい。罪を子供たちだけに押し付けてはならん」

 だが、もはや誰の言葉も、レオンの心には届いていなかった。

 俺が目を覚ました時、最初に目に映ったのは、心配そうに俺の顔を覗き込む、レオンの顔だった。
 俺は、消毒液の匂いが満ちた、医務室のベッドの上にいた。

「……レオン、さん……?」
「気がついたか、アキ」
 彼の声は、驚くほど優しかった。だが、その優しさの奥に、硬く冷たい、鋼のような決意が隠されているのを、俺は感じ取っていた。

「外は……みんなは……?」
「ああ、火事は鎮火した。怪我人は出たが、死者はいない。……カイト君たちも、今は別の施設で“保護”している」

 “保護”という、冷たい響きの言葉。
 俺は、すべてを察した。
「……子供たちの能力を、封印するつもりなんですね。俺のために」
 レオンは、黙って頷いた。その瞳は、お前の異論は認めない、と雄弁に語っていた。

 俺は、まだ思うように動かない身体を、ゆっくりと起こした。
 そして、彼の瞳を、まっすぐに見つめ返した。

「……レオンさん」
 俺の声は、掠れていたが、はっきりとした意志を持っていた。
「もし、あなたが俺のために、子供たちの未来を奪うというのなら……俺は、あなたのその手を、取れません」
「……何?」
「俺が愛したのは、誰よりも優しく、誰よりも強く、未来を信じていた騎士です。愛する人のために、世界を壊すような独裁者じゃない」

 俺の言葉に、レオンの顔が、苦痛に歪んだ。彼は、壊れ物に触れるかのように、俺の手にそっと触れた。
「俺は、ただ……お前が生きていてくれれば、それでいいんだ。お前さえ、俺のそばにいてくれるなら、世界なんて、どうなったって構わない」

 それは、彼の魂からの、悲痛なほどの愛の告白だった。
 俺は、その手に、自分の手をそっと重ねた。そして、涙を浮かべながら、静かに、しかしはっきりと、首を横に振った。

「それは、俺の望む未来じゃないよ、レオン」

 愛している。
 心の底から、あなたを。
 だからこそ、俺たちは、同じ場所には、もう立てない。
 二人の愛が、互いを救いようもなく引き裂いていく。窓の外では、煙が去った空に、無慈悲なほど美しい星が、またたき始めていた。
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