オメガの僕が、最後に恋をした騎士は冷酷すぎる

虹湖🌈

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第三章 命は巡り、愛は受け継がれることで永遠となる

第30話 泉の真実と最後の選択

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 あの日以来、俺たちの共同体「フロンティア」から、子供たちの笑い声が消えた。
 レオンが主導する防衛隊によって、「夜明けの子供たち」は保護という名目で、居住区の一角に隔離された。街には武装した兵士が立ち、かつての自由な空気は、鉛のような緊張感に取って代わられていた。
 理想郷は、静かにその姿を military camp へと変えつつあった。

 俺は、医務室のベッドの上で、そのすべてを無力に見ていることしかできなかった。
 レオンは毎日、三度、食事を運んでくる。だが、俺たちの間に会話はなかった。彼はただ俺の身体を案じ、俺はただ彼の行動を静かに見つめる。その瞳に宿る、俺を失うことへの純粋な恐怖を。

「……息が詰まるね」

 ある日の午後、見舞いに来たサラが、窓の外を巡回する兵士たちを見ながら、吐き捨てるように言った。
「レオンの奴、正気じゃないよ。街の連中も、真っ二つだ。『アキ代表を救え』って言う奴らと、『子供たちを解放しろ』って言う奴らで、いつ暴動が起きてもおかしくない」
「サラさんは……どう思うんですか?」
 俺が尋ねると、彼女はしばらく黙り込んだ後、俺の目をまっすぐに見て言った。
「あたしは、あんたにも、あの子らにも、死んでほしくない。……ただ、それだけさ」

 その答えが、この共同体が抱える、あまりにも痛々しいジレンマのすべてを物語っていた。

 事態が動いたのは、それから一週間後のことだった。
 ドクター・レンが、俺とレオン、そしてサラとジン、エルダーを、彼の研究室に集めた。その顔は、真実を発見してしまった科学者の、深い絶望に彩られていた。

「……結論から言おう」

 レンは、メインモニターに表示された、複雑な遺伝子配列図を指し示した。
「アキ君、君の持つ“抗ウイルス遺伝子”は、単にウイルスに強いだけではなかった。それは、自らの生命エネルギーを、周囲の生命に分け与える、いわば“生命の泉”とも言うべき性質を持っていたんだ」

 研究室に、息を呑む音が響く。
「『夜明けの子供たち』は、その泉から、無意識に力を汲み上げていたに過ぎん。彼らの能力は、君の命を分け与えられたことで生まれた、奇跡だったんだ」
「では、アキは……」と、レオンが掠れた声で問うた。

 レンは、宣告を下す裁判官のように、静かに、そして残酷に告げた。
「このまま泉の枯渇が進めば……アキ君の命は、もって一年だ」

 一年。
 その有限の響きが、俺の心臓を鷲掴みにする。
 ジンは「そんな……」と顔を覆い、サラは壁を殴りつけたい衝動を必死に堪えていた。
 だが、レオンは、意外なほど冷静だった。
「……治療法は」

「道は、二つしかない」
 レンは、震える指でコンソールを操作し、二つの選択肢をモニターに表示した。

【選択肢1:能力封印計画】
 子供たちの能力を完全に封印する装置を起動し、アキからのエネルギー供給を強制的に遮断する。
 → 結果:アキは生き永らえる。だが、子供たちの進化は止まり、彼らは二度と力を使えなくなる。

【選択肢2:生命の継承】
 アキが、自らの意志で、残された全ての生命エネルギーを子供たちに捧げ、その進化を完成させる。
 → 結果:子供たちの能力は安定し、人類は新たなステージへと進化する。だが、泉の主であるアキは、その瞬間に命を終える。

 静寂が、落ちる。
 生きるか、死ぬか。
 進化か、停滞か。
 俺の命は、人類の未来そのものと、天秤にかけられたのだ。

 全員が、俺を見ていた。俺の決断を、待っていた。
 俺が、口を開こうとした、その時だった。

「――話は、それだけか」

 レオンが、静かに一歩、前に出た。
 彼は俺ではなく、ドクター・レンを、射殺さんばかりの瞳で睨みつけていた。

「ならば、選択の余地などない。道1を選ぶ。直ちに、能力封印装置の開発を最優先で進めろ」
「レオン!?」
 サラとジンが、同時に叫んだ。
「あんた、正気かい!? アキの意見も聞かずに……!」
「これは、アキ一人の問題じゃないんだぞ!」

 だが、レオンは彼らに目もくれなかった。
 彼は、ただ俺だけを見ていた。その瞳は、もはや狂気ではなく、悲しいほどに純粋な、一つの覚悟に満ちていた。

「もう誰も失わない」

 彼は、まるで自分自身に言い聞かせるように、呟いた。
「俺は、かつて守れなかったものが多すぎる。家族も、上官も……。だが、お前だけは、絶対に失わん」

 それは、彼の“愛の形”そのものだった。
 たとえ、世界中を敵に回しても。
 たとえ、俺自身の願いを踏みにじってでも。
 彼は、ただ俺の命を、守り抜こうとしている。

 その、あまりにも深く、そして独善的な愛の前に、俺は、返す言葉を何一つ、見つけられなかった。
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