悪役令嬢と断罪されたはずなのに、攻略対象全員が「以外ありえない」と言ってきます

ゆっこ

文字の大きさ
2 / 6

2

しおりを挟む
「誰か状況を説明して!」
私の叫びは、大広間に響き渡った。

本来なら、断罪され追放される悪役令嬢が、助けを乞うように泣き叫ぶ……はず。
でも実際には、攻略対象たちが私に跪き、庇い、求婚までしてきている。
むしろ断罪されるべきは誰?という有様だった。

「リディア! 貴様、いつからそんなに男を誑かすような真似を……!」
顔を真っ赤にして吠えたのはアルベルト殿下。
隣のクラリッサは今にも泣き崩れそうに彼の袖を握っている。

「殿下っ、違うんです! リディア様は悪女で……皆さまを惑わせて……っ!」
涙で化粧が崩れたクラリッサが縋りつく姿に、同情の声が上がるどころか――冷たい視線が突き刺さった。

「惑わせているのはどちらだ?」
ルーファスの低い声が響いた。
彼はすっと立ち上がり、眼鏡の奥で光る双眸を殿下へ向ける。

「リディア様がどれほど真摯に学問や政務に励まれていたか、私はよく存じています。くだらぬ嫌がらせなど、する理由がない」

「ルーファス……っ!」
アルベルトが憤るが、彼は意に介さない。

「むしろ、殿下。あなたは近頃政務をおろそかにし、連日クラリッサ嬢と社交に耽っておられるとか」
「なっ……!」

場内がざわめいた。
ざまぁ、と思う気持ちと、ここまで言い切って大丈夫なのかという不安が胸を揺らす。

しかし、それに重ねるようにレオンハルトが前へ踏み出した。
「俺は騎士団長代理として誓える。リディア様がクラリッサ嬢を傷つけた事実は、一切確認されていない」

「そんなの隠してるに決まってるわ!」
クラリッサが悲鳴をあげる。
「だって、だって……わたくしはヒロインなのにっ……!」

……え?
今、なんて言った?

「ヒロイン?」
私が思わず繰り返すと、周囲も首を傾げた。

クラリッサは青ざめ、唇を震わせる。
「い、いえ……違いますの。ただ……ただの言葉のあやで……!」

誤魔化そうとする彼女に、ユリアンが静かに言葉を落とした。
「真実は必ず神の光に照らされる。――クラリッサ嬢、女神の聖印の前で誓えますか? 『リディア様を害したことは一度もない』と」

「っ……!」
クラリッサの肩が震えた。

完全に追い詰められている。
本来なら「断罪イベント」で私がこうなるはずだったのに、役割が逆転していた。

私はといえば、置いてけぼりの気分。
いや、本当にどうしてこうなったの?



混乱の渦の中、隣国の第二王子シリルが一歩前に出た。
「騒ぎはもう十分だろう。リディア嬢、この場を離れよう」

「えっ」
「ここにいても無意味だ。あなたに敵意を向ける者の中で、言葉を尽くす必要はない」

そう言って、彼は私の腰に手を回す。
さらりと自然な動作なのに、熱が走って心臓が跳ねた。

「ちょ、ちょっと……!」
慌てて離れようとするが、彼の腕は強固だった。

「シリル! 勝手なことを!」
アルベルトが叫ぶ。

「勝手? 断罪という茶番に付き合わされる方が迷惑だ。……リディア嬢は我が国に迎えたいほどの人物だ。殿下、これ以上無礼を働けば、国際問題になりかねないぞ」

その言葉に、場内が凍りつく。
国際問題。
その響きは、この夜会を楽しむ貴族たちの心を一瞬で冷やした。

アルベルトの顔は見る見る青ざめ、クラリッサは泣き叫ぶ。

「殿下ぁっ! わたくしを守ってくださいませ! リディア様を罰しなければ、わたくしが悪者になってしまいますのよ!」

――もうなってるけどね。

心の中で小さく呟く私。
だけど声に出す余裕はなかった。
なぜなら、攻略対象たちが次々に近づいてきて、逃げ場を塞いでいったからだ。

「リディア様、今宵は私の馬車でお送りいたします」
ルーファスが真顔で提案する。

「いや、俺が護衛する」
レオンハルトは私の背に回り、剣に手を添える。

「神殿の加護があれば安心です。ぜひ神殿にお越しを」
ユリアンが穏やかに微笑む。

「私の国へ来れば、誰もあなたを断罪できはしない」
シリルが囁く。

――近い。近い近い近い!

四方向から迫るイケメンたち。
断罪イベントどころか、溺愛イベントに切り替わっている。

「ちょ、ちょっと待って! 私は別に誰にも――」
そう言いかけた瞬間、彼らの視線が一斉に私へ突き刺さった。

「リディア様」
「リディア」
「リディア嬢」
「リディア」

呼び方は違うのに、声音は同じ熱を帯びている。

「君以外ありえない」

同時に放たれた言葉に、息が詰まった。



場の混乱をよそに、私は彼らに連れ出されるように大広間を後にした。
背後でアルベルトの怒鳴り声とクラリッサの泣き叫ぶ声が響いていたけれど、もう誰も耳を貸していない。

夜の冷気に包まれた庭園へ出ると、少しだけ頭が冷える。
でも、周囲に立つのは全員攻略対象。
冷静になるどころか、心臓は忙しく跳ね続けていた。

「……どうして、みんな……私を庇ったの?」
思い切って問いかけると、彼らは顔を見合わせ、それぞれが真剣な眼差しを向けてきた。

「当然のことだ」ルーファス。
「守りたいからに決まってる」レオンハルト。
「神が導かれたからです」ユリアン。
「愛しているからだ」シリル。

「…………っ」
息が詰まる。

どの言葉も、逃げ場を塞ぐ。
私の知っているゲームの筋書きなんて、跡形もない。

断罪され破滅するはずだった私は――いまや、攻略対象全員に同時に求愛されるという前代未聞の事態に巻き込まれていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された侯爵令嬢、帝国最強騎士に拾われて溺愛される

夜桜
恋愛
婚約者である元老院議員ディアベルに裏切られ、夜会で婚約破棄を宣言された侯爵令嬢ルイン。 さらにバルコニーから突き落とされ、命を落としかけた彼女を救ったのは、帝国自由騎士であるジョイアだった。 目を覚ましたルインは、落下のショックで記憶を失っていた。 優しく寄り添い守ってくれるジョイアのもとで、失われた過去と本当の自分を探し始める。 一方、ルインが生きていると知ったディアベルと愛人セリエは、再び彼女を排除しようと暗躍する。 しかし、ルインの中に眠っていた錬金術師としての才能が覚醒し、ジョイアや父の助けを得て、裏切った元婚約者に立ち向かう力を取り戻していく。

辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~

香木陽灯
恋愛
 「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」  実の父と義妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。  「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」  「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」  二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。 ※ふんわり設定です。 ※他サイトにも掲載中です。

最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました

めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。 白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。 その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。 それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。 やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり―― 白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。 身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。

悪魔が泣いて逃げ出すほど不幸な私ですが、孤独な公爵様の花嫁になりました

ぜんだ 夕里
恋愛
「伴侶の記憶を食べる悪魔」に取り憑かれた公爵の元に嫁いできた男爵令嬢ビータ。婚約者は皆、記憶を奪われ逃げ出すという噂だが、彼女は平然としていた。なぜなら悪魔が彼女の記憶を食べようとした途端「まずい!ドブの味がする!」と逃げ出したから。 壮絶な過去を持つ令嬢と孤独な公爵の、少し変わった結婚生活が始まる。

婚約破棄された際もらった慰謝料で田舎の土地を買い農家になった元貴族令嬢、野菜を買いにきたベジタリアン第三王子に求婚される

さら
恋愛
婚約破棄された元伯爵令嬢クラリス。 慰謝料代わりに受け取った金で田舎の小さな土地を買い、農業を始めることに。泥にまみれて種を撒き、水をやり、必死に生きる日々。貴族の煌びやかな日々は失ったけれど、土と共に過ごす穏やかな時間が、彼女に新しい幸せをくれる――はずだった。 だがある日、畑に現れたのは野菜好きで有名な第三王子レオニール。 「この野菜は……他とは違う。僕は、あなたが欲しい」 そう言って真剣な瞳で求婚してきて!? 王妃も兄王子たちも立ちはだかる。 「身分違いの恋」なんて笑われても、二人の気持ちは揺るがない。荒れ地を畑に変えるように、愛もまた努力で実を結ぶのか――。

十年間虐げられたお針子令嬢、冷徹侯爵に狂おしいほど愛される。

er
恋愛
十年前に両親を亡くしたセレスティーナは、後見人の叔父に財産を奪われ、物置部屋で使用人同然の扱いを受けていた。義妹ミレイユのために毎日ドレスを縫わされる日々——でも彼女には『星霜の記憶』という、物の過去と未来を視る特別な力があった。隠されていた舞踏会の招待状を見つけて決死の潜入を果たすと、冷徹で美しいヴィルフォール侯爵と運命の再会! 義妹のドレスが破れて大恥、叔父も悪事を暴かれて追放されるはめに。失われた伝説の刺繍技術を復活させたセレスティーナは宮廷筆頭職人に抜擢され、「ずっと君を探していた」と侯爵に溺愛される——

拾った年上侯爵が甘え上手すぎて、よしよししてたら婚約することになりました

星乃和花
恋愛
⭐︎火木土21:00更新ー本編8話・後日談8話⭐︎ 王都の市場で花屋をしているリナは、ある朝―― 路地裏で倒れている“美形の年上男性”を拾ってしまう。 熱で弱っているだけ……のはずが、彼はなぜか距離が近い。 「行かないで」「撫でて」「君がいると回復する」 甘えが上手すぎるうえに、褒め方までずるい。 よしよし看病してあげていたら、いつの間にか毎日市場に現れるようになり、 気づけば花屋は貴族の面会所(?)になっていて―― しかも彼の正体は、王都を支える侯爵家の当主だった!? 「君は国のために必要だ(※僕が倒れるから)」 年上当主の“甘え策略”に、花屋の心臓は今日ももたない。 ほのぼの王都日常コメディ×甘やかし捕獲ラブ、開幕です。

「その他大勢」の一人で構いませんので

和島逆
恋愛
社交界で『壁の花』ならぬ『壁のマンドラゴラ』という異名を持つマグダレーナ。 今日も彼女は夜会の壁に張りつき、趣味の人間観察に精を出す。 最近のお気に入りは、伯爵家の貴公子であるエリアス。容姿・家柄ともに申し分なく、年頃の令嬢たちから熱い視線を送られている。 そんなエリアスが選んだのは、なんと『壁のマンドラゴラ』であるマグダレーナで──? 「いや、わたしはあくまでも『その他大勢』の一人で構わないので」 マグダレーナは速攻で断りを入れるのであった。

処理中です...