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「誰か状況を説明して!」
私の叫びは、大広間に響き渡った。
本来なら、断罪され追放される悪役令嬢が、助けを乞うように泣き叫ぶ……はず。
でも実際には、攻略対象たちが私に跪き、庇い、求婚までしてきている。
むしろ断罪されるべきは誰?という有様だった。
「リディア! 貴様、いつからそんなに男を誑かすような真似を……!」
顔を真っ赤にして吠えたのはアルベルト殿下。
隣のクラリッサは今にも泣き崩れそうに彼の袖を握っている。
「殿下っ、違うんです! リディア様は悪女で……皆さまを惑わせて……っ!」
涙で化粧が崩れたクラリッサが縋りつく姿に、同情の声が上がるどころか――冷たい視線が突き刺さった。
「惑わせているのはどちらだ?」
ルーファスの低い声が響いた。
彼はすっと立ち上がり、眼鏡の奥で光る双眸を殿下へ向ける。
「リディア様がどれほど真摯に学問や政務に励まれていたか、私はよく存じています。くだらぬ嫌がらせなど、する理由がない」
「ルーファス……っ!」
アルベルトが憤るが、彼は意に介さない。
「むしろ、殿下。あなたは近頃政務をおろそかにし、連日クラリッサ嬢と社交に耽っておられるとか」
「なっ……!」
場内がざわめいた。
ざまぁ、と思う気持ちと、ここまで言い切って大丈夫なのかという不安が胸を揺らす。
しかし、それに重ねるようにレオンハルトが前へ踏み出した。
「俺は騎士団長代理として誓える。リディア様がクラリッサ嬢を傷つけた事実は、一切確認されていない」
「そんなの隠してるに決まってるわ!」
クラリッサが悲鳴をあげる。
「だって、だって……わたくしはヒロインなのにっ……!」
……え?
今、なんて言った?
「ヒロイン?」
私が思わず繰り返すと、周囲も首を傾げた。
クラリッサは青ざめ、唇を震わせる。
「い、いえ……違いますの。ただ……ただの言葉のあやで……!」
誤魔化そうとする彼女に、ユリアンが静かに言葉を落とした。
「真実は必ず神の光に照らされる。――クラリッサ嬢、女神の聖印の前で誓えますか? 『リディア様を害したことは一度もない』と」
「っ……!」
クラリッサの肩が震えた。
完全に追い詰められている。
本来なら「断罪イベント」で私がこうなるはずだったのに、役割が逆転していた。
私はといえば、置いてけぼりの気分。
いや、本当にどうしてこうなったの?
混乱の渦の中、隣国の第二王子シリルが一歩前に出た。
「騒ぎはもう十分だろう。リディア嬢、この場を離れよう」
「えっ」
「ここにいても無意味だ。あなたに敵意を向ける者の中で、言葉を尽くす必要はない」
そう言って、彼は私の腰に手を回す。
さらりと自然な動作なのに、熱が走って心臓が跳ねた。
「ちょ、ちょっと……!」
慌てて離れようとするが、彼の腕は強固だった。
「シリル! 勝手なことを!」
アルベルトが叫ぶ。
「勝手? 断罪という茶番に付き合わされる方が迷惑だ。……リディア嬢は我が国に迎えたいほどの人物だ。殿下、これ以上無礼を働けば、国際問題になりかねないぞ」
その言葉に、場内が凍りつく。
国際問題。
その響きは、この夜会を楽しむ貴族たちの心を一瞬で冷やした。
アルベルトの顔は見る見る青ざめ、クラリッサは泣き叫ぶ。
「殿下ぁっ! わたくしを守ってくださいませ! リディア様を罰しなければ、わたくしが悪者になってしまいますのよ!」
――もうなってるけどね。
心の中で小さく呟く私。
だけど声に出す余裕はなかった。
なぜなら、攻略対象たちが次々に近づいてきて、逃げ場を塞いでいったからだ。
「リディア様、今宵は私の馬車でお送りいたします」
ルーファスが真顔で提案する。
「いや、俺が護衛する」
レオンハルトは私の背に回り、剣に手を添える。
「神殿の加護があれば安心です。ぜひ神殿にお越しを」
ユリアンが穏やかに微笑む。
「私の国へ来れば、誰もあなたを断罪できはしない」
シリルが囁く。
――近い。近い近い近い!
四方向から迫るイケメンたち。
断罪イベントどころか、溺愛イベントに切り替わっている。
「ちょ、ちょっと待って! 私は別に誰にも――」
そう言いかけた瞬間、彼らの視線が一斉に私へ突き刺さった。
「リディア様」
「リディア」
「リディア嬢」
「リディア」
呼び方は違うのに、声音は同じ熱を帯びている。
「君以外ありえない」
同時に放たれた言葉に、息が詰まった。
場の混乱をよそに、私は彼らに連れ出されるように大広間を後にした。
背後でアルベルトの怒鳴り声とクラリッサの泣き叫ぶ声が響いていたけれど、もう誰も耳を貸していない。
夜の冷気に包まれた庭園へ出ると、少しだけ頭が冷える。
でも、周囲に立つのは全員攻略対象。
冷静になるどころか、心臓は忙しく跳ね続けていた。
「……どうして、みんな……私を庇ったの?」
思い切って問いかけると、彼らは顔を見合わせ、それぞれが真剣な眼差しを向けてきた。
「当然のことだ」ルーファス。
「守りたいからに決まってる」レオンハルト。
「神が導かれたからです」ユリアン。
「愛しているからだ」シリル。
「…………っ」
息が詰まる。
どの言葉も、逃げ場を塞ぐ。
私の知っているゲームの筋書きなんて、跡形もない。
断罪され破滅するはずだった私は――いまや、攻略対象全員に同時に求愛されるという前代未聞の事態に巻き込まれていた。
私の叫びは、大広間に響き渡った。
本来なら、断罪され追放される悪役令嬢が、助けを乞うように泣き叫ぶ……はず。
でも実際には、攻略対象たちが私に跪き、庇い、求婚までしてきている。
むしろ断罪されるべきは誰?という有様だった。
「リディア! 貴様、いつからそんなに男を誑かすような真似を……!」
顔を真っ赤にして吠えたのはアルベルト殿下。
隣のクラリッサは今にも泣き崩れそうに彼の袖を握っている。
「殿下っ、違うんです! リディア様は悪女で……皆さまを惑わせて……っ!」
涙で化粧が崩れたクラリッサが縋りつく姿に、同情の声が上がるどころか――冷たい視線が突き刺さった。
「惑わせているのはどちらだ?」
ルーファスの低い声が響いた。
彼はすっと立ち上がり、眼鏡の奥で光る双眸を殿下へ向ける。
「リディア様がどれほど真摯に学問や政務に励まれていたか、私はよく存じています。くだらぬ嫌がらせなど、する理由がない」
「ルーファス……っ!」
アルベルトが憤るが、彼は意に介さない。
「むしろ、殿下。あなたは近頃政務をおろそかにし、連日クラリッサ嬢と社交に耽っておられるとか」
「なっ……!」
場内がざわめいた。
ざまぁ、と思う気持ちと、ここまで言い切って大丈夫なのかという不安が胸を揺らす。
しかし、それに重ねるようにレオンハルトが前へ踏み出した。
「俺は騎士団長代理として誓える。リディア様がクラリッサ嬢を傷つけた事実は、一切確認されていない」
「そんなの隠してるに決まってるわ!」
クラリッサが悲鳴をあげる。
「だって、だって……わたくしはヒロインなのにっ……!」
……え?
今、なんて言った?
「ヒロイン?」
私が思わず繰り返すと、周囲も首を傾げた。
クラリッサは青ざめ、唇を震わせる。
「い、いえ……違いますの。ただ……ただの言葉のあやで……!」
誤魔化そうとする彼女に、ユリアンが静かに言葉を落とした。
「真実は必ず神の光に照らされる。――クラリッサ嬢、女神の聖印の前で誓えますか? 『リディア様を害したことは一度もない』と」
「っ……!」
クラリッサの肩が震えた。
完全に追い詰められている。
本来なら「断罪イベント」で私がこうなるはずだったのに、役割が逆転していた。
私はといえば、置いてけぼりの気分。
いや、本当にどうしてこうなったの?
混乱の渦の中、隣国の第二王子シリルが一歩前に出た。
「騒ぎはもう十分だろう。リディア嬢、この場を離れよう」
「えっ」
「ここにいても無意味だ。あなたに敵意を向ける者の中で、言葉を尽くす必要はない」
そう言って、彼は私の腰に手を回す。
さらりと自然な動作なのに、熱が走って心臓が跳ねた。
「ちょ、ちょっと……!」
慌てて離れようとするが、彼の腕は強固だった。
「シリル! 勝手なことを!」
アルベルトが叫ぶ。
「勝手? 断罪という茶番に付き合わされる方が迷惑だ。……リディア嬢は我が国に迎えたいほどの人物だ。殿下、これ以上無礼を働けば、国際問題になりかねないぞ」
その言葉に、場内が凍りつく。
国際問題。
その響きは、この夜会を楽しむ貴族たちの心を一瞬で冷やした。
アルベルトの顔は見る見る青ざめ、クラリッサは泣き叫ぶ。
「殿下ぁっ! わたくしを守ってくださいませ! リディア様を罰しなければ、わたくしが悪者になってしまいますのよ!」
――もうなってるけどね。
心の中で小さく呟く私。
だけど声に出す余裕はなかった。
なぜなら、攻略対象たちが次々に近づいてきて、逃げ場を塞いでいったからだ。
「リディア様、今宵は私の馬車でお送りいたします」
ルーファスが真顔で提案する。
「いや、俺が護衛する」
レオンハルトは私の背に回り、剣に手を添える。
「神殿の加護があれば安心です。ぜひ神殿にお越しを」
ユリアンが穏やかに微笑む。
「私の国へ来れば、誰もあなたを断罪できはしない」
シリルが囁く。
――近い。近い近い近い!
四方向から迫るイケメンたち。
断罪イベントどころか、溺愛イベントに切り替わっている。
「ちょ、ちょっと待って! 私は別に誰にも――」
そう言いかけた瞬間、彼らの視線が一斉に私へ突き刺さった。
「リディア様」
「リディア」
「リディア嬢」
「リディア」
呼び方は違うのに、声音は同じ熱を帯びている。
「君以外ありえない」
同時に放たれた言葉に、息が詰まった。
場の混乱をよそに、私は彼らに連れ出されるように大広間を後にした。
背後でアルベルトの怒鳴り声とクラリッサの泣き叫ぶ声が響いていたけれど、もう誰も耳を貸していない。
夜の冷気に包まれた庭園へ出ると、少しだけ頭が冷える。
でも、周囲に立つのは全員攻略対象。
冷静になるどころか、心臓は忙しく跳ね続けていた。
「……どうして、みんな……私を庇ったの?」
思い切って問いかけると、彼らは顔を見合わせ、それぞれが真剣な眼差しを向けてきた。
「当然のことだ」ルーファス。
「守りたいからに決まってる」レオンハルト。
「神が導かれたからです」ユリアン。
「愛しているからだ」シリル。
「…………っ」
息が詰まる。
どの言葉も、逃げ場を塞ぐ。
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