婚約破棄された悪役令嬢、なぜかモテ期が来た件

ゆっこ

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──ローデンベルク領、書斎。

エリザベートは静かに蝋燭の火を灯し、机の上に封をされたままの手紙を置いた。

「……ジークフリート殿下、これはずいぶんと手間のかかる“招待状”ですわね」

それは王宮から密使によって届けられた、極秘文書。

封蝋には王家の紋章ではなく、黒の鷹と剣──軍部直属の印章。

“第三の計画”と記されたその手紙は、単なる恋文でも求婚でもない。明らかに国家機密に触れる内容だ。

彼女は封蝋を慎重に剥がし、羊皮紙を広げる。

 

ローデンベルク嬢へ。

貴女の才覚と判断力は、これまでに十分示されてきました。
そこで、私から一つ、非公式ながら提案があります。

王国軍内における“第三の計画”──それは、近年の帝国との外交、軍事、経済の三方向を同時に見据えた【複合戦略】であり、現在、極秘裏に構築が進められております。

王宮内の一部においては、既にこの動きに反発する“古き派閥”の存在も確認されています。

私は貴女に、次の三つの役割のいずれか、あるいはすべてを担ってほしいと願っています。

一、計画に基づく人材調整(新設機関の人事)
二、辺境貴族との交渉(とくにラウベル方面)
三、魔法省および学術機関との連携構築

※加えて、貴女個人の“観察対象”として、ルディウス・アルステルの動向も報告していただきたい。

拒否していただいても構いません。ただし、貴女の判断一つでこの国の未来は大きく変わります。

答えは、七日後、王都の西門にて直接お聞きします。

──ジークフリート・フォン・グランシュタイン

「……本気、というわけですのね」

エリザベートは手紙を机に置き、軽く息を吐いた。

王位を狙う第二王子が、自ら“極秘計画”への参加を求めてきた。それはすなわち、彼女を自らの陣営の中心に据えることを意味する。

(……人を見定めてから手を打つ。あの方らしいわ)

同時に、名指しで“監視”対象とされたルディウス・アルステル。

魔法省の特任研究員、奇才、王宮直属の魔導開発官──とさまざまな肩書を持つ男だが、その素性は謎が多すぎる。

(彼が本当に“魔導師”だけなら、問題はないのだけれど)

彼女は手元の記録帳を開いた。

過去数回にわたるルディウスとの面会記録、話した内容、視線の動き、反応の遅速──すべてが記録されていた。

そのどれもが、完璧すぎるほど整っている。

「……貴方、本当にただの“見学者”なのかしら?」

彼女がそう呟いたとき──

「──その問い、私にも答えが欲しいところだ」

ふいに背後から聞こえた声に、エリザベートは即座に扇を構えた。

「……誰です」

「落ち着いてください。あなたのご友人、クラリッサ嬢の紹介で、屋敷に通された者です」

声の主は、黒いフードを被った男。背は高く、影のように静かな動き。

「名を──」

「アラン。姓は不要です。私は、情報を売る者です」

「……貴方が?」

アランは彼女に一枚の黒い封書を差し出した。

「“第三の計画”に動いたことで、あなたに刺さる“刃”が一つ、王宮で研がれ始めています。これは、その情報です」

エリザベートは封を開き、中身を確認する。そこに書かれていたのは──

ローデンベルク嬢の旧友、リリアーナ・エストレイアが
密かに王宮の第一派閥と接触中。

内容は未確定だが、“エリザベートに関する件”との報告あり。

「リリアーナ……あの子が?」

リリアーナ・エストレイア。貴族院時代、エリザベートの取り巻きの一人だったが、婚約破棄事件以後は没交渉となっていた。

「今さら何を狙っているの?」

「“復讐”、ではなく、“利用”です。彼女は今、王妃ではなく、王妃を敵視する旧貴族派と動いています。すでに貴女の名は、彼らの“排除対象”に載っている」

「……私を“排除”?」

エリザベートは短く笑った。

「たった今、王宮の第二王子に“次世代の頭脳”として選ばれたばかりの女を、よくもまあ」

「彼らにとっては“今のうち”なのです。牙を剥かれる前に、毒を仕込むか、足元を掬うか」

「その情報、信じてよいのですか?」

「ええ。私は真実を売る男ですから」

「なら、値段は?」

「この国が、貴女にどう報いるのか。その様子を、この目で見届けること。それが私の報酬です」

アランはそう言い残し、まるで風のように部屋を去っていった。

──翌日、エリザベートはクラリッサを呼び出し、さっそく調査を命じた。

「リリアーナ・エストレイアの動向、王都で探って。周辺の使用人でも、護衛でもいい。動きのある者がいれば報告して」

「承知いたしました、エリザベート様」

クラリッサはその命を受け、すぐさま馬車を手配して王都へ向かった。

そしてエリザベートは、再び手元の手紙に目を戻した。

ジークフリートの“第三の計画”。

リリアーナと旧派閥の陰謀。

ルディウス・アルステルという名の観察対象。

──それに加えて、今なお沈黙を守るカイル・ラウベルからの書簡も、未開封のままだった。

「……辺境から始まった火が、王都に届く日も近いわね」

彼女はゆっくりと椅子に腰掛けた。

選択肢は多い。だが選べるのは、いずれ一つ。

「ならば、最も高く、最も危険な道を選ぶまでですわ」

その瞬間、使用人が扉を叩く。

「エリザベート様、ルディウス・アルステル様がお見えになっております」

──やはり、動いてきた。

エリザベートは立ち上がり、ドアの前で一度だけ深く息を吐いた。

「通してちょうだい」

ルディウスが何を持ってくるのか、それはまだ分からない。

だが、この訪問は偶然ではない。

ゲームは進んでいる。

ただの“悪役令嬢”では終わらないと証明するために──

彼女は再び、舞台の中央に立つ。

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