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「ユリアナを連れてこい!!」
王城に響き渡る怒号。
壁が砕けるほど、アルフォンスは拳を叩きつけていた。
(俺以外の誰が、ユリアナを幸せにできる?)
自分で「いらない」と言い捨てたことを棚に上げ、焦燥だけを募らせる。
(あいつは俺のものだ。俺が選んだ女だ)
狂気はすでに歯止めを失っていた。
「君を迎えに来た」
王都にそびえる大神殿前。
鎧で武装した騎士団を率いて、王太子レオンハルトがユリアナの前に跪く。
「正式に――聖女ユリアナ。俺の妃となってくれ」
兵たちの視線が集中し、群衆がざわつく。
(逃げ道を断つつもりね)
王太子の瞳は強く、誠実だった。
ユリアナはその気持ちを確かに感じた。
だがその手の背後から、すっと温かな影が寄り添う。
「ユリアナは、俺と共に生きる」
リオンが静かに、だが誰よりも強く言い切る。
二人の王族。
一人の聖女。
緊張が張り詰めるその時――。
「ユリアナぁああああ!!」
狂った叫びが響く。
アルフォンスが兵を押しのけ、ナイフを手に突進してきた。
ユリアナの喉元めがけて刃が振り上げられ――
「させるか!!」
リオンが身を投げ出し、ユリアナを抱き寄せた。
刃は空を裂き、石畳に弾ける。
「離せぇ!あいつは俺の婚約者だ!!俺の!!」
アルフォンスは叫びながらリオンに殴りかかる。
だがその姿に、王太子の声が冷たく突き刺さる。
「――お前はもう、王太子位剥奪と爵位返上が決まっている」
「な、に……?」
「国益を損ない、多くを欺いた。
聖女を不当に追放した罪も重い」
騎士たちがアルフォンスを取り囲む。
「違う……違う違う違う!俺は正しい!
あいつは無能で、無属性で――!」
ユリアナは一歩前に出た。
かつて愛した相手へ、最初で最後の言葉。
「私は無属性ではありません。
ただ、あなたが私を見ようとしなかっただけ」
アルフォンスの顔が引きつる。
「だって……お前は……」
「“いらない”と、あなたが言ったの」
ユリアナは淡々と告げる。
「だから私は――
私を必要としてくれる人の傍へ行きます」
その言葉は刃より鋭く、彼の心臓を貫いた。
「ざまぁみなさい」
周囲の誰もが静かに頷いた。
アルフォンスの膝が崩れ落ちる。
「嫌だぁああああ!!」
その惨めな叫びを背に、ユリアナは振り返らない。
(泣く価値すらない男)
リオンがそっと手を差し出す。
「君の選ぶ未来は?」
迷いは、もうなかった。
ユリアナはその手を取り、微笑む。
「リオンの隣で、生きる未来で」
リオンの表情が、ようやく安堵に満ちる。
王太子レオンハルトは短く息を吐き、二人を見つめた。
「……覚悟の上か?」
「はい。私は私の意志で、彼を選びました」
レオンハルトは苦笑し、手を胸に当てて一礼した。
「ならば祝福しよう。どうか友国として、良き関係を築けることを願う」
「ありがとうございます」
ユリアナは深く頭を下げた。
その日の夕刻。
ユリアナは王都の大聖堂前で、リオンと向かい合う。
「もう二度と……君を手放さない」
真剣な瞳。
ユリアナの胸がぎゅっと締めつけられる。
「私も……あなたと共にいたい。
ずっと、これから先も」
「なら――」
リオンは小さな指輪を取り出した。
銀色に光るそれは、彼の瞳と同じ色。
「結婚しよう、ユリアナ」
瞳が潤む。
胸が満たされる。
「はい……喜んで」
指輪が薬指にはめられたその瞬間――
(ああ。私は“愛されている”)
初めて、心からそう思えた。
リオンは優しく抱き寄せ、額にキスを落とす。
「愛してる。俺の聖女」
「私も……
愛しています。私の王子様」
涙が頬を伝い――
二人は、夕日色のキスを交わした。
城の地下牢。
「ユリアナぁぁあああ!!
俺を見捨てるなぁあ!!」
アルフォンスの叫びは虚しく響く。
誰も振り返らない。
彼が捨てた女は、自らの未来を掴み取った。
そして彼は――
自分の愚かさと向き合い、朽ちていく。
ざまぁ。
その後。
イーゼン王国にて盛大な婚礼が行われ――
全属性聖女ユリアナと
竜王子リオンの愛は、国境を越えて語り継がれた。
王太子レオンハルトは友として祝福し、
彼らの国は良き同盟国となった。
ユリアナは笑う。
もう二度と「いらない」と言われる日など来ない。
――だって彼が、必要としてくれるから。
手と手を重ねながら、リオンが囁く。
「これからも、一緒に」
「はい。ずっと」
王城に響き渡る怒号。
壁が砕けるほど、アルフォンスは拳を叩きつけていた。
(俺以外の誰が、ユリアナを幸せにできる?)
自分で「いらない」と言い捨てたことを棚に上げ、焦燥だけを募らせる。
(あいつは俺のものだ。俺が選んだ女だ)
狂気はすでに歯止めを失っていた。
「君を迎えに来た」
王都にそびえる大神殿前。
鎧で武装した騎士団を率いて、王太子レオンハルトがユリアナの前に跪く。
「正式に――聖女ユリアナ。俺の妃となってくれ」
兵たちの視線が集中し、群衆がざわつく。
(逃げ道を断つつもりね)
王太子の瞳は強く、誠実だった。
ユリアナはその気持ちを確かに感じた。
だがその手の背後から、すっと温かな影が寄り添う。
「ユリアナは、俺と共に生きる」
リオンが静かに、だが誰よりも強く言い切る。
二人の王族。
一人の聖女。
緊張が張り詰めるその時――。
「ユリアナぁああああ!!」
狂った叫びが響く。
アルフォンスが兵を押しのけ、ナイフを手に突進してきた。
ユリアナの喉元めがけて刃が振り上げられ――
「させるか!!」
リオンが身を投げ出し、ユリアナを抱き寄せた。
刃は空を裂き、石畳に弾ける。
「離せぇ!あいつは俺の婚約者だ!!俺の!!」
アルフォンスは叫びながらリオンに殴りかかる。
だがその姿に、王太子の声が冷たく突き刺さる。
「――お前はもう、王太子位剥奪と爵位返上が決まっている」
「な、に……?」
「国益を損ない、多くを欺いた。
聖女を不当に追放した罪も重い」
騎士たちがアルフォンスを取り囲む。
「違う……違う違う違う!俺は正しい!
あいつは無能で、無属性で――!」
ユリアナは一歩前に出た。
かつて愛した相手へ、最初で最後の言葉。
「私は無属性ではありません。
ただ、あなたが私を見ようとしなかっただけ」
アルフォンスの顔が引きつる。
「だって……お前は……」
「“いらない”と、あなたが言ったの」
ユリアナは淡々と告げる。
「だから私は――
私を必要としてくれる人の傍へ行きます」
その言葉は刃より鋭く、彼の心臓を貫いた。
「ざまぁみなさい」
周囲の誰もが静かに頷いた。
アルフォンスの膝が崩れ落ちる。
「嫌だぁああああ!!」
その惨めな叫びを背に、ユリアナは振り返らない。
(泣く価値すらない男)
リオンがそっと手を差し出す。
「君の選ぶ未来は?」
迷いは、もうなかった。
ユリアナはその手を取り、微笑む。
「リオンの隣で、生きる未来で」
リオンの表情が、ようやく安堵に満ちる。
王太子レオンハルトは短く息を吐き、二人を見つめた。
「……覚悟の上か?」
「はい。私は私の意志で、彼を選びました」
レオンハルトは苦笑し、手を胸に当てて一礼した。
「ならば祝福しよう。どうか友国として、良き関係を築けることを願う」
「ありがとうございます」
ユリアナは深く頭を下げた。
その日の夕刻。
ユリアナは王都の大聖堂前で、リオンと向かい合う。
「もう二度と……君を手放さない」
真剣な瞳。
ユリアナの胸がぎゅっと締めつけられる。
「私も……あなたと共にいたい。
ずっと、これから先も」
「なら――」
リオンは小さな指輪を取り出した。
銀色に光るそれは、彼の瞳と同じ色。
「結婚しよう、ユリアナ」
瞳が潤む。
胸が満たされる。
「はい……喜んで」
指輪が薬指にはめられたその瞬間――
(ああ。私は“愛されている”)
初めて、心からそう思えた。
リオンは優しく抱き寄せ、額にキスを落とす。
「愛してる。俺の聖女」
「私も……
愛しています。私の王子様」
涙が頬を伝い――
二人は、夕日色のキスを交わした。
城の地下牢。
「ユリアナぁぁあああ!!
俺を見捨てるなぁあ!!」
アルフォンスの叫びは虚しく響く。
誰も振り返らない。
彼が捨てた女は、自らの未来を掴み取った。
そして彼は――
自分の愚かさと向き合い、朽ちていく。
ざまぁ。
その後。
イーゼン王国にて盛大な婚礼が行われ――
全属性聖女ユリアナと
竜王子リオンの愛は、国境を越えて語り継がれた。
王太子レオンハルトは友として祝福し、
彼らの国は良き同盟国となった。
ユリアナは笑う。
もう二度と「いらない」と言われる日など来ない。
――だって彼が、必要としてくれるから。
手と手を重ねながら、リオンが囁く。
「これからも、一緒に」
「はい。ずっと」
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