断罪された悪役令嬢ですが、攻略対象全員がなぜか私に跪きます

ゆっこ

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「アリシア・フォン・レーヴェンハルト。貴様の罪は万死に値する!」

 白い大理石の大広間に、王太子クリストファー殿下の怒声が轟き渡る。
 集められた貴族たちの視線が私に突き刺さった。

 麗しく整った顔立ち。金の髪をなびかせ、美しくも残酷な笑みを浮かべる王太子殿下。
 その隣には、薄ピンクの髪を揺らしながら震える小鹿のような少女──聖女候補のリリア嬢。

 私が婚約者である彼女をいじめたのだと、そう言いたい奴らばかり。

 まったく、笑わせてくれる。

 私はレーヴェンハルト公爵家の長女。誰よりこの国の安寧のために奔走してきた。
 その中で、裏切り者の暴露、魔物討伐の資金援助、そして、国の腐敗した貴族たちの摘発……
 すべて私の手で裏から行ってきた。

 そしてその過程で、聖女候補リリア嬢の裏の顔──
 己の力と美貌を利用し、王太子をたぶらかす小悪魔だと知ったのに。

 だが誰も信じなかった。
 都合の悪い真実は、隠される。

 その結果がこれだ。

 婚約破棄。そして、断罪。

「アリシア、お前はリリアを陥れ、嫉妬に狂って暴走した。その罪を認めるな!」

「殿下。証拠はございますの? 妄想で断罪なさるのは王族の振る舞いとは思えません」

「黙れ! 貴様の狡猾な嘘にはもう騙されん!」

 大広間がどよめいた。

 ふふ、いいわ。
 ならば好きにするがいい。

 私はこれから“解放”されるのだから。

「──この瞬間を、心よりお待ちしておりましたわ、殿下」

 皮肉をたっぷり込めてそう告げると、王太子の顔が真っ赤に染まった。

「アリシア……ッ!」

「では皆様、さようなら。
 愚かな王太子と、その傾国の聖女様に幸多からんことを」

 くるりと踵を返し、私は背筋を伸ばしてその場を後にした。
 まるで王宮など、取るに足らぬ場所であるかのように。

──だが、そのとき。

「アリシア様を、断罪? 冗談も大概にしろ」

 低く、凍てつくような声が響いた。

 皆が一斉に振り返る。

 そこにいたのは、銀髪の青年──
 騎士団長であり攻略対象の一人、レオン・ベルトラン卿。
 氷の瞳を王太子に向ける彼は、私へと一歩進み出て跪いた。

「貴女は我ら騎士団にとって恩人。
 魔物討伐の裏に誰の働きがあったのか、知らぬ者はいません」

「レ、レオン卿……貴様、これは何の真似だ!」

「真実を述べているだけです、殿下」

 周囲がざわつく。
 レオンは剣を抜くと、私に忠誠の意を示すように地へと突き立てた。

「アリシア様。どうか、私に仕える機会をお与えください」

「……っ」

 その言葉に、私の背筋がわずかに震えた。

 だが、驚きはまだ続く。

「それは困るな。アリシアは私のだ」

 今度はしなやかで艶やかな声。
 現れたのは漆黒の髪──隣国の王子であるルーファス殿下。

 彼は王太子をあざ笑うように目を細めた。

「愚かな婚約者殿。宝の持ち腐れも甚だしい」

 王宮に戦慄が走る。

「る、ルーファス殿下……なぜここに……?」

「彼女に招かれたからだ。
 ……いや、招かれたかったのだが、君が勝手に断罪などと言い出したのでね」

 ルーファスは私の手をとり、優雅にキスを落とす。

「アリシア。隣国へ来ないか? 私が、君にふさわしい地位も愛も、すべて捧げよう」

「な、なんだと!?」

 王太子の怒号が響くが、彼の言葉に対してさらに上書きするように──

「アリシア嬢は僕が守る」

 天才魔法使いとして名高い、青髪の少年──攻略対象の一人、ノア・アルフォートが歩み出てくる。
 年若いながら魔法学院最高位の実力者である彼は、私に向けて深く頭を垂れた。

「僕を……アリシア嬢の従者にしてください。
 僕は貴女のためだけの魔法を使います」

「ノア……あなたまで……」

 王太子は真っ青になっていた。
 だが、まだ終わらない。

「お前たち、勝手なことを言うな!」

 彼の叫びを遮ったのは──大貴族出身の青年、アレクシス・ヴァレンタイン。
 王太子の側近でもあった彼までもが、王太子の前に立ち塞がった。

「殿下。貴方は愚かだ。リリア嬢では国は守れぬ。
 アリシア様こそが、この国の未来だ」

 アレクシスは私の前に片膝をつき、白手袋の指先が私の手をすくい上げた。

「貴方を愛する者は、ここにこれほどいる。
 どうか……私を選んではいただけませんか?」

 攻略対象全員が、私一人に跪いている。

 絶句する王太子。
 涙ぐむ“聖女”リリア。
 ざわめき立つ貴族たち。

 信じられない光景。

「どうして……なぜ、あなたたちが……?」

 私は思わず震える声で問いかけた。

 すると、レオンが静かに答えた。

「アリシア様は、常に人々を救ってきた。
 その功績を偽りで塗り潰した連中こそ断罪されるべきです」

「俺たちは知っている。君がどれだけ優しく、強いかを」

 ルーファスが微笑む。
 ノアが真剣な目で私を見つめる。
アレクシスが優しく手を握りしめる。

「私は……ただ、この国を……」

「わかっています」

 レオンが言い切った。

 胸が熱くなる。
 誰も信じてくれないと思っていた。
 いつも一人で戦っていた。

 けれど彼らは、私を見てくれていた。

 王太子が吠える。

「なぜだ! アリシアは悪女だぞ! お前たちは騙されている!」

「いい加減にしろ」

 レオンの声が冷たく響き、王太子は後ずさった。

「殿下の方こそ、誰に騙されているのか……まだ気づかぬのですか?」

 皆の視線がリリアに向けられる。

 彼女は震え、そして、にやりと歪んだ笑みをこぼした。

「ふーん。バレちゃったみたいね」

 王宮に、ざわめきが広がる。

「リリア嬢……あなた……っ」

「こんな茶番、つまらないわ。
 だって、私は“選ばれた聖女”なんだもの。
 アリシアなんて邪魔でしかなかったし?」

 ああ、やっと仮面を脱ぐ気になったようね。

 私はくすりと笑った。

「殿下。これが真実ですわ。
 私はずっと忠告していましたでしょう?」

 王太子の顔が苦悶に染まる。

「アリシア……すま……」

「遅いですわ」

 きっぱりと告げる。

「私はもう、あなたの傍にはいません」

 そう宣言した瞬間──
 彼ら四人が同時に手を伸ばした。

「では──俺を選べ、アリシア」

「私だ」

「僕を」

「私を……」

 四方から迫る愛と欲と執着。

 胸が激しく脈打つ。

 私は誰を選ぶのか。
 彼らの争奪戦はどこまで続くのか。

 そして、リリアと王太子へのざまぁは、まだ始まったばかりだ。

 さぁ──
 断罪された悪役令嬢の逆転劇は、ここからよ。
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