断罪された悪役令嬢ですが、攻略対象全員がなぜか私に跪きます

ゆっこ

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 王宮の中央広場には、ざわめきが満ちていた。
 集められた民衆、貴族たち。そして断罪劇の舞台に立たされる私――ノエル・ヴィスコンティ。

「ノエル・ヴィスコンティ。あなたは王太子妃として相応しくないと判断された。ゆえに――」

 玉座の上で王太子セドリックが淡々と告げる。
 かつて愛を囁き、手を取り導くと言った男。
 だが今の彼の目には冷たい満足と、隣に控える令嬢エレナへ向けられる甘い期待だけが満ちていた。

「罪を認め、速やかに退廷を――」

 ――その瞬間。

「……黙れ」

 重い声が響いた。
 振り返ると、漆黒の軍服を纏った近衛隊長リアムが、セドリックを睨みつけていた。

「ノエル様を断罪? 笑わせるな。全てはエレナ嬢の虚偽だともう分かっている」

「何だと?」

「証拠はすべて揃っている。貴殿は自らの愚かさを恥じるがいい」

 リアムが片膝をつき、私に剣を捧げる。

「ノエル様が望むならば、私は王太子の首すら落としましょう」

 騒然と広場が揺れた。

「あ……あの……!?」

 さらに視界の端に、銀髪の神官長フェリクスが歩み出てくる。

「神は真実を見逃さない。ノエル様は聖女の加護を持つ清らかな方。偽りを語っていたのは、そちらの小娘だ」

 エレナが顔を真っ青にする。

「う、嘘よ! 全部この女が――」

「貴女こそ、嫉妬と虚栄で罪なき者を陥れた罪人だ。神罰を受けるべきは貴女だ」

 フェリクスも膝をついた。

「どうか、我らを導く慈悲の御手となってください」

「な……なぜ、私に……」

 さらに、魔導師長レオンまでもが前に出てきて、私の指先をそっと取る。

「ずっと好きだった。あの男に囚われ、苦しめられているあなたを見ていられなかった。どうか、俺に力を貸して欲しい」

 青い瞳に真剣な熱が宿っていた。

 そして――最後に現れたのは、豪奢な赤マントを翻す隣国の王太子アレクシス。

「我が国なら、君を世界で一番尊ぶ王妃として迎える。今日ここで連れ帰るつもりだ」

 アレクシスが私の前で跪くと、広場は完全に混乱に飲み込まれた。

 誰もが膝をつき、私を見上げている。

 ――なぜ、こうなった。

 私はただ、婚約者に尽くしたかっただけなのに。
 ただ、愛されたかっただけなのに。

「ノエル、お前は……何をした……!」

 セドリックが叫ぶ。その声は哀れにも震えている。

「私は何もしていません。あなたが……勝手に見捨てただけ」

 静かに言い放つと、セドリックの表情が歪む。

「すまなかった……戻ってきてくれ。お前が必要だ」

「遅い」

 その一言に、セドリックは崩れ落ちた。

 エレナは罪を認めさせられ、遠方の修道院送りが決まった。
 セドリックは王位継承権を剥奪されることとなった。

 ――私の人生は、ようやく自由になった。




 新しい生活の拠点として、私は離宮に住むことになった。
 そこへ、日替わりで彼らが訪れる。

「お茶の淹れ方を覚えました。ノエル様、ぜひ私に淹れさせてください」
 ――リアム

「お祈りの時間です。あなたの隣で神に感謝を捧げることを許してほしい」
 ――フェリクス

「今日は花束を持ってきた。君に似合うと思って」
 ――レオン

「ノエル、舞踏会を開いた。今すぐ隣国に行こう。君は私の妃になるべきだ」
 ――アレクシス

 四人からの恋と忠誠。
 その中心にいる自分が、まだ信じられない。

 夜、テラスで星空を眺めていると、ふいに扉が開いた。

「……起きていたのか」

 リアムがそっと歩み寄る。
 その瞳は、あの日よりも強い光を宿していた。

「ノエル様。私はいつまでも待ち続けます。あなたが誰を選ぼうと、選ばなくとも。あなたが笑っていられるなら、それでいい」

「リアム……」

「ただ、一つだけ。もし許されるのなら――」

 彼がそっと私の手を取る。

「あなたの未来に、私を側に置いてください」

 胸が、熱くなる。
 けれど返事をしようとした瞬間――

 テラスの下から声が響いた。

「ずいぶんと距離が近いな、リアム。ノエル様が困っている。離れろ」

 フェリクスが冷たい笑みを浮かべている。

「夜に女性を一人にしている貴方こそ愚かだな」
 レオンが魔力を揺らめかせる。

「話は全部聞こえていた。ノエルは私と――」
 アレクシスが割り込む。

 また、私の周囲で彼らが揉め始める。
 まったく、どうしてこうなるのだろう。

 私は小さく笑った。

「みんな……落ち着いて」

 四人がハッと私を見る。

「私は……これからゆっくり考えます。自分の人生を、自分で選ぶために」

 その言葉に、誰よりも私が安心していた。

 未来はまだ白紙。
 でも確かに、希望で満ちている。

 だって――

「誓います。ノエル様を必ず幸福に」

 四人が同時に膝をつき、私へと手を伸ばす。

 断罪され、見捨てられた令嬢だった私が。

 今は――
 複数の英雄に跪かれ、愛を捧げられている。

 ざまぁ?
 ええ、それはもちろん。


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