断罪された悪役令嬢ですが、攻略対象全員がなぜか私に跪きます

ゆっこ

文字の大きさ
5 / 6

5

しおりを挟む
 ドラゴンの広い背に乗って王城を飛び出した私は、風を切る爽快さに酔いしれていた。

 ――自由。

 その二文字が胸いっぱいに膨らむ。

 地上からは王太子セオドアたち四人が、魔法や馬を駆使して必死に追いかけてきているのが見えた。

(ふふ……追ってきなさい。
 私を手放したことを、後悔させてあげる)

 空高く舞い上がるドラゴン。彼の鱗は夜空に溶け込む黒だった。

『レイナ。我はお前を助けた。故に、お前は我の妃だ』

「助けたって……勝手に決めないでくれる?」

『しかしお前は頷いた』

「……勢いで言っただけよ」

『勢いでも決定は決定だ』

 ドラゴンのドヤ顔が腹立たしい。
 けれど、どこか頼もしくもあった。




 向かった先は、王国北方にある古の山脈。
 かつてドラゴンが王として君臨していた聖域――ドラゴンフォート。

 着陸と同時に、熱い視線が四方向から突き刺さる。

「レイナ嬢、無事か!?」
「怪我は!? 寒くないですか!?」
「ドラゴンなどと……危険すぎる!」
「レイナ、僕が抱きしめて温めてあげるよ?」

 四人が一斉に駆け寄ってきて、私は思わずのけぞった。

「ちょ、ちょっと近い!」

 途端、四人の視線が交差し、殺気が走る。

「お前たちは帰れ。レイナは我のものだ」
ドラゴンが翼を広げ威嚇する。

 しかし、彼らも引かない。

「違う。レイナ嬢は俺の婚約者だ」
セオドアが剣を抜く。

「レイナ様は私の主です」
レオンが剣を重ねる。

「彼女は私の知性を必要としている」
ウィルフレッドが杖を構える。

「僕が封印を解いたんだから、優先権は僕だよね」
エヴァンスが魔力を迸らせる。

『黙れ小童どもが!!』
ドラゴンが大地を揺るがす咆哮を上げる。

「だ、誰が小童だと!?」
「人間を舐めるな!」
「我々も負けません!」
「勝つのは僕だよ?」

 修羅場。
 いや、これはもう戦争の前夜。

(まったく……男ってどうしてこう……)

 私は深いため息をついた。

「喧嘩はやめなさい!」

 雷のように響かせると、全員びくりと肩を跳ねさせる。

「私の意思を聞きなさい。勝手に決めるな」

 静寂。
 彼らは一斉に膝をつき、私を見上げる。

「レイナ嬢……どうか、ご命令を」
「レイナ様」
「レイナ」
「レイナちゃん」

 名前の呼び方に個性が出ていて少し可笑しい。

(このまま国に戻るわけにはいかないし……)

 私は彼らをゆっくり見渡した。

「これからのことは、ここで考えるわ。
 だからあなた達も――勝手に暴走しないこと。いい?」

 四人は、子犬のように素直に頷いた。

 ただし、その目は炎のようにギラついていたけれど。



 ドラゴンフォートには、かつての王の城が残されていた。
 そこに案内され、私は豪奢な部屋を与えられた。

 夜。部屋で一人、鏡を見る。

 そこには、豹変した自分がいた。
 いや、本来の姿に戻ったのだろう。

 魔力がまとう光。
 背筋を伸ばせば、自然と威厳が生まれる。

(私は……弱い女じゃない)

 そう思った途端、扉がノックされた。

「レイナ」
声と同時に、セオドアが入ってくる。

「こんな夜更けに何の用?」

「……あなたの隣にいたい」

 真っ直ぐな瞳。
 強引で、必死で、……切実。

「俺は、あなたを傷つけた。ずっと後悔していたんだ。
 あなたが断罪される時も……本当は庇いたかった。
 でも、王太子の立場が――」

「言い訳はいらないわ」

 私はそっぽを向いた。
 けれど、その腕がぎゅっと私を抱きしめた。

「これから償わせてください。
 愛で、全部――上書きする」

 耳元に熱い息がかかり、心臓が跳ねる。

(やばい、この距離は反則……!)

 その瞬間。

「レイナ様!! 私は心配で……!」
バターンと扉が開き、レオンが乱入した。

「貴様、今は俺が――!」
セオドアが怒鳴る。

「なにをしているんですか!」
ウィルが眼鏡を光らせ、さらに

「やっぱり僕が先に来るべきだったなぁ」
エヴァンスまで人の部屋に勝手に乱入。

「ちょっ、ちょっと!!」

 私は彼らを睨みつけ、ぴしゃりと言い放つ。

「全員、外へ!!!!」

 四人はしゅんと肩を落として退散した。

(はぁ……落ち着かない……)

 けれど、悪くない。

 心のどこかで、くすぐったい幸福が踊っている。





 翌朝。
 食堂は地獄絵図だった。

『レイナの朝食は我が用意した!!』
ドラゴンが巨大な魚を丸焼きして持ってくる。

「いいや、俺が作る!」
セオドアが料理に挑戦しては黒焦げを量産。

「レイナ様は肉派です!」
レオンが肉を焼くが、レアすぎる。

「胃に優しい食事を……」
ウィルが栄養満点の粥を差し出す。

「僕のスイーツが一番喜ぶよ?」
エヴァンスのケーキは魔力入りでキラキラ光る。

 私は引きつる笑みで言った。

「みんな……ありがとう。
 でも……全部は食べられないわよ?」

 彼らは一斉に互いを睨み合う。

「自分のを食べてもらえると思うな」
「レイナ様に毒を盛る気か?」
「お前の料理は見た目が凶器だ」
「魔力スイーツって危険すぎる」

『我の魚は完璧だ!!』

「いや、それも大概でかいでしょ!!」

 ……カオス。完全にカオス。




(でも……これが今の私)

 王宮で蔑まれ、断罪され、追放された悪役令嬢。
 だが今は――

 四人の美男に溺愛され
 ドラゴンにまで求婚され
 本来の力を解放し
 国を揺るがす存在になった。

(ざまぁよ。
 私を見下した全員に――目にもの見せてやる)

 そこへ、緊迫した声が響いた。

「レイナ様」
血相を変えたレオンが駆けてくる。

「国王軍が……こちらに向かっています!
 おそらく、あなたを奪還するつもりです!」

「ふふ。奪還?
 私を捨てたくせに?」

 唇が自然と笑みに吊り上がった。

「いいわ。迎え撃ちましょう」

 セオドアが剣を抜き、
 ウィルが魔術書を開き、
 エヴァンスが魔力を光らせ、
 ドラゴンが咆哮を上げる。

『レイナの敵は、我々の敵だ』

 私はゆっくり立ち上がる。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています

由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、 悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。 王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。 だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、 冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。 再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。 広場で語られる真実。 そして、無自覚に人を惹きつけてしまう リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。 これは、 悪役令嬢として断罪された少女が、 「誰かの物語の脇役」ではなく、 自分自身の人生を取り戻す物語。 過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、 彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。

婚約破棄された令嬢の細やかな異世界生活

岡暁舟
恋愛
奥手な第一王子クロビッツから婚約破棄を宣告された公爵令嬢のカナエ。与えられた自由に生きる権利。権利を謳歌する令嬢の物語。

悪役令嬢を陥れようとして失敗したヒロインのその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
女伯グリゼルダはもう不惑の歳だが、過去に起こしたスキャンダルが原因で異性から敬遠され未だに独身だった。 二十二年前、グリゼルダは恋仲になった王太子と結託して彼の婚約者である公爵令嬢を陥れようとした。 けれど、返り討ちに遭ってしまい、結局恋人である王太子とも破局してしまったのだ。 ある時、グリゼルダは王都で開かれた仮面舞踏会に参加する。そこで、トラヴィスという年下の青年と知り合ったグリゼルダは彼と恋仲になった。そして、どんどん彼に夢中になっていく。 だが、ある日。トラヴィスは、突然グリゼルダの前から姿を消してしまう。グリゼルダはショックのあまり倒れてしまい、気づいた時には病院のベッドの上にいた。 グリゼルダは、心配そうに自分の顔を覗き込む執事にトラヴィスと連絡が取れなくなってしまったことを伝える。すると、執事は首を傾げた。 そして、困惑した様子でグリゼルダに尋ねたのだ。「トラヴィスって、一体誰ですか? そんな方、この世に存在しませんよね?」と──。

婚約破棄されたので、ミドリアイランドの住人を買収して国を統合します

常野夏子
恋愛
婚約破棄——それは、リリアーナ・ヴァルディスから 「王子の婚約者」という肩書きを奪った。 だが同時に、彼女を縛っていたすべての“正しさ”を解き放つ。 追い出されるように向かった辺境の地、ミドリアイランド。 そこは王国から見捨てられ、 しかし誰の支配にも完全には屈していない、曖昧な土地だった。

悪役令嬢に相応しいエンディング

無色
恋愛
 月の光のように美しく気高い、公爵令嬢ルナティア=ミューラー。  ある日彼女は卒業パーティーで、王子アイベックに国外追放を告げられる。  さらには平民上がりの令嬢ナージャと婚約を宣言した。  ナージャはルナティアの悪い評判をアイベックに吹聴し、彼女を貶めたのだ。  だが彼らは愚かにも知らなかった。  ルナティアには、ミューラー家には、貴族の令嬢たちしか知らない裏の顔があるということを。  そして、待ち受けるエンディングを。

聖女の力は使いたくありません!

三谷朱花
恋愛
目の前に並ぶ、婚約者と、気弱そうに隣に立つ義理の姉の姿に、私はめまいを覚えた。 ここは、私がヒロインの舞台じゃなかったの? 昨日までは、これまでの人生を逆転させて、ヒロインになりあがった自分を自分で褒めていたのに! どうしてこうなったのか、誰か教えて! ※アルファポリスのみの公開です。

【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた

22時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。

追放令嬢の発酵工房 ~味覚を失った氷の辺境伯様が、私の『味噌スープ』で魔力回復(と溺愛)を始めました~

メルファン
恋愛
「貴様のような『腐敗令嬢』は王都に不要だ!」 公爵令嬢アリアは、前世の記憶を活かした「発酵・醸造」だけが生きがいの、少し変わった令嬢でした。 しかし、その趣味を「酸っぱい匂いだ」と婚約者の王太子殿下に忌避され、卒業パーティーの場で、派手な「聖女」を隣に置いた彼から婚約破棄と「北の辺境」への追放を言い渡されてしまいます。 「(北の辺境……! なんて素晴らしい響きでしょう!)」 王都の軟水と生ぬるい気候に満足できなかったアリアにとって、厳しい寒さとミネラル豊富な硬水が手に入る辺境は、むしろ最高の『仕込み』ができる夢の土地。 愛する『麹菌』だけをドレスに忍ばせ、彼女は喜んで追放を受け入れます。 辺境の廃墟でさっそく「発酵生活」を始めたアリア。 三週間かけて仕込んだ『味噌もどき』で「命のスープ」を味わっていると、氷のように美しい、しかし「生」の活力を一切感じさせない謎の男性と出会います。 「それを……私に、飲ませろ」 彼こそが、領地を守る呪いの代償で「味覚」を失い、生きる気力も魔力も枯渇しかけていた「氷の辺境伯」カシウスでした。 アリアのスープを一口飲んだ瞬間、カシウスの舌に、失われたはずの「味」が蘇ります。 「味が、する……!」 それは、彼の枯渇した魔力を湧き上がらせる、唯一の「命の味」でした。 「頼む、君の作ったあの『茶色いスープ』がないと、私は戦えない。君ごと私の城に来てくれ」 「腐敗」と捨てられた令嬢の地味な才能が、最強の辺境伯の「生きる意味」となる。 一方、アリアという「本物の活力源」を失った王都では、謎の「気力減退病」が蔓延し始めており……? 追放令嬢が、発酵と菌への愛だけで、氷の辺境伯様の胃袋と魔力(と心)を掴み取り、溺愛されるまでを描く、大逆転・発酵グルメロマンス!

処理中です...