断罪された悪役令嬢ですが、攻略対象全員がなぜか私に跪きます

ゆっこ

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 ドラゴンの広い背に乗って王城を飛び出した私は、風を切る爽快さに酔いしれていた。

 ――自由。

 その二文字が胸いっぱいに膨らむ。

 地上からは王太子セオドアたち四人が、魔法や馬を駆使して必死に追いかけてきているのが見えた。

(ふふ……追ってきなさい。
 私を手放したことを、後悔させてあげる)

 空高く舞い上がるドラゴン。彼の鱗は夜空に溶け込む黒だった。

『レイナ。我はお前を助けた。故に、お前は我の妃だ』

「助けたって……勝手に決めないでくれる?」

『しかしお前は頷いた』

「……勢いで言っただけよ」

『勢いでも決定は決定だ』

 ドラゴンのドヤ顔が腹立たしい。
 けれど、どこか頼もしくもあった。




 向かった先は、王国北方にある古の山脈。
 かつてドラゴンが王として君臨していた聖域――ドラゴンフォート。

 着陸と同時に、熱い視線が四方向から突き刺さる。

「レイナ嬢、無事か!?」
「怪我は!? 寒くないですか!?」
「ドラゴンなどと……危険すぎる!」
「レイナ、僕が抱きしめて温めてあげるよ?」

 四人が一斉に駆け寄ってきて、私は思わずのけぞった。

「ちょ、ちょっと近い!」

 途端、四人の視線が交差し、殺気が走る。

「お前たちは帰れ。レイナは我のものだ」
ドラゴンが翼を広げ威嚇する。

 しかし、彼らも引かない。

「違う。レイナ嬢は俺の婚約者だ」
セオドアが剣を抜く。

「レイナ様は私の主です」
レオンが剣を重ねる。

「彼女は私の知性を必要としている」
ウィルフレッドが杖を構える。

「僕が封印を解いたんだから、優先権は僕だよね」
エヴァンスが魔力を迸らせる。

『黙れ小童どもが!!』
ドラゴンが大地を揺るがす咆哮を上げる。

「だ、誰が小童だと!?」
「人間を舐めるな!」
「我々も負けません!」
「勝つのは僕だよ?」

 修羅場。
 いや、これはもう戦争の前夜。

(まったく……男ってどうしてこう……)

 私は深いため息をついた。

「喧嘩はやめなさい!」

 雷のように響かせると、全員びくりと肩を跳ねさせる。

「私の意思を聞きなさい。勝手に決めるな」

 静寂。
 彼らは一斉に膝をつき、私を見上げる。

「レイナ嬢……どうか、ご命令を」
「レイナ様」
「レイナ」
「レイナちゃん」

 名前の呼び方に個性が出ていて少し可笑しい。

(このまま国に戻るわけにはいかないし……)

 私は彼らをゆっくり見渡した。

「これからのことは、ここで考えるわ。
 だからあなた達も――勝手に暴走しないこと。いい?」

 四人は、子犬のように素直に頷いた。

 ただし、その目は炎のようにギラついていたけれど。



 ドラゴンフォートには、かつての王の城が残されていた。
 そこに案内され、私は豪奢な部屋を与えられた。

 夜。部屋で一人、鏡を見る。

 そこには、豹変した自分がいた。
 いや、本来の姿に戻ったのだろう。

 魔力がまとう光。
 背筋を伸ばせば、自然と威厳が生まれる。

(私は……弱い女じゃない)

 そう思った途端、扉がノックされた。

「レイナ」
声と同時に、セオドアが入ってくる。

「こんな夜更けに何の用?」

「……あなたの隣にいたい」

 真っ直ぐな瞳。
 強引で、必死で、……切実。

「俺は、あなたを傷つけた。ずっと後悔していたんだ。
 あなたが断罪される時も……本当は庇いたかった。
 でも、王太子の立場が――」

「言い訳はいらないわ」

 私はそっぽを向いた。
 けれど、その腕がぎゅっと私を抱きしめた。

「これから償わせてください。
 愛で、全部――上書きする」

 耳元に熱い息がかかり、心臓が跳ねる。

(やばい、この距離は反則……!)

 その瞬間。

「レイナ様!! 私は心配で……!」
バターンと扉が開き、レオンが乱入した。

「貴様、今は俺が――!」
セオドアが怒鳴る。

「なにをしているんですか!」
ウィルが眼鏡を光らせ、さらに

「やっぱり僕が先に来るべきだったなぁ」
エヴァンスまで人の部屋に勝手に乱入。

「ちょっ、ちょっと!!」

 私は彼らを睨みつけ、ぴしゃりと言い放つ。

「全員、外へ!!!!」

 四人はしゅんと肩を落として退散した。

(はぁ……落ち着かない……)

 けれど、悪くない。

 心のどこかで、くすぐったい幸福が踊っている。





 翌朝。
 食堂は地獄絵図だった。

『レイナの朝食は我が用意した!!』
ドラゴンが巨大な魚を丸焼きして持ってくる。

「いいや、俺が作る!」
セオドアが料理に挑戦しては黒焦げを量産。

「レイナ様は肉派です!」
レオンが肉を焼くが、レアすぎる。

「胃に優しい食事を……」
ウィルが栄養満点の粥を差し出す。

「僕のスイーツが一番喜ぶよ?」
エヴァンスのケーキは魔力入りでキラキラ光る。

 私は引きつる笑みで言った。

「みんな……ありがとう。
 でも……全部は食べられないわよ?」

 彼らは一斉に互いを睨み合う。

「自分のを食べてもらえると思うな」
「レイナ様に毒を盛る気か?」
「お前の料理は見た目が凶器だ」
「魔力スイーツって危険すぎる」

『我の魚は完璧だ!!』

「いや、それも大概でかいでしょ!!」

 ……カオス。完全にカオス。




(でも……これが今の私)

 王宮で蔑まれ、断罪され、追放された悪役令嬢。
 だが今は――

 四人の美男に溺愛され
 ドラゴンにまで求婚され
 本来の力を解放し
 国を揺るがす存在になった。

(ざまぁよ。
 私を見下した全員に――目にもの見せてやる)

 そこへ、緊迫した声が響いた。

「レイナ様」
血相を変えたレオンが駆けてくる。

「国王軍が……こちらに向かっています!
 おそらく、あなたを奪還するつもりです!」

「ふふ。奪還?
 私を捨てたくせに?」

 唇が自然と笑みに吊り上がった。

「いいわ。迎え撃ちましょう」

 セオドアが剣を抜き、
 ウィルが魔術書を開き、
 エヴァンスが魔力を光らせ、
 ドラゴンが咆哮を上げる。

『レイナの敵は、我々の敵だ』

 私はゆっくり立ち上がる。

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