断罪された悪役令嬢ですが、攻略対象全員がなぜか私に跪きます

ゆっこ

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 玉座の間は、まるで冬のように静まり返った。
 国王は蒼白な顔で、膝を折り跪く四人の攻略対象――王太子セオドア、騎士団長レオン、宰相補佐ウィルフレッド、宮廷魔導師エヴァンス――を見下ろしていた。

「お前たちまで……いったい、どういうつもりだ……」

 震える国王の声。
 それは、威厳というより恐怖に満ちている。

「陛下。どうぞご理解ください」
 セオドアがゆっくりと顔を上げた。その瞳は燃えるように熱い。

「私は、レイナ嬢を愛しております」
「っ……!」

 断罪され、追放されるはずの悪役令嬢に――愛を告げる?

 嘘でしょう、と私は心の中で叫びながらも、脈が痛いほどに脈打つのを感じていた。

「愛? 貴様は、リリアーナ嬢と婚約して……!」

「そんな約束、父上が勝手に決めたものです」
「なっ……!」

 セオドアの吐き捨てるような声。
 それがこの国の価値観を真っ向から否定していた。

「私は最初から、レイナ嬢しか見ていませんでした。
 リリアーナ嬢に触れられるたび、胸が冷えるような嫌悪しか覚えなかった」

 会場がざわりと揺れる。
 リリアーナは顔を真っ赤に染め、わなわなと震えながら叫んだ。

「嘘よ! だって……! いつも私を庇ってくれたじゃない! レイナを責めてくれたじゃない!」

「勘違いしないでください」
 セオドアの瞳が冷え、氷の刃になった。

「あなたを庇ったのではない。
 レイナ嬢が傷つかぬよう、あなたが暴走しないよう制していただけです」

「っ、そんな……!」

 リリアーナはその場に崩れ落ちた。

 その瞬間、国王のこめかみがびくりと跳ねる。
 王太子の掌返しは、権力の崩壊に直結する。

「セオドア、お前……! 王太子の立場がどうなるか分かっているのか!」

「はい。ゆえに――捨てる覚悟です」

「っっっ!!?」

 玉座に座る王でさえ、言葉を失った。

 重苦しい沈黙を断ち切るように、レオンが頭を垂れる。

「私は――レイナ様の騎士でありたい。
 ただそれだけです。この命、すべて捧げます」

 続いてウィルフレッドが一歩前へ。

「私は……彼女の知性と気高さに惚れたのです。
 もし彼女が処刑されるなどという未来が来るなら、この国を滅ぼしてでも止める」

「ほ、滅ぼす……だと……?」

 国王の喉がひゅっと鳴った。

 最後にエヴァンスが魔導書を掲げ、ゆるりと笑う。

「レイナ嬢はねぇ、魔力適性が規格外なんだ。
 彼女の力を抑える封印を施したのは、実は僕なんだけど……」

「封印……?」

 国王の顔から血の気が引いた。

「国に都合が悪いほど強かったからね。
 でも、もういいんじゃない? そろそろ本来の力――解放しても」
「エヴァンス、それ以上言うな!」

 国王が顔を真っ青にして怒鳴る。

 なるほど。
 私が“悪役”として仕立て上げられた理由、その核心が垣間見えた。

(私の力が、都合が悪かった……?)

 胸の奥が熱くなり、震えが走る。

 その時、セオドアが私の手をそっと取った。

「レイナ嬢……私は、あなたを守りたい。
 どうか、私の隣に――」

「待て王太子」

 レオンが低く唸るように遮る。

「レイナ様を守るなら、私だ」
「いいや、私だ」ウィルが冷静に被せる。
「いやいや、僕だろう?」とエヴァンスが笑う。

 一斉に視線が激しく交差し、火花が散った。

『誰が彼女の隣に立つのか』

 玉座の間が戦場に変わる瞬間。

「皆さん……落ち着いて。私は……」

 私が言いかけると、国王が机を叩きつけるように立ち上がった。

「ふざけるな!! 王太子、お前は幽閉だ! そこの三人も全員拘束しろ!」

 怒号が響き渡るが――動く者はいない。
 むしろ、騎士や兵士たちがひざまずき、私たちに従うように道を開けた。

「な……ぜ……お前たちまで……?」

 ウィルが微笑む。

「彼らは気づいているのですよ。
 誰が真にこの国を導くのかを」

「レイナ様です」

 その言葉に、私の鼓動が跳ねた。

(私が……?)

 国王は歯を噛み、吐き捨てる。

「貴様ら……謀反か!!」

 その叫びを合図に、魔法陣が床一面に広がる。
 エヴァンスが静かに呟いた。

「封印、解除」

 私の中で何かが弾けた。

 視界が、光で満ちる。
 押し込められていた魔力が一気に噴き上がり、髪がふわりと宙に浮いた。

 国王や貴族たちが絶句する。

「これが……私……?」

「ええ。あなたは――この国で最も強い」

 エヴァンスの声が震える。

 恐怖と悦びが混じった瞳が、私を見つめていた。

「レイナ嬢」
 セオドアが立ち上がる。

「あなたはこれからどうしたい?
 国王に膝を屈し、再び理不尽に従うのか。
 それとも――」

 差し伸べられた手。
 その手を取れば、戻れない。

(でも……)

 私を蔑み、見下し、切り捨てた人々。

 その中でただ一人、私自身がどれほど強いのかも知らなかった。

 胸の中に、静かな決意が満ちていく。

「私は――」

 言いかけた時だった。

 天井が砕け、巨大な影が降り立つ。

『よくぞ呼んでくれたな、我が契約者よ』

 鋭い黄金色の眼。
 比べものにならないほど巨大な翼。
 その存在が空気を震わせる。

「ドラゴン……!?」
「ば、馬鹿な……聖域に封じられていたはず……!」

 国王が震え上がる。

 ドラゴンは私に頭を垂れた。

『人間どもに囚われたお前を、迎えに来た。
 さあ、行こう。我の妃』

「妃っ……!?」
 全員の声が揃った。

 私は――笑ってしまった。

「いいわ。行きましょう」

 ドラゴンが勝ち誇ったように唸り、翼を広げる。

『聞いたか? 我のものだと!』

「待て!!!」

 セオドア、レオン、ウィル、エヴァンスが同時に叫ぶ。

 四人の視線が、炎のような執念を宿して私に向く。

「レイナ嬢は、俺のものだ!!!」
 声が重なり、地の底から響く。

 玉座の間が震えた。

(面白いわ。なら――)

「私を巡って争いなさい。
 誰が一番、私を愛しているのか……証明してみせて?」

 その瞬間、四人の男は一斉に剣や魔力を構えた。

『愚か者どもが。
 我こそがレイナの伴侶だ』

「は? 何を言っている。俺だ」
「違う。私だ」
「いや僕だよ」

 国王の断罪劇はどこへやら、玉座の間は修羅場へと変貌した。

 私はドラゴンの背に乗り、高みから彼らを見下ろしながら微笑む。
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