断罪された悪役令嬢ですが、攻略対象全員がなぜか私に跪きます

ゆっこ

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「四人は選べない、か……」

 私は、暖炉の前のソファに腰を落としながら小さく呟いた。

 レオン邸の客間はとても落ち着いているはずなのに、
 さっきからずっと心臓の鼓動がうるさくて仕方ない。

 ……四人の視線が、まだ私に突き刺さっている。

「アリシア。今夜は私の国の料理を振る舞わせてくれ」

 ルーファスが、さらりと言ってテーブルに料理を並べ始める。
 さすが隣国の王子、手際が良すぎる。

「……あなたが、料理?」

「意外かな? 王子は不自由なく育つものだと思っていたかい?」

「ええ、まぁ」

「それは偏見だよ」

 ルーファスは爽やかに笑う。
 その横顔に、思わずドキリとするほど美しい。

「アリシア。スープをどうぞ」

 アレクシスが、気品ある所作で私の前へ皿を差し出す。
 食事の手際すら絵画のようだ。

「ありがとうございます、アレクシス」

「あなたの役に立てるなら、私はそれでいい」

「アリシア嬢、僕も切った野菜だけは……やったよ」

 ノアが小さく手を挙げ、照れくさそうに笑う。
 頬には小さな傷。野菜にすら苦戦したのだろうか。

「ノア……ありがとう。嬉しいわ」

 ノアは耳まで真っ赤に染めて俯く。

「……ふん。料理ができても彼女を守れなければ意味がない」

 レオンがわざとらしく咳払いして話に割り込んだ。

「アリシア様には、俺がいる」

「それは僕も同じだよ」

 ノアが即座に反論。

「守るだけじゃ足りない。彼女を幸せにできなきゃ」

 ルーファスの挑発にレオンが肩を震わせ、

「貴様……!」

 今にも殴り合いになりそうな空気。

「ま、待って!
 私の前で争わないでください!」

 慌てて声を上げると、四人は一斉に私を見た。

「アリシア様が望むなら」

「争いはやめよう」

「アリシア嬢の言葉は絶対だ」

「もちろん。君が笑うなら、それでいい」

 ……なにこの空気。

 まるで私は女王様?
 いや、まさか。

 けれど、四人の瞳に映る私は、完全に中心だった。





 食事の後、レオンは真剣な表情に戻り、私へ向き合った。

「アリシア様。リリア嬢の背後にいる存在を、
 まずは探り出さねばなりません」

「ええ。きっと何かあると思っていたの」

 リリアの異常な躍進。
 急激な魔力の上昇。
 王太子の執着。

 すべてが不自然だった。

「リリア嬢は最近、王宮の地下区画に出入りしている」

とアレクシスが告げる。

「地下? そこは……」

「古の魔術研究施設だ。封印されているはずなのに」

 ノアの説明に、背筋が冷える。

「まさかリリアは……禁術を?」

「可能性は高い。
 そしてそれを唆した者がいる」

 レオンが断言する。

 ……嫌な予感しかしない。

「俺たちで調査に入る。アリシア様はここで待機を」

「嫌よ」

 即答だった。

 四人が驚いたように目を見開く。

「私は逃げない。
 私自身の名誉を取り戻すんだから」

「……危険だ。王子もいる。騎士団長も」

「私の力だって、捨てたものではないわ」

 今さら黙っているつもりはない。
 あの日の悔しさを、私は忘れていない。

「それに……」

 どうしても言いたいことがある。

「あなた達だけを危険な目にあわせて、
 私が安全な場所にいるなんて……耐えられない」

 沈黙。

 レオンの眉が震え、アレクシスが静かに微笑み、
 ノアは涙を堪えるように唇を噛みしめ、
 ルーファスが嬉しそうに息を吐いた。

「……ならば、一緒に来て」

「もちろんだ。君は俺たちの中心なんだろ?」

「僕らが絶対に守る」

「危険な真似はさせないがな」

「ありがとう。皆……」

 胸が熱くなった、その時。

「──アリシア様! 外に不審者が!」

 騎士の叫びが響き渡る。

 レオンは即座に剣を抜き、扉を蹴破るように飛び出した。

「アリシア嬢、下がって!」

 ノアが前へ躍り出る。

 庭の暗闇の中に、禍々しい気配が渦巻いていた。

「これは……魔物か?」

 アレクシスが警戒の声を漏らす。

 やがて暗闇から現れたのは──
 黒い瘴気に覆われた巨躯の獣。
 その瞳は血のように赤く染まっている。

「くっ……!」

 レオンが剣を振り下ろすが、瘴気がそれを弾く。

「アリシアを狙っている!」

 ノアが叫んだ瞬間──
 獣が一直線にこちらへ飛びかかってきた。

「アリシア様──!!」

 レオンが庇おうと身を投げ出す。

「私に触れるなッ!」

 身体が勝手に動いた。

 内側から熱い力が溢れ、指先から眩い光が迸る。

 白銀の魔力が獣を包み──
 一瞬で霧散させた。

 静寂。

 私は、呆然と自分の手を見つめる。

「アリシア……今のは……」

 ノアが震える声をあげる。

「あなた、もしかして──」

 ルーファスが息を飲む。

 アレクシスがそっと私の手を取り囁いた。

「アリシア様……その力……
 まさか“神の加護”を持っているのでは?」

 神の……加護?

「わ、私は……知らない……」

「隠されていたんだ。
 殿下が……いや、王宮が」

 レオンの瞳が怒りに染まる。

「王太子はそれを知っていて……?
 アリシア様を断罪した……?」

「ありえない……!
 そんなこと……!」

 だが、心のどこかでわかっていた。

 私は昔から、普通の令嬢ではなかった。
 魔力の制御が難しく、私の力を恐れた王宮は……
 ずっと隠していたのだ。

 彼らの都合のいい“悪役令嬢”として。

「アリシア。君は誰よりも尊い存在だ」

 ルーファスが手を重ねる。

「俺たちが、必ず守る」

 レオンが誓うように言う。

「アリシア嬢……僕からも離れないで」

 ノアの声は震えていた。

「あなたは一人じゃない。
 これからは私が支えになる」

 アレクシスが優しく微笑む。

 四人が私の周りに立ち、
 熱い光で囲むように守ってくれていた。

 胸がいっぱいになって、声がでない。

 その時、レオンが低く呟いた。

「これは……始まりに過ぎない。
 リリア嬢の背後には、もっと大きな闇がある」

「王宮は、アリシア様を消そうとしている」

 アレクシスの声は冷え切っていた。

「殿下を奪い返す気なんてないわ」
 私は静かに言った。

「だけど──
 私を切り捨てたこと、絶対に後悔させる」

 四人が力強く頷く。

「だから皆……
 私に力を貸してちょうだい」

「任せて」

「当然だ」

「ずっと一緒」

「決まっている」

 月光の下、五人の誓いが結ばれた。






 ──その頃、王宮。

「アリシアが……神の加護……?
 嘘だ……嘘だ……!」

 王太子クリストファーは頭を抱え、狂気の笑いを漏らす。

「どうして……どうして俺の所にその加護が来なかった……?
 なぜだ、アリシア……!」

 リリアはその様子を見て、にやりと笑った。

「大丈夫ですわ、殿下。
 アリシアは必ず……戻ってきます」

 その瞳には、底知れない黒が広がっていた。

「だって、私の“主”が……
 彼女を必要としているのですから」

 背後に立つ、誰かの影。

「来い、悪役令嬢」

 低い声が王宮に響いた。

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