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未来の息子が生まれましたが、

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「あの…、組合長室マスタールームが何処にあるかご存じですか?」

 呼び止められた声に私は足を止めた。目の前には5人のイリノスの魔法使い。その中で紅一点。唯一の女性魔法使いと目が合っている。プラチナブロンドの眩しい髪に赤い瞳の綺麗な女性。聖女ですと言われても納得いくような美貌に私は目を瞬かせた。しかし、再び美女が「え~と…、あの、組合長室マスタールームは…――」と口を開いたため、私はハッとして来客者の対応へと移る。


「あ、はいっ!ごめんなさい組合長室マスタールームですね!?」
「…えぇ。本日から塔にお邪魔させていただくので、ご挨拶に伺いたいのですが…。」
「あー!そうなんですね!ようこそいらっしゃいました。私で良ければ案内します、が…、んー、エイ…、組合長マスターは今さっき所用で出て行っちゃったので、今は居ない可能性が…。」
「まぁ、流石塔の組合長マスター。お忙しいのですね。…では、また後程伺いますので、場所だけ教えていただけますか?」
 ニコっと人好きな笑顔を浮かべた女性は、初見の綺麗という印象から可愛らしいとう印象へと変わった。



 塔の中を紹介しながら中心にある螺旋階段を昇る。声をかけてくれた可愛らしい魔法使いはカリナさんと言うらしい。塔に来たのは初めてだが、先日からグラン国には滞在されていたみたいで、隣国でありながら文化や魔術の発展の違いになかなか有意義な時間を過ごせているらしい。
 あと少しで組合長マスタールームに到着する、というところでカリナさんが明るい声を出した。


「そういえば、グラン国の組合長マスターは噂と違ってお優しいのですね。」
「………へ?」

 思わず私は目が点になる。


「え~っと…、それは金髪で水色の瞳の王子様みたいな人でした?青髪じゃなく…?」
「…?…えぇ、金髪で水色の宝石みたいな綺麗な瞳の方でしたよ。…ふふっ、確かに王子様の様ですね。」

 自分の旦那への評価としては酷いと思うが、お世辞にもエイデンは優しい人とは言い難い。いや、私には異常に優しくしてくれるし、クリフやアニッサ、懐に入れた人物に対しては大いに甘くなるが、初対面の相手には嫌われることの方が多いのだ。きっと初めて会った人には彼の優しさは伝わりにくい。いったい何があったのだろうかと考えていると、「私の魔法を褒めてくださったんです。魔力も安定していて素晴らしいと。」と、カリナさんが私に微笑んだ。その言葉に戸惑い、返事をしそびれていると今まで黙っていた4人のうちの一人がため息を吐く。


「…はぁ、それはカリナ様だからですよ…。」
「そうですよ。私らには視線さえもよこさなかったのに、カリナ様だけ見つめて…。」
「カリナ様に気があるのでは?」
「こら、やめなさい。グラン国の組合長マスターは既婚者ですよ。」

 連鎖が起きる様に他の男性も不満を溢すように声を挙げた。そしてカリナさんはその男性たちに困ったような視線を送り優しく叱責する。和気あいあいとした気軽な会話だ。しかし、その会話にざわざわと胸の中が五月蠅くなる。


「そういえばあの噂は本当なのですか?」
「…え……?」
「こら、やめなさい。」
 カリナさんが窘めるが、男性は構わず続けた。


「エイデン・デュ・シメオン殿は奥様の傷が原因で結婚を余儀なくされたと。」
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