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未来の息子が生まれましたが、

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 近くで聞こえたクリフの声に口を閉じ振り返ると、その横でエイデンが首まで真っ赤にした顔を両手で隠していた。驚き声を上げるとエイデンはしおしおと撓垂しなだれるようにしゃがみ込む。

「エ、エイデン…!?どうしたの!?大丈夫?」

 続きは家でやって良いからとクリフが言うも、顔を隠し小さくしゃがみ込むその姿は塔の組合長マスターとしての威厳なんて皆無で。エイデンに何が起きたのか分からないけど、グラン国の魔導士としての焦りが襲ってきた私はイリノスの魔法使いを見上げた。

「エ、エイデンの体調が悪いみたいで、いつもはもっと、こう…、堂々としてて…、」
「とりあえずソフィアはもう黙りな?」

 クリフに箝口令を出された私は理由も分からずも、とりあえず口を閉じた。


「…何をがどうなってるのか分からないけど、ウチの組合長マスターは奥さんに首ったけでソフィアか、ソフィア以外かで判断するような男だから他を狙ったほうが良いよ。」
「…いえ、そんな…。…あたかも私がグラン国の塔の組合長マスターを狙っているという前提でお話されるのですね。」
「違ったのなら謝るよ。」
「…。」
「謝って済む問題じゃありませんっ!」
「そうです!カリナ様はイリノスでも類を見ない魔法使いであられます!そんな方に対して無礼では無いですか!」

 笑顔でにらみ合うクリフとカリナさんに、今まで静かにしていたイリノスの魔法使いたちが怒りだした。そんな彼らにいつもニコニコとしているクリフがチッと舌打ちを打ったため、私は聞き間違いかと驚いてクリフへと視線を移す。


「いやぁ、うるさいなぁ。うるさいのはその見た目だけにしてほしいものですね。」
「何!?」
「何だと、このガキっ!何と言ったっ!」
「聞こえませんでした?うるさいって言ったんですよ。そもそも、そちらがウチの魔術を学びたいと言ったからこうやって塔を開放し知識を得る手解きをしたというのに、何しにウチに来たんですか?」
「なっ…、」
「これから一か月の間塔の行き来は許可しましょう。でも、組合長マスターとその奥さんであるソフィアへの接触は禁止。技術習得なら俺が対応する。それで良いのならのびのびと過ごしてください。それが嫌なら今すぐ帰って。」

 微笑みながら威圧的に下したクリフの発言に、苦虫を潰したような表情をしたカリナさんが「何の権限であなたが…、」と言い返した。すると先ほど撓垂しなだれて顔を隠していたエイデンは何かから復活したようで、ゆっくりとした動作で立ち上がるとイリノスの魔法使いに近づいた。

「権限も何も、こいつには組合長マスターの全権を任せてるけど。」
「「「!?」」」
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