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第二章 それぞれの願い
7.想いが届いてくれたら
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「――どうやらあなたは、私を悪い主にしたいようですね」
苦しそうで悲しそうな表情で紡がれた言葉が何を意味しているのか、わからなかった。
わたしにキスをしたことだろうか。
それとも、わたしが騎士を好いてはいけないと、制約を設けたことだろうか。
(どちらであっても、わたしはそんなことでエドを嫌ったりしないのに……)
唇が離れると、エドの表情が露になる。
不安げに揺れる青い瞳はまるでわたしに嫌われるのを恐れているようで、それがまた胸を締めつけてくる。
「わたしが旦那様を悪い主と思うことはありませんよ」
この想いをわかってほしくて、エドの背中に腕を回して抱きしめてみた。
腕の中で微かに強張り、息を呑む気配がする。
「……いいや、私がこれからあなたにしようとしていることを聞けば軽蔑しざるを得ないでしょう」
エドの手が両頬を包む。
少し上を向くような角度で頭を固定され、青い瞳から逃れられない。
美しい宝石のような色の瞳が底光りしているように錯覚して、少し身を捩ってしまった。
「契約魔法が確かなものになるまであなたを閉じ込めます」
「閉じ込める?」
「ええ、この隣にある部屋に居てもらいます。ドリス以外の人間には会えないようにしましょう」
エドの指が私の首元に触れる。
指先が金色の環をなぞった。
「もう誰にもあなたを奪わせないし、あなたが私から離れることは許しませんから」
まるで、以前そのようなことを経験したかのような言い方だ。
先ほどの気持ちがエドに伝わっていなかったようで、ツキンと胸が痛む。
「わたしは旦那様から離れませんよ」
「契約魔法があるから離れられない、と言いたいのですか?」
「違います!」
声を張り上げたその刹那、ずきりと頭に痛みが走る。
視界が傾くと、エドが瞠目したのが見えた。
あっという間に目の前の景色に白い霧がかかり――気付けば塔の階段を駆けあがっており、以前見たことがある書斎の中に辿り着く。
書架の前には一人の美青年が立っており、熱心に本を読んでいる。
『ダレン、また後輩をいじめたそうじゃないか? さっき辞表を出された時にアンタの名前が挙がったぞ』
聞こえてくる《おししょうさま》の声に驚いて目の前の青年をもう一度見た。
(え?! この美青年がダレンなの?!)
すらりと背が高く、顔つきはすっかり大人びている。
中世的な美しさがあるけれど、顎から首にかけての輪郭には逞しさがあって大人の男性を思わせる。
薄い唇に、整った鼻梁。
どこをとっても芸術品のように美しいかんばせだ。
『いじめていません。彼らの決心が足りなかったから鍛錬についてこられず、逃げ出したんです』
ダレンは本から顔を上げずに答えた。
少し拗ねているような、そんな印象を受ける表情を浮かべている。
『大魔導士シンシアの弟子は私一人で十分なのですから――もう弟子を増やそうとしないでくださいね?』
(ダレンの《おししょうさま》って、大魔導士シンシアなの?!)
ふと、街中でおじいさんから聞いた話が蘇ってくる。
大魔導士シンシアの弟子は美しい青年に成長し、他国の姫からも思いを寄せられるような美貌を手にしていた。
絶世の美女に告白されても彼は無表情で心を寄せなかった。
彼はただ、師匠だけを慕っていた。
しかし大魔導士シンシアは彼の想いに応えることは無かった。
――もしかすると今目の前に居るダレンは、新しい弟子に《おししょうさま》を盗られてしまうと思ったのかもしれない。
『この塔にいるのは、お師匠様と私だけでいいのです』
そんな気持ちを吐露する彼を見ていて、不安になる。
大魔導士シンシアへの執着心を捨てきれなかった弟子は、禁忌の魔法を編み出したのだから……。
これまでに見てきた幸せな夢に影が落ちたようで、気持ちが重く沈んだ。
苦しそうで悲しそうな表情で紡がれた言葉が何を意味しているのか、わからなかった。
わたしにキスをしたことだろうか。
それとも、わたしが騎士を好いてはいけないと、制約を設けたことだろうか。
(どちらであっても、わたしはそんなことでエドを嫌ったりしないのに……)
唇が離れると、エドの表情が露になる。
不安げに揺れる青い瞳はまるでわたしに嫌われるのを恐れているようで、それがまた胸を締めつけてくる。
「わたしが旦那様を悪い主と思うことはありませんよ」
この想いをわかってほしくて、エドの背中に腕を回して抱きしめてみた。
腕の中で微かに強張り、息を呑む気配がする。
「……いいや、私がこれからあなたにしようとしていることを聞けば軽蔑しざるを得ないでしょう」
エドの手が両頬を包む。
少し上を向くような角度で頭を固定され、青い瞳から逃れられない。
美しい宝石のような色の瞳が底光りしているように錯覚して、少し身を捩ってしまった。
「契約魔法が確かなものになるまであなたを閉じ込めます」
「閉じ込める?」
「ええ、この隣にある部屋に居てもらいます。ドリス以外の人間には会えないようにしましょう」
エドの指が私の首元に触れる。
指先が金色の環をなぞった。
「もう誰にもあなたを奪わせないし、あなたが私から離れることは許しませんから」
まるで、以前そのようなことを経験したかのような言い方だ。
先ほどの気持ちがエドに伝わっていなかったようで、ツキンと胸が痛む。
「わたしは旦那様から離れませんよ」
「契約魔法があるから離れられない、と言いたいのですか?」
「違います!」
声を張り上げたその刹那、ずきりと頭に痛みが走る。
視界が傾くと、エドが瞠目したのが見えた。
あっという間に目の前の景色に白い霧がかかり――気付けば塔の階段を駆けあがっており、以前見たことがある書斎の中に辿り着く。
書架の前には一人の美青年が立っており、熱心に本を読んでいる。
『ダレン、また後輩をいじめたそうじゃないか? さっき辞表を出された時にアンタの名前が挙がったぞ』
聞こえてくる《おししょうさま》の声に驚いて目の前の青年をもう一度見た。
(え?! この美青年がダレンなの?!)
すらりと背が高く、顔つきはすっかり大人びている。
中世的な美しさがあるけれど、顎から首にかけての輪郭には逞しさがあって大人の男性を思わせる。
薄い唇に、整った鼻梁。
どこをとっても芸術品のように美しいかんばせだ。
『いじめていません。彼らの決心が足りなかったから鍛錬についてこられず、逃げ出したんです』
ダレンは本から顔を上げずに答えた。
少し拗ねているような、そんな印象を受ける表情を浮かべている。
『大魔導士シンシアの弟子は私一人で十分なのですから――もう弟子を増やそうとしないでくださいね?』
(ダレンの《おししょうさま》って、大魔導士シンシアなの?!)
ふと、街中でおじいさんから聞いた話が蘇ってくる。
大魔導士シンシアの弟子は美しい青年に成長し、他国の姫からも思いを寄せられるような美貌を手にしていた。
絶世の美女に告白されても彼は無表情で心を寄せなかった。
彼はただ、師匠だけを慕っていた。
しかし大魔導士シンシアは彼の想いに応えることは無かった。
――もしかすると今目の前に居るダレンは、新しい弟子に《おししょうさま》を盗られてしまうと思ったのかもしれない。
『この塔にいるのは、お師匠様と私だけでいいのです』
そんな気持ちを吐露する彼を見ていて、不安になる。
大魔導士シンシアへの執着心を捨てきれなかった弟子は、禁忌の魔法を編み出したのだから……。
これまでに見てきた幸せな夢に影が落ちたようで、気持ちが重く沈んだ。
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