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開戦前奏譚(※リオネル視点)
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もうすぐでシエナに会えると思うと、どうしても浮足立ってしまう。
持っていく書類や、あの子に渡すお土産を用意していると、扉がノックされて侍女頭のカロルが部屋に入ってきた。
「坊ちゃん、荷物の準備を終えました」
「ありがとう、カロル。いつも済まないね」
「いいえ、坊ちゃんがつつがなく業務をこなせるようにするのが私の務めですから」
そう言ってくれるカロルの瞳はとても温かい。お母様が亡くなってから、僕にとってもシエナにとっても、カロルが母親に近い存在だ。
「しかし、いつまでもこんな老婆が四六時中傍に居るのは次期領主としていかがなものかと、そろそろ奥方を迎えてはいかがなのです?」
「うーん……シエナ以外の女性にいまいち興味が持てないんだよね」
書類を整理しながら何気なく答えると、カロルが小さくため息をついた。
「お嬢様もいつかは殿方の元へ行くのですよ?」
「……それは僕が許さない。狼なんかに、シエナを渡してたまるものか」
整えた書類の一番上にある手紙を、睨みつけてしまう。忌々しい手紙。きっと、この手紙を読んでから気が立っているのを、カロルには気づかれてしまったのだろう。
シエナの新しい上司で宰相の息子、ディラン・ハワード候爵からの手紙だ。
「……狼は、一度見定めた伴侶を変えることなく一生愛するのですよ」
カロルは僕の瞳を真っすぐに見てそう言った。その瞳には断固とした決意の色が伺える。
察していただけではない。彼女は何か知っているようだ。
……まさかあの狼、うちの使用人たちにもう手を回したのか?!
「随分と彼を買っているようだね、カロル。その彼が銀の舌を持つような奴だったらどうする?」
「さあて、出まかせを並べ立てるような人物かどうかは、実際にお話しして見定めてくださいな」
そう言ってカロルは優しく背中を撫でてくれた。ほっとする、温かい手。お母様が亡くなられてからどれほど、この手に救われてきただろうか?
「それに坊ちゃん、お嬢様が結婚されましたらお嬢様の子どもが見られるのですよ!赤ちゃんを抱っこしているお嬢様はさぞかし可愛いでしょうね」
「……くっ!!!」
「男の子でしたらお嬢様をエスコートする姿が見られるでしょうね。女の子ならお揃いのドレスを着せるのもなお良しですわ」
「うっ……!それはなんとも美味しい……いや、そうはいっても父親となる人物があの子たちをおざなりにするかもしれないのだよ?」
僕にだって妹のウェディングドレス姿や彼女が子どもを抱いている姿を見たいという気持ちはある。
しかし、隣にパッと出て来た男が並ぶのが不愉快極まりないのだ。
だから今まで妹に近づく数々の家を落としてきた。
どんな上位貴族であったとしても生半可な気持ちで、下心を持って、あの子に近づくなんて許せない。
「狼は子煩悩ですよ。それに、その手紙の狼さんには昔一度だけお会いしたことがあるのですが、素敵な方でしたよ」
「いつ会ったというのだい?」
「お嬢様が湖に落ちた日のことですかね」
「何だって?!」
シエナが湖に落ちた時、通りかかった少年が助けてくれた話をカロルたちから聞いていた。
シエナの友人が上げた悲鳴に駆けつけたカロルたち使用人が彼に礼を言い、シエナを助けてずぶ濡れになった彼を屋敷でもてなそうとしたのだが、名乗るほどではないと言いすぐに立ち去ったのだと言う。
カロルはどうしても恩返しをしたいと言ったのだが、その少年は「自分は今護衛をしているから受け取れない」と頑なに断ったそうだ。
今、初めて彼女はその詳細を教えてくれた。
そのとき少年の傍に居た人物が彼を「ディラン」と呼んだことと、その人物が取り出したハンカチに王家の家紋の刺繍があったことから、カロルはシエナを助けてくれた少年が王族と繋がりがある家の人間であり、傍に居る人物こそがお忍びで来た王子であることを察したのだと言う。
「カロルまで味方につけるなんて気に入らないな……」
「ふふ、ますます坊ちゃんを妬かせてしまいましたかね」
たとえシエナの命の恩人が彼だったとしても過去は過去だ。
シエナの横に立てるべきかどうか、見定めてやる。
持っていく書類や、あの子に渡すお土産を用意していると、扉がノックされて侍女頭のカロルが部屋に入ってきた。
「坊ちゃん、荷物の準備を終えました」
「ありがとう、カロル。いつも済まないね」
「いいえ、坊ちゃんがつつがなく業務をこなせるようにするのが私の務めですから」
そう言ってくれるカロルの瞳はとても温かい。お母様が亡くなってから、僕にとってもシエナにとっても、カロルが母親に近い存在だ。
「しかし、いつまでもこんな老婆が四六時中傍に居るのは次期領主としていかがなものかと、そろそろ奥方を迎えてはいかがなのです?」
「うーん……シエナ以外の女性にいまいち興味が持てないんだよね」
書類を整理しながら何気なく答えると、カロルが小さくため息をついた。
「お嬢様もいつかは殿方の元へ行くのですよ?」
「……それは僕が許さない。狼なんかに、シエナを渡してたまるものか」
整えた書類の一番上にある手紙を、睨みつけてしまう。忌々しい手紙。きっと、この手紙を読んでから気が立っているのを、カロルには気づかれてしまったのだろう。
シエナの新しい上司で宰相の息子、ディラン・ハワード候爵からの手紙だ。
「……狼は、一度見定めた伴侶を変えることなく一生愛するのですよ」
カロルは僕の瞳を真っすぐに見てそう言った。その瞳には断固とした決意の色が伺える。
察していただけではない。彼女は何か知っているようだ。
……まさかあの狼、うちの使用人たちにもう手を回したのか?!
「随分と彼を買っているようだね、カロル。その彼が銀の舌を持つような奴だったらどうする?」
「さあて、出まかせを並べ立てるような人物かどうかは、実際にお話しして見定めてくださいな」
そう言ってカロルは優しく背中を撫でてくれた。ほっとする、温かい手。お母様が亡くなられてからどれほど、この手に救われてきただろうか?
「それに坊ちゃん、お嬢様が結婚されましたらお嬢様の子どもが見られるのですよ!赤ちゃんを抱っこしているお嬢様はさぞかし可愛いでしょうね」
「……くっ!!!」
「男の子でしたらお嬢様をエスコートする姿が見られるでしょうね。女の子ならお揃いのドレスを着せるのもなお良しですわ」
「うっ……!それはなんとも美味しい……いや、そうはいっても父親となる人物があの子たちをおざなりにするかもしれないのだよ?」
僕にだって妹のウェディングドレス姿や彼女が子どもを抱いている姿を見たいという気持ちはある。
しかし、隣にパッと出て来た男が並ぶのが不愉快極まりないのだ。
だから今まで妹に近づく数々の家を落としてきた。
どんな上位貴族であったとしても生半可な気持ちで、下心を持って、あの子に近づくなんて許せない。
「狼は子煩悩ですよ。それに、その手紙の狼さんには昔一度だけお会いしたことがあるのですが、素敵な方でしたよ」
「いつ会ったというのだい?」
「お嬢様が湖に落ちた日のことですかね」
「何だって?!」
シエナが湖に落ちた時、通りかかった少年が助けてくれた話をカロルたちから聞いていた。
シエナの友人が上げた悲鳴に駆けつけたカロルたち使用人が彼に礼を言い、シエナを助けてずぶ濡れになった彼を屋敷でもてなそうとしたのだが、名乗るほどではないと言いすぐに立ち去ったのだと言う。
カロルはどうしても恩返しをしたいと言ったのだが、その少年は「自分は今護衛をしているから受け取れない」と頑なに断ったそうだ。
今、初めて彼女はその詳細を教えてくれた。
そのとき少年の傍に居た人物が彼を「ディラン」と呼んだことと、その人物が取り出したハンカチに王家の家紋の刺繍があったことから、カロルはシエナを助けてくれた少年が王族と繋がりがある家の人間であり、傍に居る人物こそがお忍びで来た王子であることを察したのだと言う。
「カロルまで味方につけるなんて気に入らないな……」
「ふふ、ますます坊ちゃんを妬かせてしまいましたかね」
たとえシエナの命の恩人が彼だったとしても過去は過去だ。
シエナの横に立てるべきかどうか、見定めてやる。
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