【本編完結済】うろ覚えの転生令嬢は勘違いで上司の恋を応援する

柳葉うら

文字の大きさ
47 / 48
番外編

笑ってはいけない王立図書館防犯訓練-3

しおりを挟む
 護衛騎士が代わるがわる相手をするが、犯人役ディランは息を乱すことなくあしらってゆく。

 戦いのプロである彼らでさえそんな状態のため、文官である司書官たちは手も足も出せない状況だ。

 これでは埒が明かない。焚書魔術組織と対峙した手練れの出番だろう。
 拳を握り、彼らの方に進み出る。

「私が相手です!これ以上あなたの好きにさせません!」
「危険ですフェレメレン嬢~!」

 前に出ると、ドゥブレーさんが慌てて庇いに来る。

「君はまた、己を過信して危険に足を踏み入れるのか?」

 そう言うと、犯人役ディランは騎士たちを吹っ飛ばして私に向き合った。

「ええ!守りたいものを守るべく立ち向かうのです!何も守れず見ているだけなんてできません!」
「……!」

 犯人役ディランが息を呑んだ。

「夫婦喧嘩かぁ~?いいぞやっちゃえ~!」

 思わぬ野次が飛んでくる。読書用のソファにどっかり座って高みの見物を興じている王太子殿下が仰ったのだ。
 
 陽キャラぁぁぁぁ!そういうのは新聞とワンカップ持って河川敷で座ってるオジサンが言うものよ?!

 いや、少年野球にヤジを飛ばすオジサンだってもう少しひねりがきいたことを言ってくるはずだわ。
 このお方、あれですわね。本当に次期国王なのかしら。……いかん不敬だ。不敬だが、もう少し威厳を持っていただきたい。

  ジト目をお見舞いしそうになるのを堪えて犯人役ディランに捕縛や拘束魔法を放つが、ことごとくかわされる。一気に距離を縮められそうになると、バルトさんたちが間に入って助けてくれる。

 これまでの敵と動きが全く違う。バルトさんたちのサポートが無いと本当に死んでいると思う。てかこれ本気だよね?本気で殺しにかかってきてるよね?

 この人ディラン、敵じゃなくて本当に良かった。

 魔法が全てかわされてしまう。意気揚々と勇み出たが、私も大概だ。プルースト卿のことを責められない。
 デュラン侯爵にチラと視線を走らせ応援を求めるが、彼は拳を握って「頑張って!」って口パクしてくる。ウインクを添えて。

 欲しいのはそっちの応援じゃないんだなぁ……。

 歴史ある王立図書館の床に傷をつけたくなかったから避けていたけど、土属性の魔法を使って足元から崩そうかな、なんて考えていると、エドワール王太子殿下に名前を呼ばれる。

「シエナちゃん!受け取れ!」

 彼は本を投げ渡してきた。
 日記帳のようだ。これもセレスティーヌ王女殿下の絵本のように王族が遺した魔法書なのだろうか?
 想いが強くて魔力が宿ったのかもしれない。

「俺が最適なページに栞を挟んで呪文に印をつけておいた!それを唱えるんだ!」
「止めろ!開けるな!!!」

 犯人役ディランは表紙を見るなり急に動揺し始めた。 

 どうやら新しい魔法が書かれているようだ。
 受け取った私は黒い手袋の裾を引っ張り上げて気合を入れる。新しく使う魔法に、期待と不安が入り混じる。

 何属性の魔法だろうか?
 威力とか心配しなくてもいいよね?いくら殿下でもみんなを吹っ飛ばすような魔法は勧めてこないよね?

 本を奪いに来る犯人役ディランを、バルトさんとドゥブレーさんが相手になって食い止めている。

 奪われるのも時間の問題だ。

 王太子殿下の言う通りに栞が挟んであるページを開き、赤いインクで囲まれている部分を一息に読み上げた。声を張り上げて。

「……平和な日々が続くと、またこの人が消えてしまうのではないかと不安が募る。いつどんな時でも守れるように私は己を鍛え続けねばならない。シエナ、私はこれからも何度でも君を……?!」

 最後まで読みかけそうになって気づいた。これは呪文じゃない。誰かが綴った心情である。

 これ、もしや……もしや、もしやじゃなくてほぼ確定でディランの日記?

 カランと音がして、犯人役が地面に膝を突いた。剣を手放してしまい、バルトさんとドゥブレーさんに取り押さえられる。
 今やギャラリーに交じって闘いの行方を見守っていた召喚された方々が消えていった。

 フードが脱げて、彼の顔が晒される。

 おおおおお!?

 あの裏ボスがいつになく弱った表情で助けを求めるようにこちら見つめていらっしゃる。これはちょっと反則なくらい可愛く見える。
 思わず歓喜の声が漏れてしまいそうになった。

 どうやら王太子殿下と私の合わせ技が痛恨の一撃クリティカルヒットを与えたようだ。私はほぼ巻き込まれただけなんですけど。いや、もっと詠唱する前に確認していたらこんな事故は起こらなかったんですけど。大規模な魔法の呪文は長いからあまり違和感なかったというかなんというか……。

 ごめんなさい、ディラン。

 しかし……普段は余裕たっぷりな彼がこんなにも顔を真っ赤にして眉尻を下げていると、ときめきどころか母性が生まれてしまう。

 ひとまずこの公開処刑された犯人役ディランの身柄を護送しよう。
 
 彼の元に行ってしゃがむ。
 とりあえずフードで顔を隠してあげようと思い手を伸ばすと、顔を私の肩に埋めてきた。彼の顔が当たっている部分がとっても熱い。

「……エドワールにしてやられた」
「ご愁傷様です」

 どうやら殿下は、最近ディランの家に頻繁に訪れていたらしくその時に日記を持っていかれたようだ。

 そのままフードを被せてあげて、バルトさんに反対側の肩を担いでもらって退場することにした。

 私たちの背後では次期国王が腹を抱えて笑う声が聞こえてくる。
 陽キャラよ、これが狙いだったのね。最近大人しいから何かしてくると思っていたけど、盛大にやってくれたわね。

 だれか、お決まりの「アウトー!」を言ってやってください。

「うん、愛だな!愛の呪文だ!うん!オジサンは嬉しいぞ!」

 こういう話題に飢えていたのだろう。外に出るまでしきりに愛の呪文について口にされるバルトさん。

 止めてあげてください、オジサン。
 この人は今、公開処刑されてHPがゼロなんです。傷口に塩を塗らないであげてください。追い塩ですよそれ、追い塩。

   ◇◇◇

 夕食では、ディランはいつもより口数が少なかった。無理もない、私が彼ならしばらく寝込むくらいのダメージであるのだから。

 ただ、今日はちょっといつものお返しをしてやろうと思う。

「これからも何度でも私の事を守ってくださいね」
「……もちろんだ」

 じわじわと火照る彼の顔が、らしくなくて可笑しい。
 意地悪してごめんなさい。そんな表情を見せられたらお腹いっぱいだ。

「私はあなたのことを守りますから」
「頼りにしている、婚約者殿」

 意外な返答が返ってきて驚いた。
 前までの彼なら危険に晒したくないと言って止めてきそうだが、どうやら今回の防犯訓練で彼の気持ちも変わったらしい。

 くすぐったい感覚が広がってゆく。

 帰り道、私は彼に騎士になりたかったのか聞いてみた。意外なことに、彼はそのつもりは全くなかったのだという。

「でも、あんなに強いのに更に鍛えているのでしょう?鍛えるのは息抜きですか?」
「……いや、備えのためだ」
「備え?」
「ああ、初めてシエナと出会った人生の時のように、何も守れない自分になってしまうのが怖い」
「ディランに弱いときがあったんですか?意外ですね」
「弱かったよ。剣なんて幼い頃に体力づくりのために握ったくらいだった」

 彼は自嘲気味に笑った。

「それに、身体も今ほど丈夫じゃなかったな。顔色が悪いから休めと君によく寝かしつけられていた。あと……ラジオ体操?という名前の珍妙な動きをさせられたな。運動が必要だと言われて」
「……そ、そんなことが……?!」

 まったく想像できない。私が知っているのは、体力無尽蔵で何故か剣術に長けていて……できないことは何も無い裏ボス侯爵の彼だ。
 私が彼を寝かそうとしたり運動させようとしていたのにも驚きだ。というより、何をやらせていたんだ過去の私は。

 いったい昔の彼はどんな人だったのだろうか?

 私の知らない彼を見てきた昔の自分が羨ましい。
 ラジオ体操しているところ見てみたいな。シュールな絵面を思い浮かべてしまうが……。ノアにもさせていたんだろうなぁきっと。

「塔に籠りきりではいけないから休暇をとって外に出てこいとも言われたな。それこそ、ピクニックでも行って外の空気を吸ってみてはどうかと」
「それでは、ピクニックに行けて私の長年の願いが叶ったのですね」
「そうだな」

 ディランが立ち止まり、私たちは向き合うようになった。彼は私の肩に顔を埋める。肩にかかる微かな重みや、ほろ苦い香水の匂いに安心する。

「世話焼きで、猪突猛進で、好奇心旺盛な君が居るから、これからも傍に居て欲しいから、私は頑張れる」

 優しい声が耳に届く。私は手を繋いでいない方の腕を彼の背中に回した。この心を彼に伝えたい。けれど言の葉には変え難いものだから、こうすることで精いっぱい伝えたい。

 しかし、猪突猛進は異議ありですよ。



 後日、訓練はデュラン侯爵を犯人役にしてやり直しになった。ポージングやら口上やらが独特な犯人役だったが、彼との戦闘は新人司書官たちの良い経験になったようだ。

 ちなみに、あの日記公開黒歴史のおかげで司書官たちはディランへの好感度が上がったとのこと。
 前より話しかけやすくなったのだとか。


 どんな状況も好転させる婚約者様、さすが裏ボスです。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

私をいじめていた女と一緒に異世界召喚されたけど、無能扱いされた私は実は“本物の聖女”でした。 

さら
恋愛
 私――ミリアは、クラスで地味で取り柄もない“都合のいい子”だった。  そんな私が、いじめの張本人だった美少女・沙羅と一緒に異世界へ召喚された。  王城で“聖女”として迎えられたのは彼女だけ。  私は「魔力が測定不能の無能」と言われ、冷たく追い出された。  ――でも、それは間違いだった。  辺境の村で出会った青年リオネルに助けられ、私は初めて自分の力を信じようと決意する。  やがて傷ついた人々を癒やすうちに、私の“無”と呼ばれた力が、誰にも真似できない“神の光”だと判明して――。  王都での再召喚、偽りの聖女との再会、かつての嘲笑が驚嘆に変わる瞬間。  無能と呼ばれた少女が、“本物の聖女”として世界を救う――優しさと再生のざまぁストーリー。  裏切りから始まる癒しの恋。  厳しくも温かい騎士リオネルとの出会いが、ミリアの運命を優しく変えていく。

取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので

モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。 貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。 ──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。 ……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!? 公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。 (『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)

ヒロイン気質がゼロなので攻略はお断りします! ~塩対応しているのに何で好感度が上がるんですか?!~

浅海 景
恋愛
幼い頃に誘拐されたことがきっかけで、サーシャは自分の前世を思い出す。その知識によりこの世界が乙女ゲームの舞台で、自分がヒロイン役である可能性に思い至ってしまう。貴族のしきたりなんて面倒くさいし、侍女として働くほうがよっぽど楽しいと思うサーシャは平穏な未来を手にいれるため、攻略対象たちと距離を取ろうとするのだが、彼らは何故かサーシャに興味を持ち関わろうとしてくるのだ。 「これってゲームの強制力?!」 周囲の人間関係をハッピーエンドに収めつつ、普通の生活を手に入れようとするヒロイン気質ゼロのサーシャが奮闘する物語。 ※2024.8.4 おまけ②とおまけ③を追加しました。

巻き込まれて婚約破棄になった私は静かに舞台を去ったはずが、隣国の王太子に溺愛されてしまった!

ユウ
恋愛
伯爵令嬢ジゼルはある騒動に巻き込まれとばっちりに合いそうな下級生を庇って大怪我を負ってしまう。 学園内での大事件となり、体に傷を負った事で婚約者にも捨てられ、学園にも居場所がなくなった事で悲しみに暮れる…。 「好都合だわ。これでお役御免だわ」 ――…はずもなかった。          婚約者は他の女性にお熱で、死にかけた婚約者に一切の関心もなく、学園では派閥争いをしており正直どうでも良かった。 大切なのは兄と伯爵家だった。 何かも失ったジゼルだったが隣国の王太子殿下に何故か好意をもたれてしまい波紋を呼んでしまうのだった。

春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ
恋愛
教師との悲恋、そして突然の死をもって転生をした少女、シャーロット・ジェム。凍れる国にて、小さな魔法屋を営んでいた。名門学園からの推薦状が届いたことにより、平和だった日々に暗雲が訪れるように。 今世も彼女に死は訪れる――未来を望むには二つ。 ――ヤンデレからもたらされる愛によって、囲われる未来か。そして。 ――小さくて可愛いモフモフ、女神の眷属と共に乗り越えていくか。 鳥籠に囚われるカナリア色の髪の少女、ヤンデレホイホイの彼女が抗っていく物語。 生きていく物語。 小説家になろう様でも連載中です。

看病しに行ったら、当主の“眠り”になってしまった

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全36話⭐︎ 倒れた当主を看病する役目を振られた使用人リィナは、彼の部屋へ通うことになる。 栄養、灯り、静かな時間、話し相手――“眠れる夜”を整えていく。そして、回復していく当主アレクシス。けれど彼は、ある夜そっと手を握り返し、低い声で囁く。 「責任、取って?」 噂が燃える屋敷で、ふたりが守るのは“枠(ルール)”。 手だけ、時間だけ、理由にしない――鍵はリィナが握ったまま。 けれど、守ろうとするほど情は育ち、合図の灯りはいつしか「帰る」ではなく「眠る」へ変わっていく。 看病から始まった優しい夜は、静かな執着に捕まっていく。 それでも、捕獲の鍵は彼ではなく――彼女の手にある。

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

こひな
恋愛
市川みのり 31歳。 成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。 彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。 貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。 ※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

処理中です...