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船上
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取材旅行にさいして目標を決めよう。名探偵綾小路のモデルを探す。彼はまさに探偵然とした探偵であり、事件の関係者一同をロビーに集めて滔々と推理するタイプの鼻持ちならない探偵である。なかなか難航しそうである。
さて私は現在 東北の寒村、深山村に向かうべく船に乗り波に揺られている。小磯くんから連絡を受け早3日、そろそろ状況報告をせねばと気ばかりが焦り未だ何も手に着いていない。運命のモデルを求めて逃避行中である。愛の逃避行である。そもそも旅行をしてこいと言ったのは小磯くんであるからして怒られる心配は微塵もないのである。
しかし、今に見ていろ小磯くん、モデルを見つけた暁には私の筆はまるで2年前私を置いて単身米国へ留学に行った齋藤のホストファミリーの英語 のようにスラスラと流れるような速筆で100万部のベストセラーを出して見せよう。
ちなみに齋藤の英語力は一切の向上が見られなかった。彼はパッションで会話をしているので英語など必要ないようであった。日本語も「マジ」と「ヤベエ」と「マジヤベエ」の三語しか話せないような男なので大して驚きはしなかったが。彼の母国語は如何なるものだろうか。
そこそこにでかい船の甲板に立ち船尾から出る白波を見つめる。
「何かありました?」
横から男が話しかけてくる。今は白波を触るか触らないかギリギリのスリルを求めることに集中しているので後にして貰えないだろうか。
「そんなに身を乗り出していると落ちてしまいますよ」
そう言うと男は私の両脇に手をやりひょいと柵から下ろした。なかなかにスマートで力持ちである。
「何か」
顔を上げる。そこには美麗な男がいた。癖のある柔らかそうな僅かに青みがかった白い髪、白いまつ毛に縁取られた存在感のある深い青の瞳、オクスフォードブルーのロングコートがよく似合う細身の長身だ。
「落ちそうになっていたのです。この季節は横風が強いので急に船が揺れたら危ないですよ。
ああ、いきなり話しかけて申し訳ありません、僕は私立探偵を営んでいる神崎 雪路という者です」
さっと私の全身に目を通し、ところで、と言葉を続ける。
「ギターというものはそんなに難しいのですか」
「は?」
いきなり何を言っているんだこの男は。
背筋を伸ばし、ピンと人差し指を立てて話し始める。
「こんな季節に東北の観光地でもない場所に行く理由はありません、帰省でもない限りね。それにあなたの手には豆がある。その豆はギターはあるいはベースをやっている指です。海に身を投げようとしていた理由はご実家に帰る決断をしたは良いもののいざ帰るとなると親に合わせる顔がなくなり自暴自棄になってしまった、というところでしょうか」
つまり、と続ける。
「あなたは親の反対を押し切って東京に出てメジャーデビューを果たそうとしたが夢破れて実家に帰る途中のミュージシャンです」
全く間違っている上に失礼である。
しかし、「彼だ」と思った。このキザったらしい言い回し、堂々とした立ち振る舞い、綾小路その人である。
推理力に若干の不安があるがそんなものこの際どうでも良い。キラキラ輝くカリスマ性こそ名探偵にふさわしい。
「いやあ、おみそれしました。いかにも私はしがないミュージシャンです!ここであったのも何かの縁、あなたの推理力を見込んで解決して欲しい事件があるのですか……」
私がなぜわざわざ東北の寒村などに行くか、その理由は深山村 地主一族の当主、慈島龍蔵が死んだという知らせをある筋から聞き及んだためだ。聡い私はこれはいいネタになるかもしれないと遠路遥々馳せ参じた訳だ。大富豪の遺産相続とくれば殺人事件、手土産としてこの探偵を送り込んでやろう。
ここで遅ればせながら自己紹介を挟ませて頂こう。
私の名前は日高 九太郎。
身長165cm、体重60kg、血液型B型、28歳
好きな話題は人の修羅場と陰口である。
どうぞよろしく。
さて私は現在 東北の寒村、深山村に向かうべく船に乗り波に揺られている。小磯くんから連絡を受け早3日、そろそろ状況報告をせねばと気ばかりが焦り未だ何も手に着いていない。運命のモデルを求めて逃避行中である。愛の逃避行である。そもそも旅行をしてこいと言ったのは小磯くんであるからして怒られる心配は微塵もないのである。
しかし、今に見ていろ小磯くん、モデルを見つけた暁には私の筆はまるで2年前私を置いて単身米国へ留学に行った齋藤のホストファミリーの英語 のようにスラスラと流れるような速筆で100万部のベストセラーを出して見せよう。
ちなみに齋藤の英語力は一切の向上が見られなかった。彼はパッションで会話をしているので英語など必要ないようであった。日本語も「マジ」と「ヤベエ」と「マジヤベエ」の三語しか話せないような男なので大して驚きはしなかったが。彼の母国語は如何なるものだろうか。
そこそこにでかい船の甲板に立ち船尾から出る白波を見つめる。
「何かありました?」
横から男が話しかけてくる。今は白波を触るか触らないかギリギリのスリルを求めることに集中しているので後にして貰えないだろうか。
「そんなに身を乗り出していると落ちてしまいますよ」
そう言うと男は私の両脇に手をやりひょいと柵から下ろした。なかなかにスマートで力持ちである。
「何か」
顔を上げる。そこには美麗な男がいた。癖のある柔らかそうな僅かに青みがかった白い髪、白いまつ毛に縁取られた存在感のある深い青の瞳、オクスフォードブルーのロングコートがよく似合う細身の長身だ。
「落ちそうになっていたのです。この季節は横風が強いので急に船が揺れたら危ないですよ。
ああ、いきなり話しかけて申し訳ありません、僕は私立探偵を営んでいる神崎 雪路という者です」
さっと私の全身に目を通し、ところで、と言葉を続ける。
「ギターというものはそんなに難しいのですか」
「は?」
いきなり何を言っているんだこの男は。
背筋を伸ばし、ピンと人差し指を立てて話し始める。
「こんな季節に東北の観光地でもない場所に行く理由はありません、帰省でもない限りね。それにあなたの手には豆がある。その豆はギターはあるいはベースをやっている指です。海に身を投げようとしていた理由はご実家に帰る決断をしたは良いもののいざ帰るとなると親に合わせる顔がなくなり自暴自棄になってしまった、というところでしょうか」
つまり、と続ける。
「あなたは親の反対を押し切って東京に出てメジャーデビューを果たそうとしたが夢破れて実家に帰る途中のミュージシャンです」
全く間違っている上に失礼である。
しかし、「彼だ」と思った。このキザったらしい言い回し、堂々とした立ち振る舞い、綾小路その人である。
推理力に若干の不安があるがそんなものこの際どうでも良い。キラキラ輝くカリスマ性こそ名探偵にふさわしい。
「いやあ、おみそれしました。いかにも私はしがないミュージシャンです!ここであったのも何かの縁、あなたの推理力を見込んで解決して欲しい事件があるのですか……」
私がなぜわざわざ東北の寒村などに行くか、その理由は深山村 地主一族の当主、慈島龍蔵が死んだという知らせをある筋から聞き及んだためだ。聡い私はこれはいいネタになるかもしれないと遠路遥々馳せ参じた訳だ。大富豪の遺産相続とくれば殺人事件、手土産としてこの探偵を送り込んでやろう。
ここで遅ればせながら自己紹介を挟ませて頂こう。
私の名前は日高 九太郎。
身長165cm、体重60kg、血液型B型、28歳
好きな話題は人の修羅場と陰口である。
どうぞよろしく。
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