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short story ※時系列バラバラです
ヤバいよ榊先生③
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※「ヤバいよ榊先生②」の別視点
御磨花市の花園地区にある不良の溜まり場、花園高校。放課後の体育館で、今日も今日とて元気な生徒たちが喧嘩に勤しんでいる。
本日の花高おススメは……
二年生、葛城一派の頭、葛城宗次郎
対
二年生 、桂木一派の頭、桂木晃介
葛城VS桂木、のタイマンというややこしいことこの上ない喧嘩である。
どっちが勝っても「かつらぎ」だ。彼らは同学年の覇権を巡って争いが絶えない間柄であったが、このたびついに一騎打ちと相なったのだ。
開戦当初、優勢だったのはスピードと手数の多さで葛城であったが、次第に持久力に差が出始める。後半となると打たれ強い桂木の方が巻き返してきた。桂木の重い打撃を受け鼻血を流した葛城がいよいよ膝を折るかと思われたその時、葛城が刃物を取り出したのだ。小さなナイフであったが、それは桂木の左腕を浅く切り裂いた。
明らかな反則。
彼らの周りを取り囲んでいた桂木一派たちは罵声を浴びせて怒り、葛城一派はまさかの事態にうろたえた。
だが刃物を振り回す相手を取り押さえた経験のある者などそこには居なかった。一歩間違えば自分が刺され、最悪死ぬかもしれない。
「竹ちゃん呼んでこい!」
と誰かが叫ぶ。ここで言う「竹ちゃん」とは養護教諭の竹之内のことだ。
花園高校の養護教諭、男性型αの竹之内。彼はグリズリーのような図体と怪力で、こうした生徒同士の喧嘩に「マズいこと」が起きた場合によく駆り出される。未熟な十代前半の子供であれば軽々と取り押さえることができた。
桂木一派のメンバーである柿岡ほか数人が、保健室へ向けて駆け出した。
同日、教員の榊龍時は図書室で調べ物をして職員室へ戻る途中、なにやら騒々しい気配を感知した。
また子供達の喧嘩だなと思った。その辺の感の鋭さは花園高校定時制に身を置いていただけのことはある。
喧嘩の舞台は体育館らしい。いちおう注意しておくか、と体育館への渡り廊下を歩いていると、出入り口から生徒が数人飛び出してきた。敗走という雰囲気でもない。
榊は彼らを呼び止め、二年の柿岡という生徒に何があったか尋ねると、
「か、葛城がナイフで、桂木を切った!」
と聞くや否や走り出す。
柿岡は、この教員が止めに入るつもりだと分かって後を追い、仲間に「お前は竹ちゃん連れて来い!早く!」と指示した。
榊は外野の生徒達の間をするすると縫って葛城の正面から迫り、あっという間に腕を捻り上げてナイフを放棄させ、流れるように床に押さえつけたのだった。当の葛城も自身になにが起こったのか咄嗟に理解し難いらしく、抵抗もしない。
流石の花園高校の不良達もあっけに取られ、呆然と見ているだけだった。
やがて竹之内がやって来る。
榊は竹之内に怪我をした生徒の手当を任せた。葛城にはもう暴れる意思がないと判断してゆっくりと解放してやり、悠然と落ちたナイフを没収する。そうしてから、鼻血をたらしたままの葛城にハンカチをあてがう。
「はいじゃあお前ら、解散。葛城は説教ね」
生徒達はおろか竹之内もまた、荒事には縁のなさそうな風貌の榊先生がやってのけたことに驚きを隠せなかった。
この後、葛城宗次郎は数日間の停学処分となり、二年の「かつらぎ戦争」はとりあえず鎮静したのだった。
どちらが勝者かといえば、刃物なぞを使った時点で葛城は負け、桂木は勝ったということになるだろう。
・
・
・
喧嘩があった翌日の放課後。
体育館のステージ上では桂木晃介を囲み、桂木一派のメンバーが駄弁っていた。
生徒間での体育館の使用権限は、三年は体育館二階のギャラリー、二年はステージ、一年は一階フロアだ。いずれも各学年を仕切る一派のみがそこに屯することを許される、という暗黙の了解がある。ちなみにフロアの中央は喧嘩用にいつでも空けてある、闘技場のような扱いとなっている。
この度ステージを手に入れた桂木一派は総勢二十名近く。
「それにしてもあの榊が、葛城をこう、取り押さえるとは思わんかったよな」
「あれなに、どうやったんだ?」
「なんか早くて分かんなかったよな」
「護身術みてえなやつ」
皆の話題は刃物を持った葛城を難なく取り押さえた榊先生についてである。
「実はさあ、俺、兄貴にあんま大っぴらに話すなって言われてんだけど……」
声をひそめ、ここだけの秘密だと目配せをしながら柿岡が話し始める。
柿岡の兄は、同学校の定時制を仕切っている柿岡早人なのだ。彼は兄経由でさまざまな情報を仕入れてくるため重宝されていた。
柿岡が言うには、
「理科の榊先生は昔、ここの定時の幹部だったんだって。檸檬姐弩の小田桐麗子や当時の大将の柳澤さんとも随分仲が良かったらしいんだよ。月輪、鳥居、地蔵の連中と協定を結んで連合を結成したのも榊先生が現役の時だ。で、麗子さんと柳澤さんが卒業した後は実質、榊先生が仕切ってた。兄弟みてえなαの二人組も居て、その人達も榊先生には頭が上がらなかったらしい」
というのだ。これを聞いて皆、ざわめきはじめる。
「連合の初世代ってことか」
「それってJOKERを潰したっていう」
「なんかそれ聞いたことあるかも。ウチの一番上の姉貴、檸檬姐弩だったから」
「榊……先生って実はヤバい人なんか?」
ちょっと曰くあり気な雰囲気を出して語ったところで、柿岡は口止めできるほどの影響力を持ってはいない。人の口に戸は建てられぬ。
この時の情報により、「榊先生はヤバい奴」という認識が生徒間に広まったのは言うまでもない。
御磨花市の花園地区にある不良の溜まり場、花園高校。放課後の体育館で、今日も今日とて元気な生徒たちが喧嘩に勤しんでいる。
本日の花高おススメは……
二年生、葛城一派の頭、葛城宗次郎
対
二年生 、桂木一派の頭、桂木晃介
葛城VS桂木、のタイマンというややこしいことこの上ない喧嘩である。
どっちが勝っても「かつらぎ」だ。彼らは同学年の覇権を巡って争いが絶えない間柄であったが、このたびついに一騎打ちと相なったのだ。
開戦当初、優勢だったのはスピードと手数の多さで葛城であったが、次第に持久力に差が出始める。後半となると打たれ強い桂木の方が巻き返してきた。桂木の重い打撃を受け鼻血を流した葛城がいよいよ膝を折るかと思われたその時、葛城が刃物を取り出したのだ。小さなナイフであったが、それは桂木の左腕を浅く切り裂いた。
明らかな反則。
彼らの周りを取り囲んでいた桂木一派たちは罵声を浴びせて怒り、葛城一派はまさかの事態にうろたえた。
だが刃物を振り回す相手を取り押さえた経験のある者などそこには居なかった。一歩間違えば自分が刺され、最悪死ぬかもしれない。
「竹ちゃん呼んでこい!」
と誰かが叫ぶ。ここで言う「竹ちゃん」とは養護教諭の竹之内のことだ。
花園高校の養護教諭、男性型αの竹之内。彼はグリズリーのような図体と怪力で、こうした生徒同士の喧嘩に「マズいこと」が起きた場合によく駆り出される。未熟な十代前半の子供であれば軽々と取り押さえることができた。
桂木一派のメンバーである柿岡ほか数人が、保健室へ向けて駆け出した。
同日、教員の榊龍時は図書室で調べ物をして職員室へ戻る途中、なにやら騒々しい気配を感知した。
また子供達の喧嘩だなと思った。その辺の感の鋭さは花園高校定時制に身を置いていただけのことはある。
喧嘩の舞台は体育館らしい。いちおう注意しておくか、と体育館への渡り廊下を歩いていると、出入り口から生徒が数人飛び出してきた。敗走という雰囲気でもない。
榊は彼らを呼び止め、二年の柿岡という生徒に何があったか尋ねると、
「か、葛城がナイフで、桂木を切った!」
と聞くや否や走り出す。
柿岡は、この教員が止めに入るつもりだと分かって後を追い、仲間に「お前は竹ちゃん連れて来い!早く!」と指示した。
榊は外野の生徒達の間をするすると縫って葛城の正面から迫り、あっという間に腕を捻り上げてナイフを放棄させ、流れるように床に押さえつけたのだった。当の葛城も自身になにが起こったのか咄嗟に理解し難いらしく、抵抗もしない。
流石の花園高校の不良達もあっけに取られ、呆然と見ているだけだった。
やがて竹之内がやって来る。
榊は竹之内に怪我をした生徒の手当を任せた。葛城にはもう暴れる意思がないと判断してゆっくりと解放してやり、悠然と落ちたナイフを没収する。そうしてから、鼻血をたらしたままの葛城にハンカチをあてがう。
「はいじゃあお前ら、解散。葛城は説教ね」
生徒達はおろか竹之内もまた、荒事には縁のなさそうな風貌の榊先生がやってのけたことに驚きを隠せなかった。
この後、葛城宗次郎は数日間の停学処分となり、二年の「かつらぎ戦争」はとりあえず鎮静したのだった。
どちらが勝者かといえば、刃物なぞを使った時点で葛城は負け、桂木は勝ったということになるだろう。
・
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喧嘩があった翌日の放課後。
体育館のステージ上では桂木晃介を囲み、桂木一派のメンバーが駄弁っていた。
生徒間での体育館の使用権限は、三年は体育館二階のギャラリー、二年はステージ、一年は一階フロアだ。いずれも各学年を仕切る一派のみがそこに屯することを許される、という暗黙の了解がある。ちなみにフロアの中央は喧嘩用にいつでも空けてある、闘技場のような扱いとなっている。
この度ステージを手に入れた桂木一派は総勢二十名近く。
「それにしてもあの榊が、葛城をこう、取り押さえるとは思わんかったよな」
「あれなに、どうやったんだ?」
「なんか早くて分かんなかったよな」
「護身術みてえなやつ」
皆の話題は刃物を持った葛城を難なく取り押さえた榊先生についてである。
「実はさあ、俺、兄貴にあんま大っぴらに話すなって言われてんだけど……」
声をひそめ、ここだけの秘密だと目配せをしながら柿岡が話し始める。
柿岡の兄は、同学校の定時制を仕切っている柿岡早人なのだ。彼は兄経由でさまざまな情報を仕入れてくるため重宝されていた。
柿岡が言うには、
「理科の榊先生は昔、ここの定時の幹部だったんだって。檸檬姐弩の小田桐麗子や当時の大将の柳澤さんとも随分仲が良かったらしいんだよ。月輪、鳥居、地蔵の連中と協定を結んで連合を結成したのも榊先生が現役の時だ。で、麗子さんと柳澤さんが卒業した後は実質、榊先生が仕切ってた。兄弟みてえなαの二人組も居て、その人達も榊先生には頭が上がらなかったらしい」
というのだ。これを聞いて皆、ざわめきはじめる。
「連合の初世代ってことか」
「それってJOKERを潰したっていう」
「なんかそれ聞いたことあるかも。ウチの一番上の姉貴、檸檬姐弩だったから」
「榊……先生って実はヤバい人なんか?」
ちょっと曰くあり気な雰囲気を出して語ったところで、柿岡は口止めできるほどの影響力を持ってはいない。人の口に戸は建てられぬ。
この時の情報により、「榊先生はヤバい奴」という認識が生徒間に広まったのは言うまでもない。
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