FIGHT AGAINST FATE !

薄荷雨

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short story ※時系列バラバラです

世の性ではそれを

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「ふーん、前の恋人から貰ったやつまだ使ってるんですか、俺と居るときも、へぇ」

 榊が休日の外出用に使っているトワレについて、その履歴を知った良太は年甲斐もなく拗ねた態度をとった。
「なんだよ、ダメか?」
「ダメじゃないっすけど」
 人から頂いたものを使わないでいるのも勿体無いから付けているだけだよ、と榊はいかにも良識的な意見を述べた。
「けど、嫌ならもう付けないよ」
「べつに、嫌だとかっていうわけじゃ……」
 良太はやっかみ、そしてまた舌を巻いているのだ。榊龍時という男に纏わせる不可視な衣を与えた、名も知らぬ女のセンスの良さに。

 風と水のように爽やかで、なおかつ官能的な大人の色気を演出する思慮深い香り。

 星の数ほどある香水ブランドの商品群からこれを選出して彼に送る、なんてことは自分には到底できないことのような気がした。もしかすればオーダーメイドかもしれない。榊の元カノに対して羨望と敵対意識が入り混じる。ともすれば「どうせ俺なんか」という、自己卑下の沼にはまりそうだった。
 榊がまだ前の恋人の領域下にいるのだと思うと、良太はたまらない焦燥感に駆られる。彼に選ばれた今の恋人は自分なのだという喜びと安心も、αの性質からくる執着心の強さが勝るためなのか、些細なことでも嫉妬に狂いそうになる。
 けれど榊の身包みを剥ぐように、今すぐその匂いを脱ぎ捨てろ!なんて言えない。彼に嫌われたくない、失望されたくない、拒絶されたくない。信頼されたい、好かれたい、身も心も全部欲しい、それが榊に対する良太の原動力だ。そのためなら何年だって──

 待ってやる。
 その匂いが消え去るまで。

 このとき良太は、次に榊に贈り物をするなら香水にしようと決めた。誰にも選べない、誰も真似できないオリジナルの芳香を纏わせてやろうと企んだ。
 警戒されないようにごく自然な仕草で榊の肩を抱く。頬とこめかみに軽くキスをして、宣言する。
「今度なにかプレゼントする時は、香水にしますね」
 その言葉の裏には、貴方には必ず俺の印を付けてやる、という深い執念がこもっていることを榊は知らない。
 
 
 香りを送るのは独占欲のあらわれ。
 世のさがではそれを、マーキングという。
 


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