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short story ※時系列バラバラです
リップクリーム
しおりを挟む榊の横顔を盗み見ていた良太は、少しばかりかさついた彼の唇に気付いた。
今夜のお泊まりセットを詰め込んだバッグを漁る。小さなポケットからリップクリームを取り出して、
「もしよかったらこれ」
使ってください、と差し出す。
ところが榊は、ありがとうと応えたもののそれを受け取らなかった。かわりに少しだけ顎を上げて、
「んっ」
と短く喉で鳴く。
俺に塗って欲しいってことかな、と解釈した良太はキャップを外し、唇に慎重にクリームのスティックを押し当てようとした。
だがなぜか、榊は上下の唇を内側に引っ込めてしまう。
そうしてまた「ん」と催促の仕草をして、良太がその唇にクリームを塗ろうとすると、顔をそむけたりして塗らせまいとする。二、三度これを繰り返した。
どういう意味?
何が欲しいの?
良太は榊の要求に出来る限り応えたいのだが、この振る舞いの意図を読み解くのは難題だった。リップクリームを借りるでもなく、かといって唇に塗らせようともしない。彼は何を考えているのだろう。
ひょっとして新品がいいのか、と思い当たる。
「新しいの、買ってきましょうか?」
けれど榊は、それでいい、それがいいよ、なんて言うのだ。
もう一度だけ挑戦してみる。
榊の顎を左手で固定──顎クイのように──して上を向かせる。そして乳白色の固形クリームを彼の下唇のふくらみに滑らせようとしたのだが、またしても拒絶されてしまった。
「もう、さっきから……どうすればいいんですか」
ついに良太は不根を上げた。
榊は細縁の眼鏡を外して静かに目を閉じる。
分かった!
良太は微かにメントールの香るそれを、自分の唇に塗りつける。今度こそ榊は、潤いをもたらすそれを口付けと共に受け入れた。
リップクリームは唇から唇へ。
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