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short story ※時系列バラバラです
ひざまくら
しおりを挟むいつものように榊の部屋を訪れていた良太は、膝枕を所望されたので嬉々としてこれに従った。
「意外と悪くないよな、男の膝枕も」
良太の太ももに頭を乗せた榊が呟いた。
「男の膝枕、も?」
「も」
「も?」
「前のひとがたまにしてくれた」
妬くか?と榊は良太を見上げる。
「元カノの話する?」
「あーあー聞きたくない、どっちから告ったんすか」
「結局聞いてる」
「気になります」
「サークルの歓迎会のあと、彼女いなかったら付き合って欲しいって言われて」
「えそれ一回言われただけで恋人になったってことっすか」
「そうだけど」
「一回で?たった一回告っただけで?なんで?」
「なんかおかしいか」
「俺、榊さんに百回以上告ってましたよね、なのにその人とは一回で付き合うておかしくないすか」
ずるい、と良太が喚く。枕が揺れて寝心地がよろしくない。
「その女……の人、とは別れたんですよね」
「別れてなきゃ良太くんとは付き合えないよ。二股かけるほど器用じゃねえしな」
「振ったんすか、振られたんすか」
「振ってもいないし、振られてもいない、たぶん」
「どういうこと、自然消滅?」
「海外に留学したんだ、彼女が。同じ時期にこっちはこっちで試験とか教育実習もあったし、資格も取らなきゃとか、バイトもしてたし、色々あって。連絡取り合うにもなんていうか、ちょっとお互い疎遠になりつつあって。で、いったん別れて、それぞれちゃんとやることやろうってことになった。社会人になるために必要なことに集中しようって彼女が言っ……あれこれ振られたかも」
「微妙っすね」
「振られた」
「微妙な線ですよ」
「………………」
榊は打ちひしがれたようにしんなりしてしまった。そこそこダメージはでかかったと見える。ここで「大丈夫です、振られてませんよ」と励ませないのが今の恋人、良太の立場だ。
なぜなら、振られていない=まだ彼女と交際中、ということになってしまう。そうすれば榊のことだから、彼女との関係が終わるまで一緒にはいられない、なんて言い出しかねない。真面目というか潔癖というか、そこが恐ろしいのだ。
もしかしたらその元恋人も、留学が終わって帰国するまで榊が待っていてくれると踏んでいたのかもしれない。あるいは復縁を視野に入れての、一旦別れよう、だった可能性もある。仮にそうだったとしても──
お前に返す気なんて無いからな!
欲しかったら俺とタイマンしろ、女だからって手加減しねーぞ!
良太は脳内で作り上げた悪女に毒付いた。いかにも尻が軽そうで性格の悪い、強欲なバカ女を想像した。酷いものである。
榊は仰向けから、そっぽを向いたような仕草で横向きになった。ぱっと見なんともないのだが、打ちひしがれて弱気になっているのが分かる。榊はリアクションが薄い人間なのだが、良太は表情や動作でおおよその感情を読めるようになっていた。執着心からくる観察の賜物だ。
静かに悲嘆する榊の姿は良太の庇護欲をそそる。自分が保護して守って、癒して、溶けるほど甘やかしてあげなければ、という気にさせる。
銀色の髪を梳きながらゆるやかに頭をなでる。手懐けるように。
「今は、俺がいるじゃないですか」
「ああ」
「昔の恋人のこと、きっぱり忘れろとかいいませんけど」
「んー」
「もうこっちの方を優先でお願いします」
こちらの膝枕も、悪くないでしょう。
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