からだにおいしい料理店・しんどふじ ~雨のち晴れときどき猫が降るでしょう~

景綱

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雨のち晴れときどき猫が降るでしょう

福猫効果は……

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 あっ、スクラッチ。
 裕はスクラッチのことをすっかり忘れていた。

 障子の張り替えなんて頼まれなかったら、今頃大当たりして興奮していたかもしれないのに。いや、落胆していたかもしれないか。
 障子の張り替えに思ったよりも手間取ってしまって終わったと思った瞬間、その場にごろ寝してしまった。やり慣れていないことは疲れる。左手がうまく使えないのに人使いの荒い母だ。でも、母なりにリハビリになると思ってのことかもしれないと思い直す。きっとそうなのだろう。母はそういう人だ。

 そうだ、スクラッチだ。
 残り三枚。大当たりがこの中にあるのだろうか。
 十円玉を手に取り、『いざ勝負』とばかりに気合を入れて削りはじめる。

 どうだ、当たりか。ハズレか。
 期待感でいっぱいだったのだが、結果はハズレだった。
 結局、三千三百円か。

 まあ、こんなものだろう。いくらあの白猫が福猫だって言われていようがそう簡単に大当たりが出るはずがない。けど、あの店で大当たりしている人結構いた。福猫ぷくの力なのだろうか。偶然だ。待てよ、疑っているから大当たりしなかったのかも。それとも、大当たりしたら人生を台無しにする相でも出ていただろうか。
 また明日行ってちょっと文句でも言ってやろうか。いや、一応プラス三百円だしぷくを責めるのはちょっと違うだろう。ぷくは『おまえは大金を持つと危険だぞ、気をつけろ』とでも言っているのかもしれない。そんな気がしてきた。

 過去を振り返れば身に覚えがあった。大金ではないが、臨時ボーナスが出て嬉しさに奢ってしまった経験がある。もちろん全部使ったわけじゃない。あっ、本も大量に購入してしまった。残った臨時ボーナスは確か五、六千円くらいだったろうか。あとになってしまったと思ったのを思い出す。
 それに大当たりしたら楽できるなんて思ってしまったことも福猫ぷくはお見通しだったのだろう。そんなに世の中甘くない。なめるなよってところだろう。

 これは福猫ぷくからの戒めだと心に刻んでおこう。それならば、ぷくにお礼しに行くのもありか。ついでにまた『しんどふじ』に寄って行こう。それがいい。

 裕はにやけつつ、本当は安祐美の料理がまた食べたいだけだ。けど、毎日はいけない。仕事をみつけないと預金もそのうち底をつく。
 自分は先輩のこと好きなのだろうか。嫌いではない。ただ恋愛感情なのかはわからない。ちょっと待て、相手は人妻だ。危ない、危ない。変なことをまた考えてしまった。

 フミの占いを信じれば、これから運が上向きになっていくはず。きっと、いい仕事が見つかるだろう。恋人もみつかるかもしれない。金運も上向きになるのかわからないけど、そうあってほしい。それに左手の痺れも消えていってくれたら言うことなしだ。

 裕はベッドに大の字になって天井をみつめた。
 本当にそうなるだろうか。

 ダメだ、ダメだ。『前向きに』だろう。
 今日はもう遅い。寝よう。

 部屋の電気を消したところで机の上でピカピカと点滅するものが目に留まり再び部屋の電気をつけた。
 メールが来ているみたいだ。誰からだろう。

 スマホを手に取り確認すると辞めた会社の同僚からだった。
 どうやら、新田が謝罪したいと話していたらしい。なんだかこれって運命の歯車が動きはじめたって感じかも。雨のち晴れってことか。そう思えばいいのかもしれないけど……。
 裕はいろんな感情が渦巻きしばらく固まっていた。どうしよう。自分もいろいろと考えてはいたけど、いざそういう事態に直面すると尻込みしてしまう。

 会いたくない気持ちも湧き起こってくる。
 ここは会うべきだろう。わかっている。そう思っていたはずだ。
 メールには新田の連絡先も書かれている。電話すればいいだけだ。わかっていても電話をかけることができずに裕はスマホの画面をしばらくみつめていた。元同僚に仲介してもらうことも考えたがそれも躊躇ってしまう。

 結局、新田へ連絡することも元同僚への返信も出来ずそのままスマホを机に置いた。
 どうしたらいいのだろう。いや、答えは出ているはず。会わなきゃダメだ。このままだと前に進めない。すべてをスッキリさせなきゃ。

 新田はきっと勇気を出して元同僚に相談してきたはずだ。
 裕はずっと新田のことが頭から離れずなかなか眠りにつけなかった。気づけば窓の外から明かりが差し込んできていた。
 もう朝か。

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