からだにおいしい料理店・しんどふじ ~雨のち晴れときどき猫が降るでしょう~

景綱

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雨のち晴れときどき猫が降るでしょう

安祐美と里穂

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「ママ、今日もお客さんいっぱい来てくれたらいいね」
「そうね」
「ねぇ、今日は里穂もお店に居ちゃダメかな」
「えっ、どうして」
「うんとね。どうしても手伝いたいの」
「どうしても」

 安祐美の問い掛けに大きく頷く里穂。
 安祐美はフッと笑みを浮かべて「そうか、それじゃ邪魔しないって約束してくれる」と里穂に話した。

「うん、邪魔しないよ。里穂、いい子にしているもん」
「わかったわ。ならいいわよ」
「やったー」

 里穂はそう叫ぶと奥の自宅へ繋がっている扉から出ていった。階段を上る音が微かに聞こえてくる。
 さてと、しっかりと準備しなくちゃ。

 あっ、そうそう。お品書きだ。カウンターにお品書きを置くと仕込みをはじめた。
 昨日必死で探して出てこなかったお品書きは、まさかの押入れの布団の中で発見した。布団と一緒にお品書きをしまうなんて我ながら情けない凡ミスだ。
 今日はいちいちお客さんに話さなくて済む。けど、いろいろと言ってくる人もいるかもしれない。
 お品書きのある項目に目を向けて吐息を漏らす。

『お酒の提供はありません』

 ここには酒類はない。厳密にはまったくないわけではない。料理に使うためのお酒はある。それは飲むためのお酒ではないからないと言っていい。
 ここはからだにおいしい料理店だ。飲み屋ではない。まあ、酒も百薬の長なんて言われているけどお酒が飲みたい人は商店街にある居酒屋『とん兵衛』を紹介することにした。そのほうが商店街も潤うだろう。藤には感謝してもらわなきゃ。なんて恩着せがましいこと思っちゃいけないか。

 今日も新鮮な素材が揃っているしからだにおいしい料理をたくさん提供できるだろう。
 朝採れの新鮮な野菜も父が運んできてくれている。肉も魚も野菜OK。

 デザートも準備OK。洋・和菓子店の『竹林』にお願いしてよかった。リクエスト通りの出来栄えに大満足。共同制作ってところだろうか。ここで出しているデザートは竹林でも買える。昨日も出した『おからクッキー』に関しては柳原豆腐店でも買えるし、この商店街に貢献できている気がする。自己満足で終わらないようにしないといけない。

 ごはんも良い感じで炊けている。
 白米と玄米を用意するのはちょっと大変だけど、みんなに喜んでもらうにはしかたがないこと。今日は炊き込みごはんはやめることにした。
 あと少しで開店だ。
 今日もいい一日になりますようにと願い気合を入れる。

 そういえば裕はどうしているだろう。力を貸すなんて話してしまったけど大きなお世話だったろうか。困っている人を見ると放っておけない性質だからついそんなこと口にしてしまう。裕は自分の性格をわかってくれているかもしれないけど。いや、どうだろう。
 そんなこと考えてもしかたがないか。自分は自分で頑張るしかない。相談してくれれば全力で力を貸すつもりではいる。
 鍼灸院のことも話さないといけないし。また食べに来てくれたらいいけど。
 安祐美は時計を見遣り、そろそろ開店か。気を引き締めて頑張ろう。

「里穂、そろそろお店開けるわよ。何をしているの」
「あっ、待って、待って。今行く」

 二階から大きな声がしたかと思うと階段を駆け下りて来る音がした。店に顔を出した里穂は着物姿だった。いつの間に。紺地に紅葉の柄の着物と黄色い帯が良く似合っている。祖母が用意してくれたのだろう。これはこれでこの店の評判に繋がるかもしれない。

「里穂、よく似合っているわよ」

 里穂は照れ臭そうに笑みを浮かべていた。

「お祖母ちゃんに着せてもらったの」
「うん」
「よかったわね。じゃ、里穂、表に営業中の看板出してくれる」
「うん」

 里穂は元気に返事をして看板を外へ出しにいった。

『あなた、私頑張っているからね。見守ってくださいね』

 安祐美は上を見ながら天国の旦那に心の中で願った。

「ママ、里穂ね、お客様にお茶出しするね。昨日、お祖母ちゃんと練習したの。だから、大丈夫だからね。」
「えっ、本当に」
「ほんとうのほんとうの、ほんとうだよ」

 笑顔の里穂が輝いて見えた。お茶を零して火傷をしないか心配だけど、任せてみよう。

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