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第1章 猫がくれた新たな道
(1-6)
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サバトラ猫がぴたりと足を止めて、ちょこんと座り込むと、こっちを振り返る。
花がたくさん並んだ扉の前だ。花屋だろうか。
『たんぽぽ』という看板があるから、きっとそうなのだろう。
サバトラ猫は、扉へと向き直ると、ドアノブあたりをみつめて伸び上がる。カリカリとの音をさせたかと思うと、再びこっちに振り返り小さく鳴いた。
扉を開けてと催促しているみたいだ。
この店の猫なのかもしれない。それなら、開けてあげなきゃ。雨で濡れているし、拭いてあげないといけない。飼い主も心配しているかもしれない。
「ニャッ」とサバトラ猫が鳴く。
「あっ、ごめん、ごめん。いま、開けるから」
「ニャニャッ」
すぐに返答があって、言葉が通じているみたい。梨花は顔をほころばして、サバトラ猫をみつめた。
「ニャッ」
「本当にごめん。猫ちゃん、いま、開けますね。ここが君のおうちなんでしょ」
「フニャ」
扉を開けてあげると、心地よいドアベルが頭上で鳴った。サバトラ猫は、扉に隙間ができるとすぐに、するりと滑り込むようにして中へ入って行ってしまった。
そのとき、すぐ脇にある丸くて小さな黄色い花に目が留まる。
「かわいい」
思わず、言葉が漏れた。
扉を半開きにさせたまま花に見惚れていると、戻って来ていたサバトラ猫が脛に頭を擦り付けて視線を送ってきた。
「ごめん、ごめん。行くから。濡れた身体も拭かなきゃいけないもんね」
サバトラ猫は、チラッとだけ目を合わせて再び中へと姿を消した。
梨花は傘を閉じて雨の雫を落とすと、「お邪魔します」と口にする。お店に入るのに、『お邪魔します』は変かとも思ったが気にしないことにした。おかしくはない。たぶん。
店内を見回して、サバトラ猫の行方を探す。どこへいったのだろう。
それはそうと、なんだか素敵なお店。
小さな店だけど、可愛らしくて居心地がいい。真っ先に目につくのはフラワーアレンジメントだ。こういうの出来る人って尊敬してしまう。あっ、そんなことよりもお店の人はいないのだろうか。奥にいるのだろうか。サバトラ猫もそこにいるのかもしれない。正面の奥に長い暖簾がかかっていて、先は見えない。
梨花は「すみません、失礼します」と声をかけて奥へと足を向けた。すると、お婆さんが倒れていて、顔を顰めて腰を擦っていた。
「あ、あの、大丈夫ですか」
梨花は、慌てて近づきしゃがみ込む。
「あっ、すみませんねぇ。ちょっと手を貸してくれるかい」
「はい」
梨花はお婆さんの手を取り起こしてあげると、そばにある椅子に座らせてあげた。
「いたたた。すまないけど、その奥にクッションがあるから持ってきてくれるかい」
「はい」と答えてすぐに探しに行く。クッションはすぐにみつかり椅子の上に乗せてあげると、お婆さんは座り直した。ちょっと顔を歪めているが、さっきよりはよさそうだ。
話しによると、どうやら足を滑らせて腰を打ってしまったようだ。いや、あの感じだと腰というよりも尾骶骨あたりだろうか。もしかしたら、骨折しているかもしれない。念のため、病院に連れて行ったほうがいいだろうか。
「ニャニャッ」
「ああ、そうかい、そうかい。ツバキちゃんが呼んできてくれたんだね。こんなに濡れちゃって、雨の中、本当にご苦労様」
お婆さんはエプロンからハンカチを取り出して、サバトラ猫の背中を拭こうとする。ところが、小さく呻き顔を歪めてしまった。
梨花は、すぐに「私が拭きます」とハンカチを受け取りサバトラ猫の背中を優しく拭う。
このサバトラ猫がここへ連れて来たのは、本当にお婆さんを助けるためだったのだろうか。偶然なんじゃ。梨花は、ここまで来る道のりを思い返した。
どう考えても、目的をもってここへ連れて来られた感が強いか。
やっぱり、お婆さんを助けてほしかったってこと。そうだとしたら、賢い猫だけど、そんな猫っているのだろうか。犬ならありそうだけど、さすがに猫はないんじゃ。
ツバキと呼ばれたサバトラ猫の頭や身体を拭きながら、首を傾げる。チラッと向けてきたツバキの瞳にドキッとした。色眼鏡で見たらダメか。
「お利口さんなんですね。ツバキちゃん」
「そうなんだよ」
頬を緩ませて、ツバキを見遣り、お婆さんに目を移す。
「あっ、それはそうと腰は大丈夫ですか」
「大丈夫、大丈夫。湿布でも貼っておけば治るはずだよ。うっ」
どう見ても、大丈夫そうじゃない。やっぱり病院で診てもらうべきだ。一人で立ち上がれないみたいだし、付き添って行ってあげなきゃ。
チラッとお婆さんに目を向けて、大きなお世話だろうかと思ってしまう。そう考えると、話すのを躊躇った。だとしても放っておけない。なんだろう、初めて会った人なのにこんなに心配するなんて。いやいや、こんなに痛がっている人を放ってなんておけない。心配するのは当たり前のことだ。本当に痛そうだ。骨折している可能性もある。無理にでも連れて行かなきゃ。
花がたくさん並んだ扉の前だ。花屋だろうか。
『たんぽぽ』という看板があるから、きっとそうなのだろう。
サバトラ猫は、扉へと向き直ると、ドアノブあたりをみつめて伸び上がる。カリカリとの音をさせたかと思うと、再びこっちに振り返り小さく鳴いた。
扉を開けてと催促しているみたいだ。
この店の猫なのかもしれない。それなら、開けてあげなきゃ。雨で濡れているし、拭いてあげないといけない。飼い主も心配しているかもしれない。
「ニャッ」とサバトラ猫が鳴く。
「あっ、ごめん、ごめん。いま、開けるから」
「ニャニャッ」
すぐに返答があって、言葉が通じているみたい。梨花は顔をほころばして、サバトラ猫をみつめた。
「ニャッ」
「本当にごめん。猫ちゃん、いま、開けますね。ここが君のおうちなんでしょ」
「フニャ」
扉を開けてあげると、心地よいドアベルが頭上で鳴った。サバトラ猫は、扉に隙間ができるとすぐに、するりと滑り込むようにして中へ入って行ってしまった。
そのとき、すぐ脇にある丸くて小さな黄色い花に目が留まる。
「かわいい」
思わず、言葉が漏れた。
扉を半開きにさせたまま花に見惚れていると、戻って来ていたサバトラ猫が脛に頭を擦り付けて視線を送ってきた。
「ごめん、ごめん。行くから。濡れた身体も拭かなきゃいけないもんね」
サバトラ猫は、チラッとだけ目を合わせて再び中へと姿を消した。
梨花は傘を閉じて雨の雫を落とすと、「お邪魔します」と口にする。お店に入るのに、『お邪魔します』は変かとも思ったが気にしないことにした。おかしくはない。たぶん。
店内を見回して、サバトラ猫の行方を探す。どこへいったのだろう。
それはそうと、なんだか素敵なお店。
小さな店だけど、可愛らしくて居心地がいい。真っ先に目につくのはフラワーアレンジメントだ。こういうの出来る人って尊敬してしまう。あっ、そんなことよりもお店の人はいないのだろうか。奥にいるのだろうか。サバトラ猫もそこにいるのかもしれない。正面の奥に長い暖簾がかかっていて、先は見えない。
梨花は「すみません、失礼します」と声をかけて奥へと足を向けた。すると、お婆さんが倒れていて、顔を顰めて腰を擦っていた。
「あ、あの、大丈夫ですか」
梨花は、慌てて近づきしゃがみ込む。
「あっ、すみませんねぇ。ちょっと手を貸してくれるかい」
「はい」
梨花はお婆さんの手を取り起こしてあげると、そばにある椅子に座らせてあげた。
「いたたた。すまないけど、その奥にクッションがあるから持ってきてくれるかい」
「はい」と答えてすぐに探しに行く。クッションはすぐにみつかり椅子の上に乗せてあげると、お婆さんは座り直した。ちょっと顔を歪めているが、さっきよりはよさそうだ。
話しによると、どうやら足を滑らせて腰を打ってしまったようだ。いや、あの感じだと腰というよりも尾骶骨あたりだろうか。もしかしたら、骨折しているかもしれない。念のため、病院に連れて行ったほうがいいだろうか。
「ニャニャッ」
「ああ、そうかい、そうかい。ツバキちゃんが呼んできてくれたんだね。こんなに濡れちゃって、雨の中、本当にご苦労様」
お婆さんはエプロンからハンカチを取り出して、サバトラ猫の背中を拭こうとする。ところが、小さく呻き顔を歪めてしまった。
梨花は、すぐに「私が拭きます」とハンカチを受け取りサバトラ猫の背中を優しく拭う。
このサバトラ猫がここへ連れて来たのは、本当にお婆さんを助けるためだったのだろうか。偶然なんじゃ。梨花は、ここまで来る道のりを思い返した。
どう考えても、目的をもってここへ連れて来られた感が強いか。
やっぱり、お婆さんを助けてほしかったってこと。そうだとしたら、賢い猫だけど、そんな猫っているのだろうか。犬ならありそうだけど、さすがに猫はないんじゃ。
ツバキと呼ばれたサバトラ猫の頭や身体を拭きながら、首を傾げる。チラッと向けてきたツバキの瞳にドキッとした。色眼鏡で見たらダメか。
「お利口さんなんですね。ツバキちゃん」
「そうなんだよ」
頬を緩ませて、ツバキを見遣り、お婆さんに目を移す。
「あっ、それはそうと腰は大丈夫ですか」
「大丈夫、大丈夫。湿布でも貼っておけば治るはずだよ。うっ」
どう見ても、大丈夫そうじゃない。やっぱり病院で診てもらうべきだ。一人で立ち上がれないみたいだし、付き添って行ってあげなきゃ。
チラッとお婆さんに目を向けて、大きなお世話だろうかと思ってしまう。そう考えると、話すのを躊躇った。だとしても放っておけない。なんだろう、初めて会った人なのにこんなに心配するなんて。いやいや、こんなに痛がっている人を放ってなんておけない。心配するのは当たり前のことだ。本当に痛そうだ。骨折している可能性もある。無理にでも連れて行かなきゃ。
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