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第3章 花屋『たんぽぽ』に集う
(3-1)
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ツバキは、開店と同時に入り口横の出窓のところに陣取って、外を眺めていた。看板猫だと自負しているみたいだ。そうだとしたら、本当に賢い猫だ。
感心している場合じゃない。仕事、仕事。
梨花は、自分に活を入れた。
店内を見回して、飾った花をチェックしていく。
飾り方にもきっとセンスが出るのだろう。買いたくなるように見せる陳列になっているだろうか。値札と花の名前の札も確認する。POPを眺めて、よしと頷く。
もう一度、店内をグルッと眺めて、あれっとなる。
束にした花がいくつか作られていた。仏花みたいだ。いつの間に、作ったのだろう。
「もうじき彼岸だからね。仏花はなくっちゃねぇ」
そうか、彼岸なのか。そういうことも頭に入れておかなきゃいけないのか。年末年始とか、ひな祭りとか、五月の節句とか、お盆もそうか。クリスマスもある。一年の行事を頭にしっかり叩き込まなきゃ。
「梨花さん、ゆっくりと覚えていけばいいからねぇ。そうじゃないとパニック起こしてしまうからねぇ」
「はい、わかりました」
「ニャニャッ」
「おやおや、ツバキまで返事しなくていいんだよ」
梨花はクスリと笑った。やっぱり猫がいると和む。ツバキの頭を撫で撫でして「なんでこんなにも可愛いのかしら」と囁いた。そのとき、店の扉が開かれて「お婆ちゃん、おはよう」と元気のいい声が飛んできた。ツバキは、奥の部屋へ飛んで逃げていく。
「おや、楓ちゃんじゃないかい。今日は早いね」
「だって、だって。ずっと、お休みだったから、どうしちゃったのかなって思って」
「あら、心配してくれたのかい。ありがとうねぇ」
「えへへ、だってね。楓、お婆ちゃんのこと大好きなんだもん」
節子は満面の笑みで、楓の頭を撫でていた。
楓って言うのか。近所の子なのだろうか。フリルのある白いワンピースに、ツインテールが良く似合っている。
「あらあら、うれしいこと言ってくれるねぇ。あたしも楓ちゃんのこと大好きだよ」
「わーい、やったー。あっ、ねぇねぇ、あの、あの、お姉さんはだーれ」
「ああ、今日からこの店で働くことになった、小城梨花さんだよ」
「ふーん、そうなんだ。じゃ、楓もここで、はたらく」
「えっ、楓ちゃんも働くのかい」
「うん」
「そうかい。けど楓ちゃん、幼稚園はどうしたんだい」
「えっ、えっとね。あのね、うんとね」
首を傾げて、悩んでいる感じの楓が愛らしい。抱きしめたくなってしまう。
「まさか、ズル休みしたんじゃないだろうねぇ」
楓は、ブルブルッと首を振り、「違うもん。あのね、うんとね、そうそう、春休み」とニコリとした。
春休みとの答えに、梨花は首を傾げた。
ちょっと早くないだろうか。
「ダメだよ、楓ちゃん。本当のこと話さなきゃねぇ」
節子も同じことを考えていたのか、そんな言葉を楓に投げかけた。
「だって……ママが……。あっ、そうだ。これ、ママから。はい」
楓は、茶封筒を取り出して節子へ突き出している。
なんだろう。手紙だろうか。節子は、白い紙を取り出して読んでいた。
「なるほど、そういうことかい」
「あの、なんて書いてあったんですか」
節子に手紙を渡されて、梨花も読む。
ふむふむ、なるほど。楓ママが風邪なのか。それで楓を休ませたらしい。そうか、風邪がうつらないようにって、ここに来させたのか。なら、なんで楓は春休みだなんて話したのだろう。まあ、それはいいか。きっと、単なる勘違いだろう。
「楓ちゃん、訳はわかったよ。で、ここで働きたいかい」
「うん、はたらく」
「楓ちゃんは、働くってどういうことかわかっているのかい」
「わかるよ。お婆ちゃんの手伝いをすればいいんでしょ」
節子は口元をほころばせて頷いた。楓もニコリとしている。
笑顔といい、素振りといい。もう可愛すぎ。まるで、天使が舞い降りて来たようだ。
感心している場合じゃない。仕事、仕事。
梨花は、自分に活を入れた。
店内を見回して、飾った花をチェックしていく。
飾り方にもきっとセンスが出るのだろう。買いたくなるように見せる陳列になっているだろうか。値札と花の名前の札も確認する。POPを眺めて、よしと頷く。
もう一度、店内をグルッと眺めて、あれっとなる。
束にした花がいくつか作られていた。仏花みたいだ。いつの間に、作ったのだろう。
「もうじき彼岸だからね。仏花はなくっちゃねぇ」
そうか、彼岸なのか。そういうことも頭に入れておかなきゃいけないのか。年末年始とか、ひな祭りとか、五月の節句とか、お盆もそうか。クリスマスもある。一年の行事を頭にしっかり叩き込まなきゃ。
「梨花さん、ゆっくりと覚えていけばいいからねぇ。そうじゃないとパニック起こしてしまうからねぇ」
「はい、わかりました」
「ニャニャッ」
「おやおや、ツバキまで返事しなくていいんだよ」
梨花はクスリと笑った。やっぱり猫がいると和む。ツバキの頭を撫で撫でして「なんでこんなにも可愛いのかしら」と囁いた。そのとき、店の扉が開かれて「お婆ちゃん、おはよう」と元気のいい声が飛んできた。ツバキは、奥の部屋へ飛んで逃げていく。
「おや、楓ちゃんじゃないかい。今日は早いね」
「だって、だって。ずっと、お休みだったから、どうしちゃったのかなって思って」
「あら、心配してくれたのかい。ありがとうねぇ」
「えへへ、だってね。楓、お婆ちゃんのこと大好きなんだもん」
節子は満面の笑みで、楓の頭を撫でていた。
楓って言うのか。近所の子なのだろうか。フリルのある白いワンピースに、ツインテールが良く似合っている。
「あらあら、うれしいこと言ってくれるねぇ。あたしも楓ちゃんのこと大好きだよ」
「わーい、やったー。あっ、ねぇねぇ、あの、あの、お姉さんはだーれ」
「ああ、今日からこの店で働くことになった、小城梨花さんだよ」
「ふーん、そうなんだ。じゃ、楓もここで、はたらく」
「えっ、楓ちゃんも働くのかい」
「うん」
「そうかい。けど楓ちゃん、幼稚園はどうしたんだい」
「えっ、えっとね。あのね、うんとね」
首を傾げて、悩んでいる感じの楓が愛らしい。抱きしめたくなってしまう。
「まさか、ズル休みしたんじゃないだろうねぇ」
楓は、ブルブルッと首を振り、「違うもん。あのね、うんとね、そうそう、春休み」とニコリとした。
春休みとの答えに、梨花は首を傾げた。
ちょっと早くないだろうか。
「ダメだよ、楓ちゃん。本当のこと話さなきゃねぇ」
節子も同じことを考えていたのか、そんな言葉を楓に投げかけた。
「だって……ママが……。あっ、そうだ。これ、ママから。はい」
楓は、茶封筒を取り出して節子へ突き出している。
なんだろう。手紙だろうか。節子は、白い紙を取り出して読んでいた。
「なるほど、そういうことかい」
「あの、なんて書いてあったんですか」
節子に手紙を渡されて、梨花も読む。
ふむふむ、なるほど。楓ママが風邪なのか。それで楓を休ませたらしい。そうか、風邪がうつらないようにって、ここに来させたのか。なら、なんで楓は春休みだなんて話したのだろう。まあ、それはいいか。きっと、単なる勘違いだろう。
「楓ちゃん、訳はわかったよ。で、ここで働きたいかい」
「うん、はたらく」
「楓ちゃんは、働くってどういうことかわかっているのかい」
「わかるよ。お婆ちゃんの手伝いをすればいいんでしょ」
節子は口元をほころばせて頷いた。楓もニコリとしている。
笑顔といい、素振りといい。もう可愛すぎ。まるで、天使が舞い降りて来たようだ。
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