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第6章 心の雨には優しい傘を
(6-2)
しおりを挟むいつの間にか、颯と自分の話から楓と母親との悩み相談みたいな感じになっていた。
なんだかまた暗い気持ちになってしまった。梨花は楓をみつめた。笑顔でここへ来る楓はいつも無邪気で太陽みたいな子だった。実はいろいろな問題を抱えているのかもしれない。そう思うと梨花は心が痛む。
そうだ、それなら今まで楓があたたかで明るい場所にしてくれたぶん、自分がそうしてあげなきゃいけない。楓の心をあたためてあげなきゃいけない。
節子は楓の母親に何が起きているのか尋ねていた。
「えっと、なんて呼んだらいいのかねぇ」
「あっ、あの榊原彩芽といいます」
「そうかい、彩芽さんかい。どうやら花に縁があるようだね。『サカキ』といい『アヤメ』という名前もねぇ」
「そういえばそうですね。『サカキ』は同じ漢字ですが『アヤメ』は花とは違う漢字なんですけどね。彩りに、あの……」
彩芽がどう説明しようか悩んでいると節子が「その芽かい」と発芽したばかりのマリーゴールドを指差した。あれは売り物じゃなく節子が育てている花だ。
「ええ、それです。その芽です」
「やっぱり花と関係あるんだねぇ。楓ちゃんといい。花が好きな一家なんだねぇ。あたしは嬉しいよ」
節子が微笑んでいる。
節子の気持ちはわかる。花屋で働いているからか自分もそんなときがある。花って癒される。花の名前をつけている人と出会うだけでも心にもパッと花が咲く。不思議だけど、そんなふうに思えるようになっていた。
ずっと和やかな雰囲気にいられたらいいのだけど、世の中そんなに甘くない。厳しい現実を突きつけられることがある。あんな小さな楓さえそういうときがあるのだろう。
彩芽は節子に話し出した。
彩芽は水商売をしているらしい。小さなスナックだ。飲み屋のママさんだ。世間ではいまだに白い目で見てくる人がいる。
要は、水商売している母親の子供はダメな子だと周りで噂をしているってことらしい。そんなのおかしい。楓はいい子だし、彩芽だって一生懸命働いて育てているだけだ。
なんでわかろうとしないのだろう。決めつけてしまうのだろう。
女手一つで子育てする大変さをわからないはずがない。同じ女性として手助けしてやろうと思うのが心情だろう。それを非難するなんて言語道断だ。
それだけではない。楓が嘘つき呼ばわりされているらしい。
きっと、小百合のことだろう。幽霊が見えると楓は皆に話しているのだろう。
目に見えない存在を認めることができない人は多い。怖いから認めないって人もいる。だから幽霊がいるって話されたら変わり者とか嘘つきとか言われてしまう。それだけじゃないだろうけど。ただムシャクシャするから貶めてやると思う人もいるのも事実だ。ターゲットは誰でもよくてたまたまそこにいたからってこともある。
見えなくても科学で証明できなくても存在するものがある。小百合のことを考えればそうだと言える。そうじゃなくても楓は嘘つきでも変人でもない。一緒にいればわかることだ。
「ねぇ、梨花ちゃん」
「なに」
「あのね。ママは悪いことしているの? していないよね」
なんでそんなこと。梨花は楓の言葉に衝撃を覚えた。もしかしたら楓にそんなことを吹き込む人がいるのかもしれない。
「あのね、悪い人の子供も悪いんだって。楓も悪い人なの? パパがいないから楓はダメなんだって。そうなの?」
梨花は涙が出そうになるのを堪えて、楓を抱きしめた。
「楓ちゃんは悪くなんかないよ。いい子だよ。楓ちゃんのお母さんも悪くなんてないからね。パパがいないからダメなんてことはないのよ。そんなこと信じちゃダメだよ」
「うん。楓、信じないよ。だってママのこと大好きだもん」
彩芽もまた楓の言葉に目元を拭っていた。どうにかふたりを助けたい。何が自分にできるだろうか。
梨花は楓に微笑み「大丈夫よ」と声をかけた。
待って、何がいったい大丈夫だって言うの。安易に大丈夫なんて言葉を使ってはいけない。大丈夫じゃないのに。解決策があるならいいけど、何も思いつかないのに。
とにかく、この状況をどうにかしてあげたい。
梨花の肩がふいに温かくなり、ドキッとする。肩に手があった。颯の手だ。後ろに振り返ると颯が
「楓ちゃんと彩芽さんのために僕と結衣も手伝うから」と頷いてきた。
颯の優しさが胸に染み入る。傍に颯がいてよかった。
「あたしも、庄平さんももちろん力になるよ」
節子が彩芽の肩に手を置いて、頷いていた。
彩芽は涙を拭い「節子さん、みなさん、ありがとうございます」と深々と頭を下げた。
「ニャニャッ」
「ああ、そうだねぇ。ツバキもいたねぇ」
「みんな大好き」
楓がいつもの笑顔で叫ぶ。
「私も楓ちゃん、大好きだよ」
楓は「楓も、梨花ちゃん、だいだいだーーーい好き」と抱きつき、照れ笑いをしていた。
「よし、あたしも人肌脱ぐとしようかねぇ。そうそう、小百合さん、まだいるんだろう。彩芽さんと楓ちゃんのために力を貸しておくれよ」
小百合の声は聞こえなかったが、楓が「ありがとう」と口にした。きっと、小百合が優しい言葉をかけたのだろう。勘違いされやすい人だったけど、小百合はそういう人だ。
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