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第8章 幸せの扉
(8-10)
しおりを挟む「どうでしょう。梨花さんの代わりにはならないかもしれませんが、頑張りますから」
「そうだねぇ。若い人の手はあったほうがいいからねぇ。働いてもらおうかねぇ。庄平さん、いいだろう」
「もちろん、かまわないよ」
「ありがとうございます」
結衣は深々とお辞儀をしてニコリとした。
「あっ、働くのはいいんだけど道に迷って遅刻するのは困るからねぇ。もしよかったら住み込みで働くかい」
住み込みか。どうしよう。
今は一人暮らしだし、住み込みなら家賃はかからないのか。いや、それは悪いからいくらか払わなきゃ。迷って遅刻して迷惑かけることもないし、いいかもしれない。
「わかりました。住み込みでよろしくお願いします。けど、すぐには引っ越しできないのでお兄ちゃんが休みの日に引っ越してきます。それでもいいですか」
「それじゃ、そういうことでお願いするよ」
「はい、あの、花のことは全然詳しくないので迷惑をかけてしまうかもしれませんが、頑張ります」
「大丈夫だよ。梨花さんだってそうだったんだからねぇ」
「郵便です」
扉が開き郵便局員が顔を出す。
節子が封筒を受けとり「おや、梨花さんからだ」と口元をほころばす。
手紙だろうか。今時、手紙なんて珍しい。
「なんだろうねぇ」
梨花からの手紙は、無事赤ちゃんが産まれたというものだった。女の子だそうだ。手紙の他に写真も添えられていた。どっちに似ているのだろう。ちょっとまだわからないか。
やっぱり、手紙はいいものだ。
梨花の文字ってこんな感じなのか。綺麗ではないが汚くもない。どこか味があるような文字だった。
庄平と節子のことを心配している文章があり優しさが伝わる。ツバキのことまで書いてある。
兄のことも書かれている。
あっ、自分のこともある。
結衣は、節子の持つ手紙を覗き込みながら頬が緩んだ。
梨花はいつごろ戻ってくるのだろう。そのへんについては書いていない。兄に訊けばきっとわかるだろう。休みに梨花に会いに行っているから。きっと兄は早く戻って来てほしいだろう。その反面、実家にいてもらったほうが安心だとも思っているはず。
梨花が一人になることが一番心配だろうから。
いつ戻るにしても花屋『たんぽぽ』で待つことにしよう。ここで自分が働いていると知ったら、梨花は驚くかもしれない。
「結衣さん、梨花さん宛てに一緒に手紙を書かないかい。手紙だと思い出としてずっと残せるからねぇ。いいと思うんだよ。どうだい」
「いいですね。私、書きます」
確かにそうだ。手紙はあとで読み返すことができる。まあ、メールとかでも読み返すことはできるけど、やっぱりその人の文字で残せるのはとは違う。文字を見ただけでその人を思い出せる。幸せな気分になれる。そんな気がした。
手紙か、たまには書くといいのかもしれない。
「ニャニャン」
「おや、ツバキも手紙を出すかい」
「ニャン」
ツバキが手紙。いくらなんでもそれは。
「じゃ、肉球印でも押してもらおうかねぇ」
なるほど、そういうことか。きっと梨花も喜ぶだろう。
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