7 / 7
こんこんさん
しおりを挟む
あれ、寝ちゃったのか。
目を擦りかおちゃんは起き上がる。
えっと、えっと。パパは……。
薄暗い部屋を見回す。いない。キツネさんのぬいぐるみもない。おかしい。夢だったの。
窓の外から見える景色はオレンジ色と薄紫色が混じり合ったきれいな空だった。
朝じゃなくて夕方だ。
あれ、ママとお兄ちゃんの笑い声が聞こえてくる。どうしたのだろう。
あっ、いい匂いもしてくる。
この匂いはもしかして。そうだ、間違いない。もしかしてじゃない。キツネさんのクッキーの甘い匂いだ。パパが絵本のクッキーを真似ていつも作ってくれる元気になれる魔法のクッキーだ。
かおちゃんはベッドから飛び降りて部屋を出てキッチンへ駆けて行く。
キツネさんのぬいぐるみが椅子に乗って料理をしていた。
やっぱり夢じゃなかった。
「パパ」
「おっ、かおちゃんのお目覚めだね」
キツネさんのぬいぐるみが振り返り笑みを浮かべる。三日月のような細い目で笑う顔はパパの顔そっくりだ。ぬいぐるみだけどやっぱりパパなんだ。
「よかった夢じゃなくて」
「んっ、そうか夢を見たと思ったんだね。大丈夫、パパはここにいるよ」
「うん」
「そうそう、かおちゃん。キツネさんのクッキー焼いたから食べな。早くしないとママとお兄ちゃんに全部食べられちゃうよ」
「ええ、嫌だ。かおちゃん、食べる。全部食べないで」
慌ててかおちゃんはテーブルに駆け寄ると皿にたくさんのクッキーが盛られていた。
ママとお兄ちゃんが笑っている。だまされてちょっと悔しいと思ったけどホッとした。
ママにクッキーをもらい一口パクリ。
ああ、甘くてしあわせの味がする。これだ。パパの作るクッキーだ。
「かおちゃん、今度のお休みにひまわり畑に行こうか」
「ひまわり畑」
「そう、かおちゃんが好きなひまわりがいっぱい咲いているよ。行きたいだろう」
「うん、行きたい。パパとママとお兄ちゃんとみんなで行きたい」
キツネさんのぬいぐるみのパパは満面の笑みで頷くと「とっておきのお弁当も用意するからね。お楽しみに」と再び料理をしはじめた。パパは料理が得意だ。ママの料理よりも美味しい。それはママに黙っておこう。
今日の晩御飯はいったいなんだろう。久しぶりのパパの手料理だ。
キツネさんのぬいぐるみになっても作れるんだ。なんだかすごい。
***
かおちゃんはパパが大好き。もちろん、ママもお兄ちゃんも大好きだ。
ただ普通のおうちのパパとは違っちゃったけど。キツネさんのぬいぐるみがパパだなんてなんだか夢みたい。誰かに話したら絶対信じてくれそうにない。それでもいい。本当のことだから。会えばわかることだから。
かおちゃんのパパは特別なんだ。そんなパパはキツネのぬいぐるみ『こんこんさん』として人気ユーチューバーになった。
今日もほらはじまった。
「はい、こんこんにちは。キツネのぬいぐるみ、『こんこん』です。今日も超時短クッキングのはじまりですよ。みなさん、いいですか。レッツ、クッキング」
***
おしまい
***
目を擦りかおちゃんは起き上がる。
えっと、えっと。パパは……。
薄暗い部屋を見回す。いない。キツネさんのぬいぐるみもない。おかしい。夢だったの。
窓の外から見える景色はオレンジ色と薄紫色が混じり合ったきれいな空だった。
朝じゃなくて夕方だ。
あれ、ママとお兄ちゃんの笑い声が聞こえてくる。どうしたのだろう。
あっ、いい匂いもしてくる。
この匂いはもしかして。そうだ、間違いない。もしかしてじゃない。キツネさんのクッキーの甘い匂いだ。パパが絵本のクッキーを真似ていつも作ってくれる元気になれる魔法のクッキーだ。
かおちゃんはベッドから飛び降りて部屋を出てキッチンへ駆けて行く。
キツネさんのぬいぐるみが椅子に乗って料理をしていた。
やっぱり夢じゃなかった。
「パパ」
「おっ、かおちゃんのお目覚めだね」
キツネさんのぬいぐるみが振り返り笑みを浮かべる。三日月のような細い目で笑う顔はパパの顔そっくりだ。ぬいぐるみだけどやっぱりパパなんだ。
「よかった夢じゃなくて」
「んっ、そうか夢を見たと思ったんだね。大丈夫、パパはここにいるよ」
「うん」
「そうそう、かおちゃん。キツネさんのクッキー焼いたから食べな。早くしないとママとお兄ちゃんに全部食べられちゃうよ」
「ええ、嫌だ。かおちゃん、食べる。全部食べないで」
慌ててかおちゃんはテーブルに駆け寄ると皿にたくさんのクッキーが盛られていた。
ママとお兄ちゃんが笑っている。だまされてちょっと悔しいと思ったけどホッとした。
ママにクッキーをもらい一口パクリ。
ああ、甘くてしあわせの味がする。これだ。パパの作るクッキーだ。
「かおちゃん、今度のお休みにひまわり畑に行こうか」
「ひまわり畑」
「そう、かおちゃんが好きなひまわりがいっぱい咲いているよ。行きたいだろう」
「うん、行きたい。パパとママとお兄ちゃんとみんなで行きたい」
キツネさんのぬいぐるみのパパは満面の笑みで頷くと「とっておきのお弁当も用意するからね。お楽しみに」と再び料理をしはじめた。パパは料理が得意だ。ママの料理よりも美味しい。それはママに黙っておこう。
今日の晩御飯はいったいなんだろう。久しぶりのパパの手料理だ。
キツネさんのぬいぐるみになっても作れるんだ。なんだかすごい。
***
かおちゃんはパパが大好き。もちろん、ママもお兄ちゃんも大好きだ。
ただ普通のおうちのパパとは違っちゃったけど。キツネさんのぬいぐるみがパパだなんてなんだか夢みたい。誰かに話したら絶対信じてくれそうにない。それでもいい。本当のことだから。会えばわかることだから。
かおちゃんのパパは特別なんだ。そんなパパはキツネのぬいぐるみ『こんこんさん』として人気ユーチューバーになった。
今日もほらはじまった。
「はい、こんこんにちは。キツネのぬいぐるみ、『こんこん』です。今日も超時短クッキングのはじまりですよ。みなさん、いいですか。レッツ、クッキング」
***
おしまい
***
0
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(6件)
あなたにおすすめの小説
「いっすん坊」てなんなんだ
こいちろう
児童書・童話
ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。
自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・
たったひとつの願いごと
りおん雑貨店
絵本
銀河のはてで、世界を見守っている少年がおりました。
その少年が幸せにならないと、世界は冬のままでした。
少年たちのことが大好きないきものたちの、たったひとつの願いごと。
それは…
ノースキャンプの見張り台
こいちろう
児童書・童話
時代劇で見かけるような、古めかしい木づくりの橋。それを渡ると、向こう岸にノースキャンプがある。アーミーグリーンの北門と、その傍の監視塔。まるで映画村のセットだ。
進駐軍のキャンプ跡。周りを鉄さびた有刺鉄線に囲まれた、まるで要塞みたいな町だった。進駐軍が去ってからは住宅地になって、たくさんの子どもが暮らしていた。
赤茶色にさび付いた監視塔。その下に広がる広っぱは、子どもたちの最高の遊び場だ。見張っているのか、見守っているのか、鉄塔の、あのてっぺんから、いつも誰かに見られているんじゃないか?ユーイチはいつもそんな風に感じていた。
青色のマグカップ
紅夢
児童書・童話
毎月の第一日曜日に開かれる蚤の市――“カーブーツセール”を練り歩くのが趣味の『私』は毎月必ずマグカップだけを見て歩く老人と知り合う。
彼はある思い出のマグカップを探していると話すが……
薄れていく“思い出”という宝物のお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。


本日も、楽しませていただきました。
普段はこのようなジャンルはあまり読まないのですが、作者様の作品は柔らかな温かさがあって、本当に好きなんですよね。
いつも、優しさをいただいています……っ。
何度も読み返してくれて嬉しいですし、ありがたいです。
優しさのおすそわけできてよかったです。
本日も、読み返しをさせていただきました。
じんわりとして。
いい時間をすごせたなぁ。そう、毎回感じさせてくれる作品です。
やっぱり作者様の世界は、好きです……っ。
ありがとうございます。
柚子さんはこういう話が好きなんですね。
ほっこり・じんわり作品もっと書けたらいいんですけどね。
嬉しいコメントは励みになりますね。
本日、読み返しをさせていただきました。
これで4回目になるのですが、やっぱり、素敵な作品は何度読んでも素敵。展開が分かっていても悲しくなりますし、嬉しくなります。
ほっこりで、じんわり。
まさにタグ通りの作品であり、名作ですよね。
読み返しは今後も、まだまださせていただきます。
四回も読んでくれているなんて、しかもまだ読み返してくれるなんて作者として嬉しいです。
柚木さんに感謝です。
ありがとうございます。