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第三話「三味線が鳴く」
三味線犬インセの行方
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沙紀の叔母のもとを訪ねたのだが、残念ながら例の犬の三味線はなかった。一か月前に人手に渡っていた。
一ヶ月前といえば放火魔が現れた時期と合致する。まさかとは思うが、人を操る力を持ち合わせていたと知っている人物がいたのだろうか。真の犯人は三味線の購入者なのかもしれない。たとえそれが真実だとしてもその者が逮捕されることはないだろう。
それならばどうしたらいい。いや、まだ購入者の仕業かどうかわからない。早合点するな。三味線犬独断での犯行かもしれないじゃないか。
「おい、そこで頓馬が悩んでいてもはじまらないぞ。考えるだけ無駄だ」
な、なに。頓馬だと。
「トキヒズミ、俺は……。んっ、頓馬ってなんだ。どうせ悪口だろうけど」
トキヒズミが溜め息を吐き「やっぱり頓馬だ。言動にぬけたところがあるのを頓馬って言うんだ。ドドドドド阿呆、覚えておけ」と言い放った。
なんだっていうんだ。『ド』が多過ぎだろう。そこまで阿呆じゃない。ぶん殴ってやろうか。彰俊は握り拳を振り上げようとしたのだが沙紀がスッと間に入り込んできた。
「まあまあ、ケンカはそこまで」
「おい沙紀、おいらはケンカなどしていないぞ。ただこのどうしようもない奴に教えてやっているだけだ」
「はい、はい、そうですか」
「もう、いい加減にして。そんな場合じゃないでしょ」
そのとき突然、びゃんびゃんびゃんびゃ~と三味線が鳴った。
「シャセ、驚かすなよ」
「こりゃ失礼しました」
んっ、あれ。今、なんで怒っていたんだっけ。沙紀もキョトンとした顔をしている。トキヒズミはというと首を傾げているように見えた。トキヒズミの首がどこにあるのかわからないがそんな感じに思えた。
まあいいか。
何はともあれ、沙紀の叔母が真犯人でないってことには一安心だ。だが、問題は解決したわけじゃない。早いところ放火魔をどうにかしなくてはいけない。
三味線犬のインセだか知らないがそいつをみつけなくてはいけない。購入者をみつければいいのだろうが簡単にはいかないだろう。運良くみつかったとしてそこからどうする。犯人はあいつですと警察に通報すればいいのか。
人を操る三味線があるなんてことを誰が信じる。立証など出来やしない。バカにするなと警察に怒鳴られるのがオチだ。
ならば、やることはひとつ。
『俺たちが解決するしかない』
視線を感じてそっちへ目を向けるとシャセがびゃんびゃんと三味線を鳴らして「任せなさい」と豪語した。
人を操れるシャセのことだ。きっとうまくいくだろう。
「で、シャセは三味線犬インセの行方がわかるのか?」
「彰俊様、私の嗅覚で探しましょう」
鼻をヒクつかせてインセの居所を探そうとする。
「どうだ、わかるか」
「おかしいですね。どうにも、匂いが辿れないようなのです」
「アキも、ダメ。わからない」
「ふん、猫の嗅覚では無理のようだな。まあ、そうだろうな。一ヶ月前のことでは無理なのは当然だ」
「面目ない」
シャセとアキは項垂れていた。
「もうあんたら役立たずね。あたいが……。うーん、あたいもダメみたい」
そりゃそうだろう。アキがダメなのだからアキコも無理だろう。アキコは悔しそうな顔をしてスッと姿を消してアキへと人格が戻った。
「ねぇ、彰俊くん。過去に戻って捕まえたらどうなの」
「それだ」
彰俊はパチンと手を打った。
「ほほう、沙紀は賢い。どこかの誰かさんとは大違いだ」
『どうせ俺は阿呆ですよ』
彰俊は心の中でぼやき、腹立たしさを胸の奥へと押しやった。
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