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第四話「鏡に映る翡翠色の瞳」
鏡ヶ池の妖精たち
しおりを挟む鏡ヶ池に着いたものの、どうすればいいのかさっぱりわからない。
彰俊は、とりあえず手鏡を池の水で洗ってみた。
「何の変化もないぞ。彰俊殿、本当にこの場所でよいのか。すず様を救えるのか。今更間違いでしたじゃすまさぬぞ」
「狐、他人任せ、ダメ」
「そうだ、おまえも考えろ。なんか手がかりになるようなことないのか。守り狐なんだろう」
「そうですが、まったく」
「どいつもこいつも、阿呆ばかりでうんざりだ。ちと頭を働かせろ。彰俊、依頼の前には夢を見ると言いっていただろうが。そこにヒントはないのか」
トキヒズミの言葉にハッとした。
「トキヒズミ、おまえたまにはいいこと言うな。ただの毒舌付喪神じゃないな。さすがだ」
「おい、それって褒めてんのか。まあいいか。おいらがいなきゃ何も出来ない奴らばかりだからな。あ、な、なんでもありませんよ。この口が滑って」
突如口調が変わり何を弁解しているのかと思ったら、アキが睨み付けていた。それに声は聞こえなかったがアキの口が「池に捨てる」と動いていた。本気じゃないだろうけど。今日のアキはやはりいつもと違って攻撃的だ。そういうときもあるか。
もしかすると自分のこと守ってくれているのかも。トキヒズミも悪い奴じゃないとわかっているとは思うが。あ、そんなことより、今は手鏡のことを解決しなくては。
「みんな聞いてくれ。夢では確か、月明かりが池に反射してまるで池が満月みたいに光輝いていたんだ。きっと、月の光が関係していると思う。ただ、満月じゃないとダメかもしれない」
彰俊の言葉に、皆頷き唸っていた。
昨日は半月くらいだった。満月まで待たなきゃいけないだろうか。
「よし、やはりここはおいらの出番だな」
残念ならが、そのようだ。
トキヒズミの時を巻き戻す力が必要になってしまった。トキヒズミはひとりだけヤル気満々で嬉しそうにしているが、気持ち悪い時間がまたやってくると思うと溜め息が出てしまう。
「おい、どうした。そのブサイクな面は。おいらが満月の夜に連れて行ってやるっていうのによ。ほら、笑え。腹でも痛いのか」
再び、彰俊は溜め息を漏らした。トキヒズミはしゃべり続きている。
ツネとすずは小首を傾げていた。まあ、体験すれば嫌な顔をしている意味がわかるだろう。
トキヒズミは、力が発揮出来ると飛び跳ねている。そう思った矢先、突然景色が歪みだした。おい、勝手に時を巻き戻すな。心の準備ってものが……。
ううぅっ、気持ちが悪い。
あたりの景色が渦の中に巻き込まれていく。見ていられないと瞼を下ろすのだが、身体がぐらつき気持ち悪さは増していくばかり。酷い眩暈状態に陥ってしまったようだ。この時を我慢しなくては時を戻れないのだからしかたがない。
慣れてきたと思っていたが違ったようだ。
「とうちゃーーーく」
トキヒズミの声が鼓膜に響く。元気なのはトキヒズミだけ。沙紀もツネもすずもぐったりしている。アキはその場に座り込んで、今にも何か吐き出してしまいそうな青白い顔をしている。きっと、自分もそうだろう。
「あはは、みんな情けないぞ。まあ、特別に気持ち悪さ倍増させてもらったからな。そうなるのも仕方がないか」
なに、気持ち悪さ倍増だと。トキヒズミはそんなこともコントロールできたのか。それなら、今までも。
「トキヒズミ、あんたね。それって仕返しのつもり。許さないんだから」
おっ、アキコ降臨か。
あっ、トキヒズミが弧を描いて池にぽちゃんと。大丈夫かあいつ。防水加工されていないんじゃ。
「ねぇ、見て」
えっ。沙紀が指差す先へと目を向ける。
満月だ。しかも大きい。なんだか心が洗われるようだ。
月の輝きのおかげで、嫌な気分が払拭されていった。
「ああ、なんと美しいのでしょう」
「確かに」
すずとツネも月に魅入られているようだ。
「池も月だ。綺麗」
アキの瞳が潤んでいた。空に浮かぶ月と池に浮かぶ月が、同調しているようだ。なんだろう、月光と水面に反射する光が重なり合い不思議なハーモニーを奏でているようだ。
光の妖精が空を飛びまわり、池の中では水の妖精が泳いでいる。光と波音のリズムが心地いい。不思議と心地よいメロディーが聴こえてくるようだ。
一瞬、錯覚なのだろうかと思ったがそうではなさそうだ。
隣にいるアキも、同じ光景を目にしているに違いない。うわごとのように「光たち、水たち、躍っている。歌っている」と口にしているから、間違いない。
ツネも「ここは天国なのか」と口走っている。
すずはというと、「ああ、晋介様。迎えに来てくださったのですね」などと言葉を洩らした。
彰俊は目を凝らして様子を窺ったが晋介の姿は確認出来なかった。ひび割れのせいで、見誤っているのかもしれない。早く直してあげなくては。
どうすれば直せるのだろうか。
あそこにいる妖精たちに訊けばわかるだろうか。妖精たちの視線を感じる。
何か話しているような……。
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