時守家の秘密

景綱

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第五話「猫神様がやってきた」

嫉妬心が生む闇

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「ミコ、そこにいるんだろう。早まるんじゃないぞ」

 返事はないが、ミコの気配は感じる。奥にある物置小屋が怪しい。ネムは忍び足でゆっくりと進む。アキも同じく足音を立てずに後を追う。
 物置小屋の扉は少しだけ開かれている。なんとなく嫌な空気が漂っているようで鼻がむず痒い。それでも、行かなくては。

 慎重に。ゆっくりと。
 ネムはそっと隙間から顔だけ覗き込もうとした矢先、扉を押し開けられて顔面強打してしまった。痛みに、蹲り小刻みに頭を揺らしているとミコの叫び声がすぐ後ろから飛んできた。

「この泥棒猫が。死んで詫びろ」

 しまった。
 すぐさま顔を上げて振り返ると、そこには呆然と立ち尽くすミコと腹部から鮮血が滴り落ちている真一の姿があった。腹には包丁らしきものが突き刺さっている。真一は顔をしかめて呻きながら膝をつき崩れ落ちていく。
 なんてことだ。

「そ、そんな。私、そんな……」

 ミコは声を震わせて後退りをして、尻餅をつくようにして座り込んでしまった。
 最悪の事態が起きてしまった。
 おそらく、真一はアキをかばい間に割って入ったのだろう。

「た、大変。血が……」

 アキも出血する真一に身体を震わせて動揺を隠せないでいる。
 ネムはすぐさま真一に駆け寄り「真一、大丈夫だ。吾輩がすぐに治してやる」と声を掛けた。
 真一は血の気を失った顔を向けて小さく頷き微笑みを浮かべた。

「ネム」
「まったくおまえときたら」
「だって……」
「いいから黙っていろ」

 真一は頷き、弱弱しい笑みを浮かべた。
 ネムも頷き返して、身体全体に力を込めはじめ獅子の姿へと変える。それと同時にあたり一面にきらめく光が包み込みはじめた。その光は周りの木々からも大地からも湧き上がってきている。
 ネムは真一の肩に手を触れて「安心しろ。すぐに傷は塞がる」と励ます。ミコは青白い顔をして放心状態のままだ。アキもショックを受けてはいるようだが、少しは冷静さを取り戻しているように見受けられた。

「すまない、アキ。真一の腹の包丁を抜いてくれ」
「ぼ、ぼくが。こ、怖い。大丈夫なの、これ抜いて」

 ネムは頷き、抜くように促す。

「でも、でも」

 アキは震えながらも真一へと近づいて行く。だが、手が振るわせてなかなか包丁を抜こうとしない。

「アキ、早くしろ」
「もうしょうがないわね。あたいがやってあげる」
「アキコか。頼む」

 アキコは頷き、真一の腹に突き刺さった包丁の柄を躊躇ちゅうちょなく掴み引き抜いた。出血はほとんどなかった。ネムは頷きホッと息を吐く。
 そのとき近づいてくる誰かの足音を耳にした。

「アキ、いやアキコか。おまえ何を……」

 彰俊か。

「化け猫の本性現したのか。恐ろしや」
「トキヒズミ、ふざけている場合か。アキコがそんなことをするわけがないじゃないか」
「けど、あの血塗られた包丁はなんだ。現行犯逮捕だろう。あいつは殺人猫だ」
「やめろ、アキコはそんなんじゃない。そうだろうアキコ」

 ネムはふたりに目を向けて「どうしてここに?」と話しかけた。

「慈艶が凶兆だ、急げと急かすもんだから。気づいたら、ここに来ていたというわけで」

 彰俊の言葉に、ネムは頷き「なるほど」とだけ口にした。

「ネム様、大丈夫なのですか」

 慈艶が怯えた顔で寄り添ってきた。

「大丈夫だ、心配するな。もう治療済みだ」

 ネムは遅れてきた彰俊、トキヒズミ、慈艶に掻い摘んで話して聞かせた。

「ほら、アキコは何も悪いことはしていなかったじゃないか」

 彰俊の言葉に「はい、さようですね」とだけ呟き、ポケットに退散した。
 あとはミコの誤解を解くだけだ。けどもう少し落ち着いてからのが良さそうだ。

「あの、ネム様。まだ凶兆は終わってはおりません」

 慈艶の言葉にネムは「なに?」と眉根を寄せた。

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