42 / 53
第六話「怪しき茶壷と筆」
筆と茶壷がやって来た日
しおりを挟む
「栄三郎、栄三郎。どこにおる」
なんだ騒がしい。
「誰だ。わしを呼ぶのは」
「いた、いた」
な、なんだ。こりゃまずい。地獄に連れて行かれてしまう。目の錯覚じゃないとしたらあいつは鬼だ。鬼は鬼でも地獄の門番だ。なぜうちにくる。何か悪いことをしただろうか。嘘をついたことはあるがそれくらいで地獄に連れて行かれたら堪らない。
栄三郎は扉を閉めて鍵をかけて息を潜めた。今更、そんなことをしても遅いとわかっているがそうしてしまった。
地響きをたてて近づく足音が玄関前でピタリとやんだ。
んっ、静かになった。帰ってくれたのか。
ちょっと覗いてみようかとドアノブに手をかけてすぐにやめた。気配は感じられないがおそらく外にいる。もしかしたら聞き耳をたてているかもしれない。
どうしたらいい。
待てよ、悪いことをしていないのなら隠れる必要はないのではないか。
栄三郎はゆっくりと玄関扉を開けていく。
あれ、どこへ行った。
「下だ、下」
下を見たとたん頭の中に疑問符が湧いてくる。さっきの鬼はこいつなのか。まさか、そんなはずは……。
「すまない。脅かしてしまったな。おいら閻魔様のお使いで来た。ササだ」
「ササ」
「おうよ、ササだ。で、これを持ってきた」
ササは筆と茶壷を手渡してきた。
「これは」
「それか。あの世で使っていた筆と茶壷だ。新しいものにしたからこの二つは栄三郎にあげようということになった。閻魔様が栄三郎のところなら役立ててくれるだろうって」
そう言われても。あの世のものを貰ってもいいものだろうか。何か不思議な力があるってことはわかる。じっと筆と茶壷をみつめていたらササが「大丈夫だ。悪さはしないさ。たぶんな」とニッと笑った。
なんて愛らしい笑みを浮かべるのだろう。本当にこいつは鬼か。
「なんだおいらの顔になんかついているか」
「いや、その。なんとなく鬼らしくないなって思って」
「そうか。おいらは鬼だぞ。まだ小鬼だけどさ。あっ、鬼だからって荒くれ者みたいなの想像するなよ。みんなそうじゃないからな」
「そうだろうけど。さっきは……」
「ああ、それはすまない。ちょっと地獄の門番に憧れていてさ、ちょっと変化したくなっちまったんだ」
なるほど。
んっ、なんだ。
突然、手に持っていた筆と茶壷が飛び跳ねるといかにも峻厳な感じの紳士と色香のある和服美人へと変化した。
「俺様は舟雲。よろしく頼むぞ」
「わたくしは瑞穂です。よろしくお願いします」
「ああ、よろしく」
栄三郎が慌てて返事をすると舟雲に睨まれてしまった。瑞穂は苦笑いを浮かべてお辞儀をしている。
とりあえず蔵にしまっておこうか。
「それじゃ、あとはよろしく。おいらは帰るからさ」
ササは物凄いスピードで走り去ってしまった。
筆の舟雲と茶壷の瑞穂か。うまく付き合っていけるだろうか。瑞穂のほうは親しみある感じだけど舟雲はなんとなく苦手なタイプに思える。
まあ、閻魔様からの大事な贈り物だ。大切にしなくてはいけない。
なんだ騒がしい。
「誰だ。わしを呼ぶのは」
「いた、いた」
な、なんだ。こりゃまずい。地獄に連れて行かれてしまう。目の錯覚じゃないとしたらあいつは鬼だ。鬼は鬼でも地獄の門番だ。なぜうちにくる。何か悪いことをしただろうか。嘘をついたことはあるがそれくらいで地獄に連れて行かれたら堪らない。
栄三郎は扉を閉めて鍵をかけて息を潜めた。今更、そんなことをしても遅いとわかっているがそうしてしまった。
地響きをたてて近づく足音が玄関前でピタリとやんだ。
んっ、静かになった。帰ってくれたのか。
ちょっと覗いてみようかとドアノブに手をかけてすぐにやめた。気配は感じられないがおそらく外にいる。もしかしたら聞き耳をたてているかもしれない。
どうしたらいい。
待てよ、悪いことをしていないのなら隠れる必要はないのではないか。
栄三郎はゆっくりと玄関扉を開けていく。
あれ、どこへ行った。
「下だ、下」
下を見たとたん頭の中に疑問符が湧いてくる。さっきの鬼はこいつなのか。まさか、そんなはずは……。
「すまない。脅かしてしまったな。おいら閻魔様のお使いで来た。ササだ」
「ササ」
「おうよ、ササだ。で、これを持ってきた」
ササは筆と茶壷を手渡してきた。
「これは」
「それか。あの世で使っていた筆と茶壷だ。新しいものにしたからこの二つは栄三郎にあげようということになった。閻魔様が栄三郎のところなら役立ててくれるだろうって」
そう言われても。あの世のものを貰ってもいいものだろうか。何か不思議な力があるってことはわかる。じっと筆と茶壷をみつめていたらササが「大丈夫だ。悪さはしないさ。たぶんな」とニッと笑った。
なんて愛らしい笑みを浮かべるのだろう。本当にこいつは鬼か。
「なんだおいらの顔になんかついているか」
「いや、その。なんとなく鬼らしくないなって思って」
「そうか。おいらは鬼だぞ。まだ小鬼だけどさ。あっ、鬼だからって荒くれ者みたいなの想像するなよ。みんなそうじゃないからな」
「そうだろうけど。さっきは……」
「ああ、それはすまない。ちょっと地獄の門番に憧れていてさ、ちょっと変化したくなっちまったんだ」
なるほど。
んっ、なんだ。
突然、手に持っていた筆と茶壷が飛び跳ねるといかにも峻厳な感じの紳士と色香のある和服美人へと変化した。
「俺様は舟雲。よろしく頼むぞ」
「わたくしは瑞穂です。よろしくお願いします」
「ああ、よろしく」
栄三郎が慌てて返事をすると舟雲に睨まれてしまった。瑞穂は苦笑いを浮かべてお辞儀をしている。
とりあえず蔵にしまっておこうか。
「それじゃ、あとはよろしく。おいらは帰るからさ」
ササは物凄いスピードで走り去ってしまった。
筆の舟雲と茶壷の瑞穂か。うまく付き合っていけるだろうか。瑞穂のほうは親しみある感じだけど舟雲はなんとなく苦手なタイプに思える。
まあ、閻魔様からの大事な贈り物だ。大切にしなくてはいけない。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
烏の王と宵の花嫁
水川サキ
キャラ文芸
吸血鬼の末裔として生まれた華族の娘、月夜は家族から虐げられ孤独に生きていた。
唯一の慰めは、年に一度届く〈からす〉からの手紙。
その送り主は太陽の化身と称される上級華族、縁樹だった。
ある日、姉の縁談相手を誤って傷つけた月夜は、父に遊郭へ売られそうになり屋敷を脱出するが、陽の下で倒れてしまう。
死を覚悟した瞬間〈からす〉の正体である縁樹が現れ、互いの思惑から契約結婚を結ぶことになる。
※初出2024年7月
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
皇太后(おかあ)様におまかせ!〜皇帝陛下の純愛探し〜
菰野るり
キャラ文芸
皇帝陛下はお年頃。
まわりは縁談を持ってくるが、どんな美人にもなびかない。
なんでも、3年前に一度だけ出逢った忘れられない女性がいるのだとか。手がかりはなし。そんな中、皇太后は自ら街に出て息子の嫁探しをすることに!
この物語の皇太后の名は雲泪(ユンレイ)、皇帝の名は堯舜(ヤオシュン)です。つまり【後宮物語〜身代わり宮女は皇帝陛下に溺愛されます⁉︎〜】の続編です。しかし、こちらから読んでも楽しめます‼︎どちらから読んでも違う感覚で楽しめる⁉︎こちらはポジティブなラブコメです。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
白苑後宮の薬膳女官
絹乃
キャラ文芸
白苑(はくえん)後宮には、先代の薬膳女官が侍女に毒を盛ったという疑惑が今も残っていた。先代は瑞雪(ルイシュエ)の叔母である。叔母の濡れ衣を晴らすため、瑞雪は偽名を使い新たな薬膳女官として働いていた。
ある日、幼帝は瑞雪に勅命を下した。「病弱な皇后候補の少女を薬膳で救え」と。瑞雪の相棒となるのは、幼帝の護衛である寡黙な武官、星宇(シンユィ)。だが、元気を取り戻しはじめた少女が毒に倒れる。再び薬膳女官への疑いが向けられる中、瑞雪は星宇の揺るぎない信頼を支えに、後宮に渦巻く陰謀へ踏み込んでいく。
薬膳と毒が導く真相、叔母にかけられた冤罪の影。
静かに心を近づける薬膳女官と武官が紡ぐ、後宮ミステリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる