満月招き猫

景綱

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プロローグ

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「次の満月には未来ある若者とともにいたいものだ。つまらん、つまらん、つまらん。 どいつもこいつも心の腐った奴ばかり。見た瞬間、帰れといいたくなっちまう奴ばかり。あんなに大きくてきれいな満月をただただ眺めているだけっていうのは本当につまらん」
「タマちゃん、そんなこと言わないの。私も手伝ってあげるからさ」
「タマちゃんって呼ぶな。吾輩はぐぐぐぐぐぅ」

 何をする。口を塞ぐ奴があるか。その手をどけろ。

「もうわかっているってば。玉三郎坊ちゃま」
「おいおい、全然わかっておらん。美月は吾輩を馬鹿にしておるだろう。これでも叔父だぞ」
「あらそうでした。タマおじさま。でもね、馬鹿になんてしてませんことよ。ほほほほ」
「やっぱり馬鹿にしておる。その口の利き方、やめろ」
「そう。じゃ仕方がない。こらぁ、タマ。そこでただ座っていないでおまえも未来ある若者を探せってんだ。私だけ働かせるな。阿呆が」
「す、すみません。美月お嬢様。吾輩が間違っておりました」

 玉三郎は平謝りをしてすぐに頭の中にはてなマークが浮かんだ。なぜ謝らなきゃいけない。美月は姪っ子だろう。それに自分はこっちの世界では満月の夜にしか動けない。ここに好きでじっと鎮座しているわけではない。まったく調子に乗りやがって。

「もうタマおじさまったら面白い。いっつも私に付き合ってくれてありがとう。そうそう私の占いによるともうじきここの住人がみつかるはず。のんびりしていてね。タマちゃん。あっ、また言っちゃった」
「美月。吾輩は寂しい。馬鹿にされるようなどうしようもない叔父なのだな」
「もうタマちゃん、じゃなくてタマおじさま。いえ玉三郎様。いやいややっぱりタマおじさま。私は慕っているのよ。こんな口の利き方しても相手をしてくれるんだもの。本当に馬鹿になんてしていないのよ。信頼しているの。それにね、本当にこの仕事が好きなのよ。だから怒らないでね。みんな私のこと厄介者みたいに扱うんだもの。タマおじさまだけは違うでしょ」

 玉三郎は溜め息を漏らして美月をチラッと見遣る。またこの瞳に騙されてしまうのか。それとも本心なのか。わからない。美月は生まれ持っての女優だ。違った。占い師だったか。そんなことはどうでもいい。自分は美月の手の中で転がされているのだろう。まあ、それもありか。

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