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魂年齢
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なんで子供の姿になってしまったのだろう。
ここからやり直せってことなのか。それとも子供に戻ればまた天才的な絵を描くことが可能になるってことなのか。賢は首を捻り否定した。そう簡単じゃないだろう。心は大人のままだ。子供の姿になったところで何も変わりはしない。
「賢、おまえが今思っているだろう謎を解いてやろう」
「んっ、なんで子供になったか教えてくれるのか」
玉三郎は頷きドカンとの音を立てて床に胡坐をかいた。
「あのね、全部夢の魂のせいよ」
「美月、口を挟むんじゃない」
「なによ、タマおじさまの意地悪。変態。女の敵」
「おい、酷いな。吾輩は女の敵でもなきゃ変態でもないぞ。もちろん意地悪でもない」
「だって、だって私と賢の仲を裂こうとするんだもの。それくらい悪口言ったっていいじゃない」
「美月、吾輩は仲を裂こうとなどしていない。味方だ。だがこの夢月楼の法では禁止されている。伊佐が言っていたであろう。残念だが諦めろ」
「ほら、ほら。仲を裂こうとしているじゃない」
「美月。ちょっと待て。今はそんな話をしているんじゃないだろう。賢の話だ」
「わかっているわよ。私だって、私だって。ああ、もう。タマおじさま、私に話させてくれない。それくらいいいでしょ」
「仕方がないな」
美月はニコリとして自分の膝上に乗っかってきた。
「私とラブラブタイムよ」
ラブラブタイム。
「美月」
「もうわかっているってば。ラブラブタイムは冗談だってば。じゃ話すわよ。あのね……」
美月の話は明快だった。
輪廻転生か。生まれ変わりを何回繰り返したかで魂年齢が変わって来るってことか。それで自分はまだ数回しか生まれ変わっていないらしい。
美月が言うには二、三回くらいじゃないかと。つまり自分はまだ魂年齢的には子供ってことになる。
『おまえの精神年齢は小学生で止まっている』と笑われているようで複雑な気分だ。魂年齢と精神年齢は違うんだろうけど。
要するに夢月楼では魂年齢の姿になってしまうってことか。ということは。
賢は美月に目を向けて首を捻った。猫は何歳かわからない。玉三郎もモンドもよくわからない。
「な、なによ。私になにか文句でもあるの」
「違うよ。美月の姿も魂年齢を反映した姿なのかなって思ってさ」
「もちろん、そうよ」
「そうなのか。猫の年齢はよくわからないけど大人だよな、きっと」
「私、私はえっと、その」
「賢、女性に年齢を訊くものではないぞ」
「そうよ、そうよ」
玉三郎はニヤリとして近づいて来ると耳元で囁いた。
えっ、嘘だろう。賢は美月をまじまじとみつめた。美月はお婆さんなのか。
「ちょっと、タマおじさま。余計なこと言ったでしょ。私は純真無垢な乙女なんだからね」
美月が足元で身体を擦りつけてきたかと思うとウィンクしてきた。
『ごめん、おばあさんとは無理だ』
その言葉を賢は喉の奥へと呑み込み一歩退いた。
「な、なんで逃げるのよ。タマおじさま、なにを言ったの」
玉三郎は「おまえの魂年齢を教えてやっただけだ」とニヤリとした。
「えええ、酷い。酷い、酷い。ねぇ、賢。聞いて、聞いて。私の魂年齢はタマおじさまの言う通りだけど今の私はまだ少女なんだからね。そこんところわかってよね。見たでしょ。人の姿の私を。あれが私の実年齢よ」
賢は考え込んだ。可愛らしい美月の姿が思い出される。そうか、魂年齢と実際の年齢は違うんだっけ。姿見鏡に映る自分の姿に目を向けて頷いた。美月はお婆さんではない。
「美月、本当にこいつに惚れたのか。必死になりおって」
玉三郎は大口をあけて笑い出した。
「もう、いいじゃない」
美月か。お婆さんじゃないとしても猫だ。自分はどうしたらいいのだろう。人の姿でいてくれたら恋愛感情も湧くかもしれないけど。
耳にビンと響く音を立てて凄い勢いで襖が開かれた。
「お、お父様」
お父様。美月の父親か。
ここからやり直せってことなのか。それとも子供に戻ればまた天才的な絵を描くことが可能になるってことなのか。賢は首を捻り否定した。そう簡単じゃないだろう。心は大人のままだ。子供の姿になったところで何も変わりはしない。
「賢、おまえが今思っているだろう謎を解いてやろう」
「んっ、なんで子供になったか教えてくれるのか」
玉三郎は頷きドカンとの音を立てて床に胡坐をかいた。
「あのね、全部夢の魂のせいよ」
「美月、口を挟むんじゃない」
「なによ、タマおじさまの意地悪。変態。女の敵」
「おい、酷いな。吾輩は女の敵でもなきゃ変態でもないぞ。もちろん意地悪でもない」
「だって、だって私と賢の仲を裂こうとするんだもの。それくらい悪口言ったっていいじゃない」
「美月、吾輩は仲を裂こうとなどしていない。味方だ。だがこの夢月楼の法では禁止されている。伊佐が言っていたであろう。残念だが諦めろ」
「ほら、ほら。仲を裂こうとしているじゃない」
「美月。ちょっと待て。今はそんな話をしているんじゃないだろう。賢の話だ」
「わかっているわよ。私だって、私だって。ああ、もう。タマおじさま、私に話させてくれない。それくらいいいでしょ」
「仕方がないな」
美月はニコリとして自分の膝上に乗っかってきた。
「私とラブラブタイムよ」
ラブラブタイム。
「美月」
「もうわかっているってば。ラブラブタイムは冗談だってば。じゃ話すわよ。あのね……」
美月の話は明快だった。
輪廻転生か。生まれ変わりを何回繰り返したかで魂年齢が変わって来るってことか。それで自分はまだ数回しか生まれ変わっていないらしい。
美月が言うには二、三回くらいじゃないかと。つまり自分はまだ魂年齢的には子供ってことになる。
『おまえの精神年齢は小学生で止まっている』と笑われているようで複雑な気分だ。魂年齢と精神年齢は違うんだろうけど。
要するに夢月楼では魂年齢の姿になってしまうってことか。ということは。
賢は美月に目を向けて首を捻った。猫は何歳かわからない。玉三郎もモンドもよくわからない。
「な、なによ。私になにか文句でもあるの」
「違うよ。美月の姿も魂年齢を反映した姿なのかなって思ってさ」
「もちろん、そうよ」
「そうなのか。猫の年齢はよくわからないけど大人だよな、きっと」
「私、私はえっと、その」
「賢、女性に年齢を訊くものではないぞ」
「そうよ、そうよ」
玉三郎はニヤリとして近づいて来ると耳元で囁いた。
えっ、嘘だろう。賢は美月をまじまじとみつめた。美月はお婆さんなのか。
「ちょっと、タマおじさま。余計なこと言ったでしょ。私は純真無垢な乙女なんだからね」
美月が足元で身体を擦りつけてきたかと思うとウィンクしてきた。
『ごめん、おばあさんとは無理だ』
その言葉を賢は喉の奥へと呑み込み一歩退いた。
「な、なんで逃げるのよ。タマおじさま、なにを言ったの」
玉三郎は「おまえの魂年齢を教えてやっただけだ」とニヤリとした。
「えええ、酷い。酷い、酷い。ねぇ、賢。聞いて、聞いて。私の魂年齢はタマおじさまの言う通りだけど今の私はまだ少女なんだからね。そこんところわかってよね。見たでしょ。人の姿の私を。あれが私の実年齢よ」
賢は考え込んだ。可愛らしい美月の姿が思い出される。そうか、魂年齢と実際の年齢は違うんだっけ。姿見鏡に映る自分の姿に目を向けて頷いた。美月はお婆さんではない。
「美月、本当にこいつに惚れたのか。必死になりおって」
玉三郎は大口をあけて笑い出した。
「もう、いいじゃない」
美月か。お婆さんじゃないとしても猫だ。自分はどうしたらいいのだろう。人の姿でいてくれたら恋愛感情も湧くかもしれないけど。
耳にビンと響く音を立てて凄い勢いで襖が開かれた。
「お、お父様」
お父様。美月の父親か。
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