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第三章 再会……そして失くした記憶
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どこかで声がする。
誰かが呼んでいる。
なんだ、眠いんだから静かにしてくれ。
「おい、真一。おい、聞こえないのか」
「よっぽど、眠り草を嗅がされたみたいね。ああ、最悪」
「まったくだ。最悪だ。まさか待ち伏せされていたとは」
いったい誰だろう。ひとりは聞き覚えのある声だけど。なんだか頭がぼんやりして睡魔がおいでおいでと手招きしやがる。薄目を開けて声のほうを向くと誰かが話をしているようだ。ここはどこだろうか。夢の中だろうか。とにかく眠い、眠くて仕方がない。
「真一、寝坊助真一」
うるさい奴だ。誰が寝坊助だ。もしやあいつが睡魔という物の怪だろうか。んっ、何を考えているのだろう。
物の怪?
馬鹿馬鹿しい。睡魔という物の怪などいない。なら、あそこにいるのは誰だ。何かしきりに叫んでいるような。やっぱりあいつが睡魔なのかも。眠りを誘う魔物。
「阿呆真一、何を訳の分からないことをほざいているの。ボケるにはまだ早いわよ。唐変木のど阿呆真一」
ものすごく罵声を浴びせられている気がするが、気のせいだろうか。
それにしても睡魔とはおかっぱ頭の女の子だったのか。新発見だ。
んっ、おかっぱ頭だって?
そのときミコの顔が脳裏に浮かび、ぼんやりする頭をスパンと一刀両断された気がして身体がビクッと反応した。すると、視界が開けてきて目の前にいる二人の顔がはっきりとした。訂正だ、二人ではなく一人と一匹だった。
ミコか。そして、ネムも。あっ、ミコも猫だとしたら二匹ということになるのか。ってそんなことはどうでもいい。面倒だから二人でいい。
それにしても、ここはどこだ。
真一は二人のもとへ駆け寄ろうと身体を前のめりにさせたところで痛みと苦しみに呻き声をあげた。どうやら身体をどこかの柱に縛り付けられているようだ。紐が身体に喰い込み締め付けられる。何がどうなっているのだろう。
「やっとお目覚めだな。本当にすまない。吾輩のいざこざに巻き込んでしまって、本当にすまない」
「ネム兄ちゃんのせいじゃないよ。悪いのはスサでしょ」
「まぁ、そうなんだが。吾輩がもっと強ければこのような事態には」
「そこで落ち込まない。まだ、策はあるはずでしょ」
「うむ、そうだな。ここは吾輩の頭脳の出番だな。やるしかない」
「そうそう、その意気よ。それにネム兄ちゃんは本当は強いはずよ」
ネムもミコも同じように縛られている。どうにも今の状況が呑み込めない。確か、渡海神社で突然何者かに腕を掴まれたはずだ。で、睡魔が襲い……ここにいる。
鈍い頭でもネムとミコの会話を吟味すれば、答えは自ずとみつかるってものだ。スサとやらの手下に捕らえられたということだ。なら、ここは渡海神社の敷地内なのだろうか。いや違うだろう。どう見ても、どこかの作業小屋って感じだ。埃っぽいような。この匂いは、土の匂いかもしれない。なんとなく米のような匂いもする。そう考えると床の粉は、もしや米糠だろうか。ならば農家の納屋かもしれない。鍬や鋤もあるから間違いないだろう。
「おい、真一。大丈夫か。まだ朦朧としているんじゃないのか」
「いや、大丈夫だ。心配いらない。ただ、いろいろと状況を整理していたところだ」
「ふーん、ちょっと頼りないかと思ったけど意外と頭脳派だったりするのかなぁ。阿呆真一だと思っていた」
「こら、ミコ。言い過ぎだ」
そうだ、言い過ぎだ。阿呆はないだろう。けど、間違っていない気もする。
「ネム、いいんだ。俺はたいした男じゃないからな」
「そんなことはない、吾輩の命を救ってくれたではないか」
「そうだけど、あのとき本当のところは動物病院行かなくても大丈夫だったんじゃないのか」
ネムは、一瞬押し黙って「そんなことはない」と呟いた。
「そんなことあるんだけどね。って、今はそんなことよりここから脱出しなきゃ。考えようよ」
ミコの言葉に頷く。そうだ、このままでは未来はない。その通りなのだが、真一はどうにも違和感があった。何に対してそう感じるのか。ネムの顔を見て、その隣のミコを見る。猫の姿のネムと人の姿のミコ。ネムは猫……。
猫、猫、猫……。そうだ、ネムは猫だった。
「どうかしたか、真一よ」
話しかけてくるネムを凝視して、これは夢なのかと首を捻りすぐに違うと否定した。
「ネム、お、おまえ、言葉話せるんじゃないかよ」
「あっ、す、すまない」
ネムが苦笑いを浮かべて謝ってきた。
あのパソコンでの会話のやり取りはいったいなんだったのだ。話せるのなら、最初からそうしてくれたらよかったのに。
「ネム兄ちゃんだって、いろいろ事情があるんだよ。察してあげてよ。やっぱり頭悪いのかな、真一は」
「おい、ミコ。言葉が過ぎるぞ。同じこと何回も言わせるな」
「だって……」
ミコってこんなに口が悪かったっけ。悪かった気もする。まあ、どっちでもいいか。それにしても事情ってなんだろう。やっぱり今回の長の問題と関係しているのだろうか。きっとそうなのだろう。
ミコは溜め息をついて項垂れている。場の雰囲気がなんだか湿っぽくなってしまった。真一はひとつ咳払いをして
「とにかく、スサたちの陰謀を阻止しなくちゃいけないんだろう」と言い放った。
「そうだ、その通りだ。なんとかしなくては。ミコも真一も考えてくれ」
縛られた紐をまずは解かなくてはいけない。ナイフみたいなものを持っていれば手っ取り早いのだが、そんなもの持ち合わせてはいない。ドラマとかだったら、ガラスの破片とかがどこかに。辺りを窺うがそれらしきものは見当たらない。ちょっと離れたところに鍬があるが、無理だ。
柱をどうにか上って紐を解くなんて芸当ができるはずがない。その前に、柱は天井までつながっている。完全にお手上げだ。
ネムに再び目を向ける。そうだ、爪で紐を切ることはできないのだろうか。
「ネム、爪でその紐を切れないか」
すぐにネムはかぶりを振って無理だと返答してきた。手の自由が利かないらしい。ダメか。何気なくミコに目を向けたとたんハッとなり閃いた。
誰かが呼んでいる。
なんだ、眠いんだから静かにしてくれ。
「おい、真一。おい、聞こえないのか」
「よっぽど、眠り草を嗅がされたみたいね。ああ、最悪」
「まったくだ。最悪だ。まさか待ち伏せされていたとは」
いったい誰だろう。ひとりは聞き覚えのある声だけど。なんだか頭がぼんやりして睡魔がおいでおいでと手招きしやがる。薄目を開けて声のほうを向くと誰かが話をしているようだ。ここはどこだろうか。夢の中だろうか。とにかく眠い、眠くて仕方がない。
「真一、寝坊助真一」
うるさい奴だ。誰が寝坊助だ。もしやあいつが睡魔という物の怪だろうか。んっ、何を考えているのだろう。
物の怪?
馬鹿馬鹿しい。睡魔という物の怪などいない。なら、あそこにいるのは誰だ。何かしきりに叫んでいるような。やっぱりあいつが睡魔なのかも。眠りを誘う魔物。
「阿呆真一、何を訳の分からないことをほざいているの。ボケるにはまだ早いわよ。唐変木のど阿呆真一」
ものすごく罵声を浴びせられている気がするが、気のせいだろうか。
それにしても睡魔とはおかっぱ頭の女の子だったのか。新発見だ。
んっ、おかっぱ頭だって?
そのときミコの顔が脳裏に浮かび、ぼんやりする頭をスパンと一刀両断された気がして身体がビクッと反応した。すると、視界が開けてきて目の前にいる二人の顔がはっきりとした。訂正だ、二人ではなく一人と一匹だった。
ミコか。そして、ネムも。あっ、ミコも猫だとしたら二匹ということになるのか。ってそんなことはどうでもいい。面倒だから二人でいい。
それにしても、ここはどこだ。
真一は二人のもとへ駆け寄ろうと身体を前のめりにさせたところで痛みと苦しみに呻き声をあげた。どうやら身体をどこかの柱に縛り付けられているようだ。紐が身体に喰い込み締め付けられる。何がどうなっているのだろう。
「やっとお目覚めだな。本当にすまない。吾輩のいざこざに巻き込んでしまって、本当にすまない」
「ネム兄ちゃんのせいじゃないよ。悪いのはスサでしょ」
「まぁ、そうなんだが。吾輩がもっと強ければこのような事態には」
「そこで落ち込まない。まだ、策はあるはずでしょ」
「うむ、そうだな。ここは吾輩の頭脳の出番だな。やるしかない」
「そうそう、その意気よ。それにネム兄ちゃんは本当は強いはずよ」
ネムもミコも同じように縛られている。どうにも今の状況が呑み込めない。確か、渡海神社で突然何者かに腕を掴まれたはずだ。で、睡魔が襲い……ここにいる。
鈍い頭でもネムとミコの会話を吟味すれば、答えは自ずとみつかるってものだ。スサとやらの手下に捕らえられたということだ。なら、ここは渡海神社の敷地内なのだろうか。いや違うだろう。どう見ても、どこかの作業小屋って感じだ。埃っぽいような。この匂いは、土の匂いかもしれない。なんとなく米のような匂いもする。そう考えると床の粉は、もしや米糠だろうか。ならば農家の納屋かもしれない。鍬や鋤もあるから間違いないだろう。
「おい、真一。大丈夫か。まだ朦朧としているんじゃないのか」
「いや、大丈夫だ。心配いらない。ただ、いろいろと状況を整理していたところだ」
「ふーん、ちょっと頼りないかと思ったけど意外と頭脳派だったりするのかなぁ。阿呆真一だと思っていた」
「こら、ミコ。言い過ぎだ」
そうだ、言い過ぎだ。阿呆はないだろう。けど、間違っていない気もする。
「ネム、いいんだ。俺はたいした男じゃないからな」
「そんなことはない、吾輩の命を救ってくれたではないか」
「そうだけど、あのとき本当のところは動物病院行かなくても大丈夫だったんじゃないのか」
ネムは、一瞬押し黙って「そんなことはない」と呟いた。
「そんなことあるんだけどね。って、今はそんなことよりここから脱出しなきゃ。考えようよ」
ミコの言葉に頷く。そうだ、このままでは未来はない。その通りなのだが、真一はどうにも違和感があった。何に対してそう感じるのか。ネムの顔を見て、その隣のミコを見る。猫の姿のネムと人の姿のミコ。ネムは猫……。
猫、猫、猫……。そうだ、ネムは猫だった。
「どうかしたか、真一よ」
話しかけてくるネムを凝視して、これは夢なのかと首を捻りすぐに違うと否定した。
「ネム、お、おまえ、言葉話せるんじゃないかよ」
「あっ、す、すまない」
ネムが苦笑いを浮かべて謝ってきた。
あのパソコンでの会話のやり取りはいったいなんだったのだ。話せるのなら、最初からそうしてくれたらよかったのに。
「ネム兄ちゃんだって、いろいろ事情があるんだよ。察してあげてよ。やっぱり頭悪いのかな、真一は」
「おい、ミコ。言葉が過ぎるぞ。同じこと何回も言わせるな」
「だって……」
ミコってこんなに口が悪かったっけ。悪かった気もする。まあ、どっちでもいいか。それにしても事情ってなんだろう。やっぱり今回の長の問題と関係しているのだろうか。きっとそうなのだろう。
ミコは溜め息をついて項垂れている。場の雰囲気がなんだか湿っぽくなってしまった。真一はひとつ咳払いをして
「とにかく、スサたちの陰謀を阻止しなくちゃいけないんだろう」と言い放った。
「そうだ、その通りだ。なんとかしなくては。ミコも真一も考えてくれ」
縛られた紐をまずは解かなくてはいけない。ナイフみたいなものを持っていれば手っ取り早いのだが、そんなもの持ち合わせてはいない。ドラマとかだったら、ガラスの破片とかがどこかに。辺りを窺うがそれらしきものは見当たらない。ちょっと離れたところに鍬があるが、無理だ。
柱をどうにか上って紐を解くなんて芸当ができるはずがない。その前に、柱は天井までつながっている。完全にお手上げだ。
ネムに再び目を向ける。そうだ、爪で紐を切ることはできないのだろうか。
「ネム、爪でその紐を切れないか」
すぐにネムはかぶりを振って無理だと返答してきた。手の自由が利かないらしい。ダメか。何気なくミコに目を向けたとたんハッとなり閃いた。
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