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第四章 ネムと真一、そして神再び
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しおりを挟む「ネム兄ちゃん、ありがとう」
ミコは満面の笑みでネムを抱き上げた。見ていると、不思議とこっちまで笑顔になってしまう。ネムの奴、ジタバタして喚いている。
「こら、離せ。ついて来てもいいが邪魔はするなよ」
「はーい。了解でーす」
なんだか、切羽詰まった状況でもミコがいるとその場を明るくさせるな。
「あんた、何見てんのよ。って、なんで真一がいるの?」
「そうだ、吾輩も気になることが。なぜ、真一は吾輩たちのことを覚えているんだ」
「それは、その」
真一は、今までのいきさつを掻い摘んで話した。
ネムとミコはなるほどと頷いていた。
「真一は凄い奴だな。神を味方につけることができる人間は初めてだ」
「味方だなんて、そんなわけないだろう。猿田彦様はきっとアザのために姿を現したんだよ。俺にじゃなくって」
「そうだよ、アザ長老は神と以前交流があったって聞いたもん。真一はどうみてもただの軟弱な人間だよ」
真一は苦笑いを浮かべるしかなかった。
どうせただの軟弱な人間だよ。なんのとりえもないな。
「いや、そうでもないかもしれないぞ。真一の潜在意識の中に、何か秘めたるものがあるに違いない」
「買い被り過ぎだよ、ネム」
「そうだ、そうだ」
「ミコは黙っていろ」
「はい」
シュンと小さくなったミコがこっちに目を向けたかと思うと、寄り添ってきた。おいおい、急にどうした。人の姿だがやっぱりミコは猫だなと改めて確信した。ネムに怒られて、自分に救いを求めているのだろう。けど、口を挟むつもりはない。人を馬鹿にしておいて助けるわけがない。まあ、ミコは冗談を言っているのだろうけど。
「真一よ、よければ吾輩とともに来てはくれまいか」
「ああ、もちろん」
「ほら、ミコも行くぞ」
「は~い」
ミコはまだちょっとだけ不貞腐れている感じがする。チラッとミコに視線を送ると小声で「なんで、私を擁護してくれないのよ。阿呆、真一」と詰ってきた。
「悪いのはおまえだろう。ていうか、ミコは俺の悪口言ったじゃないか。そんな奴を擁護するか。って、そこで膨れっ面するなよ」
この膨れっ面が妙に可愛く見えちまう。だからミコが憎めない。
「まあ、いいけど。私、真一が優しいって知っているもん。だから、怒らないって知っているもん。でしょ」
ああ、まったくこいつは。男心を擽る猫娘だ。前を歩いているネムがこっちを振り返り、ニヤッと笑みを一瞬だけ見せたのを見逃さなかった。なんだか、こういうのもいいかもしれない。今からどんな危ういことが待っているかもわからないって言うのに。ネムとミコと自分とで楽しく過ごせたならいいけどとつい思ってしまった。
とにかく今起こっている何かを解決しなくてはいけない。何が起きているのか、自分にはよくわかっていないけど。相当辛くてしんどいことが待っているのだろう。命も危ういかもしれない。気を引き締めて覚悟を決めなくてはいけない。
「ぷぷぷ、真一ったら真面目腐った顔しちゃって」
ダメだ、やっぱりミコといるとペースがグダグダだ。本当に一言余計だ。それが嫌味に聞こえないところがミコのいいところかもしれない。まったくミコがいると、いざ決戦の地へのような場面でも遠足にでも赴く気分になってしまう。不思議だ。
ふと見遣ると、ネムの背中もどことなく揺れている気がした。絶対に笑っている、ネムのやつ。
ミコは今からどこに行くのか知っているのか。それともあえておかしなこと呟いてリラックスさせているのだろうか。いや、そんなことはない。ミコは天然だ、きっと。
*
そのときヤドナシはというと。
歯を食いしばり、崖の上の光を頼りに必死に岩肌にしがみ付き上へ上へと登っていた。
早く知らせなくては。結界の中にいる恐ろしい奴がおそらく真の力に違いない。急げ、とにかく急げ。
「ネムの兄貴、待っていてくださいよ」
*
「んっ、今ヤドナシの声が聞こえなかったか」
ネムの言葉に「いや、俺は何も」と首を捻って答えた。
「空耳じゃないの。ネム兄ちゃん、疲れ気味なんじゃ。私が癒してあげようか」
「いや、いい。大丈夫だ。空耳じゃない。ヤドナシは吾輩だけに念を飛ばしたんだ、きっと」
ヤドナシか。鼠の小さな身体なのに、凄く威厳ある奴だった。今もネムのために頑張っているのだろう。
社の前に着くと、扉は開かれていた。
その開かれた先にはキラリと輝くひとつの鏡がある。その鏡の中には、猿田彦大神がこっちを睨み付けるように鋭い眼光を向けていた。炎が燃え滾るような瞳が、身体を硬直させた。流石のミコも真面目な顔つきをしている。猿田彦大神はゆっくりと頷くと、姿を消した。
あの鏡が通り道だと示したのだろう。
「行くぞ、真一、ミコ」
真一はネムの言葉に頷き、ネムを先頭に鏡の道へと足を向けた。
背後でカラスが一鳴きしたのを微かに耳にしたが、特に気にせず足を進めた。
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