44 / 64
第五章 真の力
1
しおりを挟む猫の街では、ダイが自室に籠り天を仰いでいた。
果たして、これでよかったのだろうか。長老様、ネム兄、ミコ。おいらはもしかしたら、とんでもないことをしでかしてしまったのではないだろうか。いや、おいらがミコを守り、そして長になる。これでいい。そうだよな……。
ダイは嘆息を漏らして、そのままゴロンと横になり顔を埋めて丸くなる。
「おい、まさかと思うが後悔しているわけではあるまいな」
ガバッと跳ね起きて、前後左右に目を向ける。誰もいない。
空耳か?
いや違う。ならば、上かと少しずつ顔を上げていくと天井の角の板が外されて顔が覗いていた。ダイは肩を竦めて後退りした。
そこにいたのは、鴉天狗のヤタだった。
「どうして」
「ふん、どうしてだと。望み通りアザが黄泉へ旅立った。だから、ここに来られたってことだ」
そうか、結界が解けちまったのか。
ヤタは不敵な笑みを湛えて言葉を連ねる。
「おまえの天下はもう少しだ。そうだろう。あやつらは、災いを齎す輩だ。悪は死して当然。そうであろう。天誅を下すのだ。ネムとスサの命も奪うのだ」
「そ、そ、そうですよね。わかっていますって。あの二人の命もじきに消えますよ」
いいのか、それで。けどもう後戻りなど出来るはずがない。あのとき決めたじゃないか。長老もネムもスサも善猫ぶっているだけで、本当は陰では酷いことしている。そう教えてくれたのはヤタだった。命の恩人だ。ヤタはいい鴉天狗だ。けど……本当にネムとスサは悪者なのだろうか。
「甘いぞ、あいつらは手を取り合って結託したぞ。さっさと記憶の書き換えをして再び敵対させろ。いいな」
ネムとスサが結託した⁉
そんな馬鹿なことがあるわけがない。偽の記憶を打ち破る術はないはず。ダイは眉間に皺を寄せて深く考え込んだ。
「ヤタ様、それは本当のことでしょうか」
「ふん、この私が嘘を吐くと? 片腹痛いわ」
「す、すみません。ご無礼なことを」
ダイは項垂れるように頭を垂れた。
「まあ、よいわ。とにかく、スサがここへ向かって来ている。油断はするな。記憶を書き換えるのだぞ。あいつは悪者だ。そして、約束を果たせ」
そう言い放ちヤタは天井裏の暗闇へと姿を消した。
約束、そう約束をした。果たさなくては。ヤタには恩義がある。幼き時の記憶がふと蘇る。
自分はどうすべきなのだろうか。ヤタ様は正しいはず。けど、ネム兄たちも……。ああ、なんだか心臓がバクバクしてきた。逃げ出したい、けど、猫の街を正さなくては。
ダイはなぜだか眠気が襲ってきた。逃げ出したい気持ちがそうさせるのだろうか。
このまま夢の中にでも逃げてしまおうか。それがいいかもしれない。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる