小説家眠多猫先生

景綱

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第六章 最後の闘い

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「真一、大丈夫か」
「ああ」

 皆の顔がそこにある。なんだか随分と逢っていなかったかのような懐かしさを覚えた。別れたのはついさっきのことなのに。けど、この人は誰だろう。
 似ている。鏡を見ているみたいだ。
 真一の視線に気づいたのか、「行安だ。まあ、おまえのご先祖様とでも言えばわかるだろうか」と行安は微笑んだ。
 ご先祖様だって。それでか、そっくりなのは。

「うわっ、阿呆が二人に増えた」
「こら、ミコ。そんな口を利いてはいけないぞ」

 ネムに怒られてミコはシュンとしている。その横で、ヤドナシが笑いを堪えていた。
 なんだかこの感じ和むな。
 スサとダイは、何がどうなっているのか混乱したふうで口を閉ざしていた。混乱しているのは自分もだが。

「ふむ、なんとか間に合ったようだな。これで丸く収まるだろう」
「お、猿田彦大神ではないか」

 やはりいつ見てもデカい。鼻もだけど。あの光る眩しい瞳もすごい。八咫鏡だって話を聞いたけど。あれ、肩にいるのは八咫烏か。俺の認識じゃ、どっちも導くものって共通点があるけど。この組み合わせは珍しいのではないだろうか。カラスにも善悪があるのだろうな、きっと。

「ネム兄、御無事でなによりです」
「おお、ダイ。それはこっちの台詞だ。あの世へ旅立ったとばかり思っていたぞ」
「はい、三途の川までは行ったんですけどね。八咫烏に呼び止められたもので戻ってくることができました」
「そうか、それはよかった」
「これで、めでたしめでたしだね。あ、アザ長老は残念だったけど」
「ミコ、そうシュンとするな。父上だってきっと笑みを浮かべているだろう。吾輩はそう思うぞ」

 これで元の平穏な猫の街に戻るのか。あっちでは鴉天狗の父子のご対面でいい雰囲気になっているし、問題解決となりそうだ。ただ実際には昔何が起きていたのかが気にかかるところだが。ここは鴉天狗の住む土地だったというのは間違いないのだろう。でも、今は猫の街。あのヤタとかいう鴉天狗は本当に納得いったのだろうか。

「ネム、真実はどうなんだ。ちょっと気になっているんだけど。鴉天狗を殲滅させたわけじゃないんだろう」
「まあな」
「真一、そんなのいいじゃない。皆無事だったんだから。あまり深く追求すると、嫌われるんだからね。特に女子にはね。あ、私のこと好きかもしれないけど、阿呆は無理だから」

 ミコがニヤッとした。
 おい、おい、なんでそうなるかな。いつミコを好きだなんて言った。まったく勘違いもいいところだ。

「真一、後で昔話はしてやる。今は、少し休もう。腹も減ったしな」
「それ賛成」

 ヤドナシが間髪入れずに手を上げた。

「ミコも、お腹減った」
「ネム兄、おいらも」
「スサ、もちろんおまえも食べるだろう」

 スサはコクリと頷き頬を緩ませていた。

「ふん、猫らしいな。まあ、私は帰るとしよう。綿津見大神とも約束があるのでな」

 猿田彦大神はそう告げると背を向けた。肩に乗っていた八咫烏は、すでに空に舞い上がって姿を消していた。

「ありがとう、猿田彦」

 背を向けたまま手を上げてスッと消え去っていった。

「では私も帰るとしよう」
「行安殿はもう少しいてもいいのでは」
「そうですよ、ご先祖様からも当時の話を聞きたいし。ネムのこといろいろ知っているんでしょう」

 行安は頷き「ならば、少しだけ」と呟いた。

「では、我らも仲間に入れてはくれまいか」

 突然、背後からの声にドキッとして振り返ると鴉天狗の元長のヤマタと真一文字に口を閉じてそっぽを向いているヤタがいた。さっきまでの殺気はないようだが、完全には納得していないのだろうな。
 平穏な時を取り戻した猫の街には活気が蘇っていた。どこかに隠れ潜んでいたのだろう猫たちも姿を現して、酒を呑み旨い料理を堪能していた。
 そんな中、ネムは昔話を語り始めた。どうやら平安時代あたりのことらしい。
 そんな昔なのか。なら、ネムはいったい何歳になるのだろうか。

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