ちょっと奇妙な小部屋 ホラー短編集

景綱

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17号室 ブックウィルス(3)

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 夢を見た。
 映像に出てきた少女だ。

「早く、行きましょう。あっちの世界は楽しいわよ」

 微笑みを浮かべて手招きをしていた。
 あっちの世界ってあの世のことか。
 ああ、くそったれ。頭が割れそうだ。ムカムカする。なのに、伝えることが出来ない。身体が重い。このままだと本当にあの世に連れて行かれてしまう。
 早いところ治療法をみつけてくれ。

 なぜ、身体が動かない。この腕、動け。足よ、動け。ああ、気が狂いそうだ。瞼よ、開いてくれ。今は朝だろう。違うのか。変なことを聞いてしまったせいで、夢にあの少女まで出てきちまうなんて。
 俺は生きているのか。生きているのだろう。誰か教えてくれ。自分の目で今の俺を見てみたい。くそっ、溜め息も出来ないのか。

 今は何時頃なのだろうか。明るさを感じるから、夜ではないことは間違いないだろう。
 まったく、どうなってしまったのか。目覚めているはずなのに、目覚めていないような気がしてしまう。身体の自由が利かないとはこうも不自由なものなのか。瞼を上げることさえ叶わないなんて。
 足音がする。誰だろう。看護師だろうか。きっとそうだろう。

「風見さん、おはようございます。今日はいい天気ですよ」

 やはり、朝か。返事をしたいのに、声が出ない。綺麗な声の看護師はどんな顔をしているのだろう。この目で見たいものだ。入院時に見た看護師だろうか。そうだったらいいな。何を考えているのやら。こんな不自由な身体になってもそんなことを考えてしまうとは情けない。いや違う。そんなことを考えていないとやっていられないのだ。
 とにかく、早く元通りの俺に戻してくれ。頼むから。そう思ったところで看護師には何も通じない。せめて指先だけでも動けばいいのに。
 なにやら点滴らしきものをしていることはわかる。まったく効果のない点滴だとも知っている。本当に有効な治療薬はないのか。

「清水さん、同じ症状の患者さんがこっちに移送されてくるみたいよ」

 んっ、誰だ。もうひとり看護師が来たのか。いつもの看護師だろう。さぼりに来ているのか。そんなに暇じゃないだろう。そういえば今、清水って言ったな。この看護師は清水と言うのか。

「そうなの」

 ふと清水という看護師の声に聞き覚えがあるように感じた。気のせいだろうか。もちろん、今までいろいろと会話を耳にしている。けど、ここに来る以前に彼女の声を耳にしていた気がする。いつ、どこで。

「同じ症状の患者をなるべく同じ病院にってことらしいわ」
「そうなんだ。けど、まだ治療法がわからないんじゃないの。ウィルスも判明出来ていないんでしょ。本当は感染症じゃないんじゃないの」
「私にはよくわからない」
「私だってわからないけど。本から感染ってどう考えたっておかしいでしょ。ブックウィルスなんて聞いたことないもの」

 看護師の会話はいい情報源だ。ただ悪い情報だけど。まだ治療法がわからないなんて。
 俺に明日はあるのだろうか。もしかしたら、そのまま目覚めないかもしれない。
 夜になり、また少女の夢を見た。

「そろそろ、私の手を取ってくれませんか。楽しい場所に行きましょうよ」

 その言葉を耳にして俺は目覚めた。まだ明かりを感じない。夜中なのだろう。
 夢の中の少女の手を取れば、あっちの世界に行けるのだろうか。こんな苦痛を耐え続けるのなら手を取ってしまったほうがいい。そう思うのに、夢の中の俺は手に取ることをしない。まだ助かると信じているのかもしれない。自分のことなのに、よくわからない。
 わかることは、痛い、苦しい、辛い。そんなことばかりだ。

 あっ、夢の少女の声……似ている気がする。清水という看護師の声に。けど、そんなはずはない。いや、あるのか。もしかして、あの本の著者は彼女なのか。それはないか。

***

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