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22号室 神様だって地下鉄に乗る(2)
しおりを挟む就職も決まり、卒業を待つだけの俺は家族で旅行に行った。初日の出を見に行こうなんて父が言い出したことがきっかけだった。
ホテルは海が一望できる部屋で、ここから初日の出が望める。
初日の出を目にすると、頑張らなきゃという気持ちでいっぱいになった。父と母への感謝の気持ちが膨らんでいった。兄にもありがとうと言いたい気持ちだった。
来てよかったとそのときは思った。
まさか、大地震が起こるなんて。大津波がやってくるなんて。想像もしなかった。ホテルにいたら助かったかもしれない。けど、地震発生はホテルをチェックアウトして海辺を車で走行しているときだった。道路に亀裂が入り裂け目が入ったと思ったら、崩れ始めた。車は海側に傾き今にも落ちそうになっていた。
「早く、外に」
父の一言に俺はシートベルトを素早く外して外に飛び出した。そのとき、車は海側に転落してしまった。けど、落ちた先は岩場の多い砂浜でみんな無事だった。だけど、そこから上に上がる場所が見当たらない。俺は助けを呼んでくると近所の民家のほうへと駆け出した。
それが父と母と兄の最後の姿になってしまうとは……。
呼びに行っている間に津波がみんなを連れ去ってしまうなんて。道路も崩れていたせいですぐに民家に辿り着くことが出来なかった。俺がもっと早く動けていたら。悔やんでも悔やみきれない。
今も父と母と兄は行方不明のまま。
俺は一人で津波が押し寄せて変わり果ててしまった街並みをボウッと眺めていた。魂が抜け落ちてしまったようで何も考えられなくなってしまった。ただひとつ不思議に思ったことがある。高いところから俯瞰でその場の風景を見ている感覚に陥っていたことだ。まさに浮いているような感覚だった。あの感覚はいったい何だったのだろう。
そのあとのことは覚えていない。気づいたら、家で寝ていた。いつ、家に戻って来たのか。どうやって戻って来たのか。ずっと過ごしていたはずの部屋に違和感があり、どこかひんやりする部屋に感じたことは覚えている。
俺は何もやる気が起きないダメ男になってしまった。
大きく息を吐き、外の闇をただみつめていた。地下鉄か。俺は地下鉄みたいにずっと闇の中を走っているようなものだ。ただ違うことは辿り着くべき駅がないこと。俺の未来が見えない。
俺はみんなと一緒に死ぬべきだったかもしれない。ただ一人助かった罪悪感がさっきのような夢をみさせたのだろう。
そういえば、俺はどこに向かっているのだろうか。
えっと……。そうだ、家だ。両親が残してくれた東京の木場にあるマンションへ帰るところだった。家賃とか気にせずにいられるのが唯一の救いだ。あれ、そういえば相続税とかどうしただろうか。何か手続きをしたのか俺は。行方不明で死亡確定していないからいいのか。
よくわからない。覚えていない。
記憶までおかしくなってしまったのか俺は。司法行政書士事務所に相談に行ったような気もしないでもない。俺の頭はおかしくなってしまったのか。何もかもが嫌だ。
またしばらく無職だし……。どうしようもない奴だ。
窓を眺めていたら、闇に光が差し込んできた。どうやら目的地の木場駅に到着したらしい。ふと横を見るとさっき読書をしていた女性がすぐ横に立っていた。この女性も木場駅で降りるのか。
小柄でちょっと華奢な感じだがどこか凛とした雰囲気を醸し出している。思ったよりも若いのかもしれない。高校生くらいかも。ふとそんな気がした。
扉が開き、女性が先にホームに降りた。俺も後に続こうとしたところを何者かに襟首を引っ張られて押し戻されそうになる。だが、そのとき白い何かが横切って行き背中を押されてホームへと突き出された。
振り返ると、電車の扉は閉まり睨み付けるお爺さんと営業マン風の男がいた。なぜ、睨まれなきゃいけない。俺が何かしたというのか。そんなことはしていないとかぶりを振り、ゆっくりと走り出す電車を見送った。
二人は何かを口にしたようだが俺には聞こえなかった。
俺は早くその場を立ち去ろうと前を向いたとき、真っ白な狐のような存在を目にした。一瞬のことでよくわからなかった。俺は変な世界に迷い込んでしまったのか。叫びたい気分だった。幻だ、すべて幻だ。錯覚だ。そう思うことにした。そんな俺をみつめるさっきの女性がいた。だが、目が合うと階段へと進み姿を消してしまう。
そのとき、何かが落ちて目を向ける。さっき読んでいた本かもと近づくと、本ではなく手帳みたいだった。俺はすぐに拾い、女性に声をかけようとしたのだが、女性の姿はどこにもなかった。人混みに紛れたわけじゃない。人混みなどないのだから。階段を上っていったはずだ。消えるはずがない。
やっぱり俺は変だ。おかしい。幻……なのか。いや違う。手に持つ手帳が幻ではないと示している。とにかく改札を目指そうと駆け出そうとしたとき急に身体が重くなり手を膝につけてなんとか耐えた。上へと続く階段を見上げて息を吐く。足が重くてなかなか前に進まない。どうして。
それでもどうにか一歩一歩踏みしめながら階段を上っていく。よし、あと一段だ。上りきったところで重さに耐えられずしゃがみ込み足に力を入れて踏ん張っていた。そうしていないと、後ろに引っ張られて転げ落ちそうになる。チラッと後ろを見遣ると深い闇が広がっていた。俺は這い蹲るようにして改札に向かった。
改札を抜けると不思議と身体が軽くなった。いったい俺の身体に何が起きていたのだろうか。わからないことだらけだ。
俺は改札の向こう側に目を向けてハッとする。薄暗い闇の中に無数の黒い影を見た。だがその影はすぐに消え去った。もしかして、俺はあの影を背負っていたのかも。ブルッと身体を震わせると急いで地上を目指す。
地上に出た瞬間、あまりにもの眩しさに手を翳して目を細める。なぜだろう、久しぶりに地上に出てきたような錯覚に陥った。そんなはずはないのに。どこか気持ちがスッキリしている。
フッと息を吐くと、さっきの女性を探した。どこにもいない。階段を上るだけでかなりの時間がかかってしまったから、いなくて当然だ。
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