本の御魂が舞い降りる

景綱

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第一話 謎の鍵が示す先

【十一】源じぃが残したもの

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 イジメられていた頃のことが頭に浮かぶ。
 思い出したくもない嫌な記憶だ。そのイジメから救ってくれたのが小海だ。あのとき、小海がいなかったらあのときのイジメはエスカレートしていたのかもしれない。登校拒否して引きこもりになっていた可能性だってある。

 今思えば、いつも小海に助けられていた気もする。それって男としてどうなのだろう。情けなくはないか。もっとしっかりしなきゃいけない。わかっているけど、ドジな自分がそこにはいた。その反面、格好いい小海が存在した。

 小学三年の夏、小さな小海が憤怒ふんぬ形相ぎょうそうで飛び込んできたあの日が懐かしい。思い出しただけで頬が緩む。

 小海は自分だけにそうだったわけじゃない。もしかしたら、ウザいなんて思っていた奴もいたかもしれない。それでも小海は変わらなかった。正義の味方ってところだろうか。
 ただ気をつけなくてはいけない。正義は時として悪にも成り得るから。
 小海はきっと大丈夫だとは思う。自分勝手な正義感で突き進んだりはしないはず。火乃花みたいではないはず。

 今でもそれは変わっていなさそうだ。もう少し、自分のことを考えればいいのにって思うこともある。目障りだと思われて危険な目に遭わないことを祈る。そう思う奴もいるのも事実だ。
 何かあったときには今度こそ自分が守ってやらなきゃ。

 あっ、まずい。仕事しなきゃ。さっさと片付けてしまおう。
 鍵のことは小海からの連絡を待ってからでもいい。今は忘れよう。それにしても寒すぎる。早いところ、自分の部屋に戻って暖を取ろう。ちょっとの間に手がかじかんでしまった。

 部屋に戻りに文机ふづくえの前に胡坐(あぐら)を掻いた瞬間、腹の虫がグゥーッと鳴った。まずは腹ごしらえが先か。腹が減っては戦ができぬなんて言うからな。
 小海のお婆ちゃんのお裾分けでも食べてから仕事にしよう。

 いったい何を持ってきてくれたのだろう。
 キッチンからお裾分けの袋を持ってきてタッパを開けると、煮物だった。里芋と人参と椎茸と鶏肉が入っている。湯気がふわりと立ち上る。
 手に伝わるあたたかさと匂いだけで幸せな気分になる。ということは、小海は外でそんなに待っていなかったのかもしれない。

 タッパはもうひとつある。こっちはなんだろう。
 おっ、五目御飯だ。

 再び、腹の虫が鳴る。
 身体は正直だなと苦笑いを浮かべた。

 里芋を一口食べると、とろりと柔らかくて自然と笑みが零れた。薄味で好みの味だ。そういえば、源じぃが薄味好みだったと思い出す。その影響で自分もそうなったのかもしれない。
 鶏肉もジューシーでたまらない。人参は甘味がある。椎茸は良い感じで味が染みていて味わい深い。
 五目御飯も良い味わいだ。出汁が効いている。

 遼哉は腹を擦り、息を吐く。あっという間に完食してしまった。
 満腹になったらなんだか眠くなってきた。さっき寝ていたはずなのに。まったくだらけきっている。部屋のあたたかな空気が眠気を誘ってくるのかもしれない。

 そういえば、隙間風もない。古い家なのになぜだろう。
 そうか、リフォームしたっていつだか話していた。そのせいか。

 んっ、けど……どこをリフォームしたのだろう。変わったところがあるように思えない。
 そんなこと、今はどうでもいい。早いところ仕事を終わらせなきゃ。
 単純な仕事だ。手書きの原稿をWordで打ち込んでいくだけだ。そう、ただそれだけだ。そう父から聞いていたけど、この文章って。

 見覚えのある文字だ。くせのある文字でところどころ読みづらい。
 これってもしかして源じぃの原稿なのか。最後の作品なのかも。それを自分がデータ化するのか。なんだか胸が熱くなっていく。

 それって思っているよりも重要な仕事じゃないのか。源じぃの原稿がここにあるって大丈夫なのか。熱烈な大ファンが盗みに来るなんてことはないのか。そこまでのファンはいないか。大丈夫だ、きっと。
 源じぃのファンの中に、犯罪に手を染めるような者はいないだろう。そんな気がする。
 そもそも、これは本当に源じぃの原稿なのか。

 念のため原稿をめくり確認すると、そこにはしっかりと高宮源蔵との名前が記されていた。
 なんだろう、急に目の前がぼやけてきやがった。

 原稿から源じぃのぬくもりを感じる。もちろん、そんなことあるわけがない。わかっていても、どこからか『ありがとう』との言葉まで聞こえてきそうだ。もしかしたら、源じぃの幽霊が見守ってくれているかもしれない。

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