本の御魂が舞い降りる

景綱

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第一話 謎の鍵が示す先

【二十四】肖像画の裏に

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「そうだったんですね。もしかしたら、源じぃもハルさんのこと思っていたのかもしれませんね」
「そうだろうかねぇ。まあ、いろいろあったけどいま私は幸せだよ。小海と出会えたし、あなたとも出会えたしねぇ」

 ハルは柔らかな笑みを浮かべている。
 遼哉はハルの柔らかな笑みを見つつ、いろいろと考えてしまった。
 人生思い通りにはいかないってことか。それでも、幸せならいいのかもしれない。

 チラッと源じぃの肖像画を見遣り、小さく息を吐く。
 もしも源じぃとハルが結婚していたとしたら、どうなっていただろう。

 自分はここにはいない。小海もそうだ。そこには違う家族が存在したことになる。そんな世界がどこかに存在しているのだろうか。
 もしかしたら、小海と兄妹の関係で存在していたって可能性だってある。

 源じぃとハルが添い遂げられた世界があったとしたら祝福してあげたい。無理な話だが。それは別次元での話だ。考えてもしかたがない。

 遼哉は小海がいることを確認して、この世界でよかったと安堵する。源じぃには申し訳ないけれど。
 そういえば、あれはどういうことだろう。ハルの話を思い出して首を捻る。

「あの、ハルさん。御魂三人衆って人形なんですよね」
「そうだよ」
「けど『御魂三人衆がいてくれたら』なんて言っていましたよね。どういうことですか。失くしてしまったとかですか」

 樹実渡と呼ばれた人形しかここには見当たらない。そう捉えていいのだろうか。
 あっ、違う。ハルの家と伴治の家にあるって言っていたか。なくなってしまったのなら、『いてくれたら』との言葉も変だ。いや、変じゃないのだろうか。

「ああ、そうだねぇ。あの子たちは生きていたからねぇ。人形だけど人形じゃないんだよ。あの子たちは本の御魂だから。付喪神つくもがみと言ったらいいかねぇ。ある日突然、動かなくなってしまったんだよ」

 どういうこと。人形が動く。付喪神って妖怪ってことか。遼哉は想像して背筋が寒くなった。
 ホラーだ。人形が動くだなんて。
 本が人形の姿になっているってことか。なんだか頭の中がごちゃごちゃしてきた。

「お祖母ちゃん、怖いこと言わないでよ」
「おや、おや、あの子たちは怖くはないよ。あのときは楽しかったねぇ」

 遼哉は小海と顔を見合わせた。

「どうしよう、お祖母ちゃん、ボケちゃったのかも」
「人形が動くだなんてありえないよな。ボケなのか、これ」
「ちょっと、聞こえているよ。私はボケてなんていないよ。おかしなこと言うもんじゃないよ」
「あっ、すみません」
「ごめん、お祖母ちゃん」

 遼哉は頭を下げた。小海も隣で同じようにしている。なんか気まずい。

「まあねぇ、そう思うのもしかたがないことだよ。ありえないことだし。あの子たちが復活してくれたら、理解してくれるんだろうけど」

 人形が本当に動くんだろうか。

 んっ、何の音だ。
 どこかでガリガリとの音がする。またグレンの仕業か。
 まさか、人形が動いているのか。そう思ったがすぐに遼哉は変な考えを頭から排除した。

 音のするほうに目を向けると、グレンが壁をガリガリ引っ掻いていた。源じぃの絵の下で何をしているんだ。壁が傷んでしまう。

「グレン、ダメじゃないか」

 グレンは上目遣いでみつめてくると、またすぐにガリガリと引っ掻き始めた。壁紙がボロボロになっていく。

「グレンちゃん、ダメよ」

 小海が抱き上げようとすると、サッとかわして短く鳴いた。

「グレンに嫌われちまったみたいだな」
「なによ、そうじゃないわよ。ちょっと驚いちゃっただけよ。ねっ、そうよね」

 小海はグレンのほうに向きながらしゃがみ込み、おいでと両手を前に出していた。
 グレンはどうするだろう。おっ、ゆっくり小海に近づいて行く。本当に驚いただけだったのか。

 あっ。
 グレンが突然、小海の肩に飛び乗って更にジャンプした。源じぃの絵の額縁へ爪を立ててぶら下がっている。

「おい、こら。グレン、やめろ」

 グラグラと絵が揺れて絵が落ちてしまった。やってしまった。

「あらあら、いけないねぇ。グレンちゃん、悪戯いたずらが過ぎるよ。それにしてもこの子は、銀ちゃんにそっくりだねぇ」

 ハルがグレンを抱き上げて優しく頭を撫でていた。なんだか不思議だ。悪戯しても可愛いからと許してしまう。それは猫の特権なのか。いや違うか。ハルも小海も猫好きだからだ。自分もだけど。だからつい甘やかしてしまう。
 それでいいのだろうか。まあいいか。

 グレンは何事もなかったかのように目を細めて気持ち良さそうに撫でられている。
 それにしても銀って猫は、そんなにグレンに似ているのだろうか。というか似た猫って結構いるか。グレンと銀が同じ猫のはずがない。

「ねぇ、遼哉。絵の裏に封筒が貼りついているわよ」

 小海の指摘にそっちへ目を向ける。
 本当だ。封筒がガムテープで貼りつけてある。
 封筒には『遼哉へ』とあった。ガムテープをぎ取り、封筒を裏返すとそこには源じぃの名前があった。

 源じぃはこの封筒をみつけてほしかったのか。回りくどいことを。源じぃらしいと言えばそうだが、最後まで遊び心を忘れない人だ。
 どうせなら、『まだ生きていました』なんて飛び出してくれたなら……。
 この部屋は夢の国に通じているのではなかったのか。魔法の鍵じゃなかったのか。そんな非現実的なことがあるわけがない。もう子供じゃない。わかるだろう。

 遼哉は嘆息を漏らして封筒をみつめて封を開ける。
 源じぃの文字が並んでいた。

「源蔵さんの手紙のようだねぇ」

 すぐ横にきたハルの言葉に頷く。

「遼哉宛てだよね。私たち、いないほうがいいかな」
「いや、いてくれ」

 小海に返事をして深呼吸をひとつ。ここには何が書かれているのだろうか。

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