40 / 161
第一話 謎の鍵が示す先
【四十】強面の伴治
しおりを挟む真剣な顔をした源じぃが伴治をみつめている。
「驚かせてすまない。どうしても直接言いたくてな。伴治、悪いのは私だ。ハルさんに好意を持っていたのは事実だからな。勘違いしたとは言い切れない。それに伴治を仲間外れにだなんて思ったことはない。だが、そう思わせてしまったのも事実だ。すまない」
「ふん、やはり源蔵はハルを好いておったのか」
伴治が眉間に皺を寄せてそっぽを向いてしまった。
まずい、このままじゃまた仲違いをしてしまう。せっかくいい雰囲気だったのに。源じぃ登場で雲行きが怪しくなってしまった。どうしたらいい。
「いい年をして臍を曲げるだなんて、まったくどうしようもないねぇ」
なんで水に油を注ぐようなこと言うんだ。
遼哉はハルに目を向けて口を開きかけて閉じた。
ハルはどこか笑みを浮かべているようだった。冗談なのか。いやいや、この状況で言うなんて逆効果だろう。
「馬鹿にしているのか。ハル」
伴治の睨む姿にゾッとした。
もう、どうすりゃいいんだ。
「鬼だ。やっぱり伴治は鬼だ。成敗するのだ」
「静かにしなさい。火乃花がいま出ていってはこじれるだけです」
「流瀧、止めるな。樹実渡もなぜ止める」
樹実渡は火乃花の腕をしっかりと掴んでいた。
ここで火乃花が攻撃でもしたら最悪だ。頼むから、二人とも火乃花を止めておいてくれ。
とにかく、この嫌な空気をどうにかしなくては。
考えろ。一刻も早く打開策を見出せ。フルスロットルで考えろ。
ああ、頭から煙が出てきそうだ。オーバーヒート寸前だ。
そう思ったとき、伴治の大笑いする声が部屋全体を揺るがした。
なんだ、何が起きた。
「なーんてな。冗談だ、冗談。源蔵が驚かすから私も驚かせようと思っただけだ」
「人が悪いですよ。伴治さん」
ハルは口を押えてクスクス笑っている。
もしかしてハルは伴治が冗談を言っているって気づいていたのか。
「伴治、本当にびっくりしたぞ。真面目なおまえが冗談を言うとはな。なんだか嬉しいよ」
「嬉しいか。それならよかった。これで私も胸のつかえが取れた」
伴治の笑い声が再び響き渡る。
「こうもすんなり和解出来るのなら、生きているうちに伴治を訪ねるべきだった。悔やんでも悔やみきれん。まあ、なんだ。なにはともあれ、これで未練も消えた。成仏できそうだ」
「そんな、成仏だなんて寂しいじゃないか。源蔵はずっと幽霊のままいてくれ。ハルさんとまた三人で楽しく小説を書こうじゃないか。ほら、本の御魂三人衆も復活しているし。また本の世界で活躍させようじゃないか」
「そうだよ。このままいてもいいんじゃないかい。まあ、幽霊のままっていうのもおかしな話だけどねぇ」
源じぃは伴治とハルを交互に見遣り、ゆっくりと頭を振る。
「私は、そう長くはいられない。もう思い残すことはない。その代わり、孫の遼哉と仲良くしてやってくれ。こいつは文才がある。きっと私を超える小説家になるだろう。手助けしてやってくれないか。私だと思って」
えっ、そんな。文才なんてない。と思うけど、あるのだろうか。
なぜか、小海が源じぃの言葉に同意していた。小海までそう思うのか。小説なんて書いたことないのに。学校での課題で書いた作文くらいの経験しかない。
なんだか思わぬ展開になってきた。
小説家なんて自分には無理だ。どうすりゃいい。源じぃと目が合い苦笑する。気づけば脇の下が汗で濡れていた。
「大丈夫だ。不安そうな顔をするな。おいらたちがいるじゃないか。力になるぞ」
樹実渡が満面の笑みでこっちに目を向けていた。
「文章のことなら僕に任せてもらえば何でも教えますよ」
流瀧が頷き、少しだけ口角を上げた。
「私は、えっと。何か出来ることあるかな。鬼退治。じゃなくて、えっと」
火乃花は唸りながら困り顔をしている。伴治を退治しようとしていた顔とはまるで違っている。仕種も顔も、なんとも愛らしい。思わず、遼哉は声をかけようとしたのだが流瀧に先を越された。
「火乃花」
「えっ、何。流瀧」
「御伽草子の御魂でしょう。昔話を教えてあげればいいのですよ。きっと参考になるはずです」
火乃花の肩に手を乗せて微笑む流瀧に心があたたかくなった。その様子を優しい眼差しでみつめる樹実渡もいた。
この三人には信頼感があるんだな。きっと。
自分もこの輪の中に加わるんだよな。頼もしい仲間が出来たと思っていいんだよな。そう思うだけで、とても楽しい日々が送れそうだ。
「三人とも、これからよろしく」
流瀧、樹実渡、火乃花の三人が顔を見合わせると、こっちに向き直り揃って親指を立てて二カッと笑った。
「ねぇ、何をこそこそ話しているの。私だけ除け者にしないでよね」
小海のふくれっ面に思わず吹き出してしまう。
「なによ。なんで笑うのよ」
「ごめん、ごめん。除け者なんてしないよ。小海は俺の大切な人だからな」
「えっ、な、なに、急に」
小海の顔が真っ赤になっていく。
「お熱いねぇ」
「本当に」
「そうだな」
ハルと源じぃと伴治もこっちを見て笑っている。
「いいわね、恋って」
火乃花がうっとりした顔でみつめていた。
「もう、ちょっと。何を言ってるのよ。ああ、なんだか熱い。ちょっと風に当たってくるから」
耳まで赤く染めている小海は外へ行こうとする。そんな小海の手を取り引き止めると、手首から凄い速さの脈が伝わってきた。
小海は照れ臭そうに下を向いて黙ってしまった。
まだ真冬だっていうのに、なんだか春の訪れを感じられた。
「ああ、熱い、熱い。熱いと言えば、おでんか。それがいい」
「樹実渡、せっかくのいい雰囲気が台無しよ。もう」
「えっ、なんでだ火乃花。おでんはアツアツが美味いんだろうが」
「樹実渡、そういうことではありませんよ。まったく仕方がありませんね」
「なんだよ、流瀧まで」
0
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密
藤原遊
ファンタジー
魔法が支配する世界で、魔力を持たない少女アリア・マーウェラ。彼女は、かつて街を守るために命を落とした英雄的冒険者の両親を持ちながら、その体質ゆえに魔法を使えず、魔道具すら扱えない。しかし、彼女は圧倒的な身体能力と戦闘センスを武器に、ギルドでソロ冒険者として活動していた。街の人々やギルド仲間からは「英雄の娘」として大切にされつつも、「魔力を捨てて進化した次世代型脳筋剣士」と妙な評価を受けている。
そんなある日、アリアは山中で倒れていた謎の魔法使いイアンを助ける。彼は並外れた魔法の才能を持ちながら、孤独な影を背負っていた。やがて二人は冒険の中で信頼を深め、街を脅かす魔王復活を阻止するため、「カギ」を探す旅に出る。
しかしイアンには秘密があった。彼は魔族と人間の混血であり、魔王軍四天王の血を引いていたのだ。その事実が明らかになったとき、アリアは「どんな過去があっても、イアンはイアンだよ」と笑顔で受け入れる。
過去に囚われたイアンと、前を向いて進むアリア。二人の絆が、世界を揺るがす冒険の行方を決める――。シリアスとギャグが織り交ざる、剣と魔法の冒険譚!
詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~
Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」
病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。
気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた!
これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。
だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。
皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。
その結果、
うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。
慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。
「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。
僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに!
行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。
そんな僕が、ついに魔法学園へ入学!
当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート!
しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。
魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。
この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――!
勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる!
腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!
田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛
タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】
田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる