本の御魂が舞い降りる

景綱

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第一話 謎の鍵が示す先

【四十】強面の伴治

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 真剣な顔をした源じぃが伴治をみつめている。

「驚かせてすまない。どうしても直接言いたくてな。伴治、悪いのは私だ。ハルさんに好意を持っていたのは事実だからな。勘違いしたとは言い切れない。それに伴治を仲間外れにだなんて思ったことはない。だが、そう思わせてしまったのも事実だ。すまない」
「ふん、やはり源蔵はハルを好いておったのか」

 伴治が眉間みけんしわを寄せてそっぽを向いてしまった。
 まずい、このままじゃまた仲違なかたがいをしてしまう。せっかくいい雰囲気だったのに。源じぃ登場で雲行きが怪しくなってしまった。どうしたらいい。

「いい年をしてへそを曲げるだなんて、まったくどうしようもないねぇ」

 なんで水に油を注ぐようなこと言うんだ。
 遼哉はハルに目を向けて口を開きかけて閉じた。
 ハルはどこか笑みを浮かべているようだった。冗談なのか。いやいや、この状況で言うなんて逆効果だろう。

「馬鹿にしているのか。ハル」

 伴治の睨む姿にゾッとした。
 もう、どうすりゃいいんだ。

「鬼だ。やっぱり伴治は鬼だ。成敗するのだ」
「静かにしなさい。火乃花がいま出ていってはこじれるだけです」
「流瀧、止めるな。樹実渡もなぜ止める」

 樹実渡は火乃花の腕をしっかりと掴んでいた。
 ここで火乃花が攻撃でもしたら最悪だ。頼むから、二人とも火乃花を止めておいてくれ。
 とにかく、この嫌な空気をどうにかしなくては。
 考えろ。一刻も早く打開策を見出せ。フルスロットルで考えろ。
 ああ、頭から煙が出てきそうだ。オーバーヒート寸前だ。

 そう思ったとき、伴治の大笑いする声が部屋全体を揺るがした。
 なんだ、何が起きた。

「なーんてな。冗談だ、冗談。源蔵が驚かすから私も驚かせようと思っただけだ」
「人が悪いですよ。伴治さん」

 ハルは口を押えてクスクス笑っている。
 もしかしてハルは伴治が冗談を言っているって気づいていたのか。

「伴治、本当にびっくりしたぞ。真面目なおまえが冗談を言うとはな。なんだか嬉しいよ」
「嬉しいか。それならよかった。これで私も胸のつかえが取れた」

 伴治の笑い声が再び響き渡る。

「こうもすんなり和解出来るのなら、生きているうちに伴治を訪ねるべきだった。悔やんでも悔やみきれん。まあ、なんだ。なにはともあれ、これで未練も消えた。成仏できそうだ」
「そんな、成仏だなんて寂しいじゃないか。源蔵はずっと幽霊のままいてくれ。ハルさんとまた三人で楽しく小説を書こうじゃないか。ほら、本の御魂三人衆も復活しているし。また本の世界で活躍させようじゃないか」
「そうだよ。このままいてもいいんじゃないかい。まあ、幽霊のままっていうのもおかしな話だけどねぇ」

 源じぃは伴治とハルを交互に見遣り、ゆっくりと頭を振る。

「私は、そう長くはいられない。もう思い残すことはない。その代わり、孫の遼哉と仲良くしてやってくれ。こいつは文才がある。きっと私を超える小説家になるだろう。手助けしてやってくれないか。私だと思って」

 えっ、そんな。文才なんてない。と思うけど、あるのだろうか。
 なぜか、小海が源じぃの言葉に同意していた。小海までそう思うのか。小説なんて書いたことないのに。学校での課題で書いた作文くらいの経験しかない。
 なんだか思わぬ展開になってきた。

 小説家なんて自分には無理だ。どうすりゃいい。源じぃと目が合い苦笑する。気づけば脇の下が汗で濡れていた。

「大丈夫だ。不安そうな顔をするな。おいらたちがいるじゃないか。力になるぞ」

 樹実渡が満面の笑みでこっちに目を向けていた。

「文章のことなら僕に任せてもらえば何でも教えますよ」

 流瀧が頷き、少しだけ口角を上げた。

「私は、えっと。何か出来ることあるかな。鬼退治。じゃなくて、えっと」

 火乃花は唸りながら困り顔をしている。伴治を退治しようとしていた顔とはまるで違っている。仕種しぐさも顔も、なんとも愛らしい。思わず、遼哉は声をかけようとしたのだが流瀧に先を越された。

「火乃花」
「えっ、何。流瀧」
「御伽草子の御魂でしょう。昔話を教えてあげればいいのですよ。きっと参考になるはずです」

 火乃花の肩に手を乗せて微笑む流瀧に心があたたかくなった。その様子を優しい眼差しでみつめる樹実渡もいた。
 この三人には信頼感があるんだな。きっと。
 自分もこの輪の中に加わるんだよな。頼もしい仲間が出来たと思っていいんだよな。そう思うだけで、とても楽しい日々が送れそうだ。

「三人とも、これからよろしく」

 流瀧、樹実渡、火乃花の三人が顔を見合わせると、こっちに向き直り揃って親指を立てて二カッと笑った。

「ねぇ、何をこそこそ話しているの。私だけ除け者にしないでよね」

 小海のふくれっ面に思わず吹き出してしまう。

「なによ。なんで笑うのよ」
「ごめん、ごめん。除け者なんてしないよ。小海は俺の大切な人だからな」
「えっ、な、なに、急に」

 小海の顔が真っ赤になっていく。

「お熱いねぇ」
「本当に」
「そうだな」

 ハルと源じぃと伴治もこっちを見て笑っている。

「いいわね、恋って」

 火乃花がうっとりした顔でみつめていた。

「もう、ちょっと。何を言ってるのよ。ああ、なんだか熱い。ちょっと風に当たってくるから」

 耳まで赤く染めている小海は外へ行こうとする。そんな小海の手を取り引き止めると、手首から凄い速さの脈が伝わってきた。
 小海は照れ臭そうに下を向いて黙ってしまった。
 まだ真冬だっていうのに、なんだか春の訪れを感じられた。

「ああ、熱い、熱い。熱いと言えば、おでんか。それがいい」
「樹実渡、せっかくのいい雰囲気が台無しよ。もう」
「えっ、なんでだ火乃花。おでんはアツアツが美味いんだろうが」
「樹実渡、そういうことではありませんよ。まったく仕方がありませんね」
「なんだよ、流瀧まで」

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