本の御魂が舞い降りる

景綱

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第一話 謎の鍵が示す先

【三十九】何かがはじまる予感

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 伴治は座椅子にドカッと腰を下ろすと、座るよう促してきた。
 強面だけど、優しい人なのかもしれない。遼哉はなんとなくそう思い、ゆっくりと腰を下ろす。
 無言の伴治を正面にすると、どうしても逃げ出したくなってしまう。

 大丈夫。きちんと話せばわかってくれるはず。顔が怖いからって怒っているわけではない。呼吸を整えて、遼哉は会釈えしゃくをする。

「はじめまして、高宮遼哉といいます。源蔵の孫です」
「そうか、源蔵の孫か」

 伴治は大きく息を吐くと、じっとみつめてきた。
 無音の時がしばらく続き、空気の揺らぎとともに「すまなかった」との言葉が耳に届く。目の前には白髪頭が見えていた。

 遼哉は伴治が頭を下げていることに気づき、慌てて「いえ、そんなこと」と口にしたがそのあとの言葉が続かない。なんて言っていいのかわからなかった。

「伴治さん、頭を上げておくれ。きっと源蔵さんも伴治さんに謝っているはずだよ。勘違いさせてしまって申し訳ないと。勝手にあの小説を応募してしまったことも本当に申し訳ないことをしてしまって」

 ハルの言葉を制止するように手を振り伴治が話し出す。

「いいや、勝手ではない。私は確か源蔵から小説の話は聞いていた。いいんじゃないかと言った覚えがある。あのとき頭に血が昇ってしまって嘘を吐いた。ハルさんのことが……」

 伴治は言葉を詰まらせてもう一度深々と頭を下げた。

「いいんですよ。わかっています」

 ハルは目尻を下げて微笑んでいる。
 伴治は深い溜め息を漏らし、項垂れてぼそぼそと話し出す。

「あのときに戻れたら。もっと冷静になれていたら。源蔵とずっと仲良くいられたはずだ。それに、ハルさんが他の家に嫁ぐことを知ったときに源蔵のところへ行っていたら。何を言っても遅いな。源蔵はもういないのだから。意固地になっていた私が悪い」
「そんなことはありません。源じぃは、いや祖父は伴治さんと今でも仲間だと思っていますよ。だからこそ、こんな手紙も残して俺に頼んだんだと思います」

 伴治の様子に遼哉は自然と言葉が出た。

「そうですよ」

 ハルの頷きに、自分は間違っていないと救われた気がした。
 伴治は手紙を手に取り目を走らせて、再び大きく息を吐く。

「やはり会いにいくべきだったな」

 あっ、グレン。
 グレンは伴治の足に軽く手を置き、じっと顔をみつめていた。

「お、おまえは銀か。まさか、そんなはずは」
「あの、その猫はグレンです。銀ではないと思います」

 遼哉は伴治と目が合い頷いた。

「そうだよな。銀が生きているはずがない。けど、こいつは私に何か言いたいことがありそうだな」

 伴治が小首を傾げてグレンと目を合せたとき、一瞬だけグレンの身体が光った気がした。気のせいじゃない。ハルも伴治も目を見開いて口をぽかんと開けている。
 小海も「今、光らなかった」と呟いている。

「みんな、そんなに驚くことはない。私だ、源蔵だ」

 えっ、源じぃ。
 どこだ。どこにいる。姿は見えない。確かに声がしたのに。
 遼哉はグレンに目を留めてハッとする。まさか、グレンに憑依ひょういしたのか。

「今の声は幻聴か」

 伴治は視線を彷徨さまよわせていた。

「私にも聞こえたねぇ」

 ハルも小海も頷いている。

「グレンの中に源蔵殿がいますよ」

 グレンが火乃花と樹実渡にささやく声を耳にした。
 やっぱり、グレンの中にいるのか。

 なぜ猫に憑依したのだろう。疑問はあるが、たまたま取りきやすかったのかもしれない。そういうことにしておこう。それでも、やっぱり気にかかる。

「本当に源じぃがグレンの中にいるのか」

 しゃがみ込み、流瀧に小声で訊ねてみる。

「僕にははっきりと見えるのです。ここに来たときからずっといましたよ」
「ずっとか」
「そうです。ただ、さっきまではグレンの中で寝ていたようです」

 なるほど。もしかして、今までもそうだったのだろうか。時々、グレンが人の言葉を理解しているように感じたのは源じぃがいたからか。そのときは源じぃが目覚めていたのかも。そうだとしたら納得できる。
 源じぃがいるのなら、普通の猫だけど普通とも言えないのか。
 気づくと半透明の源じぃが立っていた。

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