38 / 161
第一話 謎の鍵が示す先
【三十八】流瀧登場
しおりを挟む
新島伴治との表札を目にした瞬間、心臓の鼓動が速まり遼哉は深呼吸をした。
大丈夫。落ち着け。うまくいく。
源じぃの頼みだ。気合を入れて頑張らなきゃ。
ああ、なんだか余計緊張してきた。これも火乃花のせいかも。
伴治=鬼の図式が頭の中にこびりついている。どうしても身構えてしまう。これは鬼退治ではない。話し合いだ。
大丈夫、大丈夫、大丈夫。
なんども心の中で繰り返して、もう一度深呼吸をする。
ダメだ、なんか嫌な予感しかしない。火乃花が静かにしていることが最悪な事態を予兆しているのではないかと思ってしまう。杞憂だろうか。
「遼哉、大丈夫。なんか顔色悪くない」
「ああ、大丈夫だ。問題ない」
「そう、ならいいけど」
小海が心配するほど、顔色が悪いのだろうか。いやいや、大丈夫だ。
「それじゃ、行こうかね」
小海はハルに頷き、ドアベルを鳴らした。
少しの間があり、掠れた声とともに扉が開く。
うわっ、鬼だ。
遼哉は叫びそうになってその言葉をなんとか呑み込んだ。火乃花が鬼だと言うわけがなんとなくわかった。
「伴治、成敗してくれる」
「うわっ、これやめないか」
しまった。予想していたのに止められなかった。
火乃花が伴治の足を何度も何度も踏んづけたり蹴ったりしている。伴治は後退りして尻餅をついていた。
んっ、踏んづけて蹴っているだけか。あまり痛くなさそうだ。
そんなんで成敗は出来ないだろう。思っていたものと違った。かわいいものだ。いやいや、そういう問題じゃない。早く止めなくては。
「火乃花、やめなさい」
ハルの叱責に火乃花は動きを止める。樹実渡も火乃花の手を取って、頭を振っていた。
「なぜ、とめる。伴治は鬼だろう」
納得いっていない火乃花の顔がそこにあった。
「違う、違う。顔は怖いけど違うぞ」
やっぱり火乃花は攻撃してしまったか。可愛いらしい攻撃だけど。本気ではなかったのだろうかとも思える攻撃だった。実際のところはわからない。
樹実渡がしっかりと腕を掴んで引き止めているが、放っておいたらどうなっていたのだろう。あの小さな身体で足を踏んづけたり蹴ったりするくらいなら怪我を負わせることもないが、攻撃がエスカレートしていく可能性だってあったのかもしれない。
すぐにハルは伴治に頭を下げて、小海とともに立たせてあげていた。遼哉は動けずにいたが、小海に促されて手を貸した。
「大丈夫だ。驚いただけだから」
伴治は怒りもせずに、「私が悪いのだから、仕方がない」とも口にした。
火乃花は、それでもキツイ眼つきで伴治の様子を窺っていた。
「鬼はいない。大丈夫だ。火乃花、よく見てみろ」
「いや、あれはどう見ても鬼だ。私の目がおかしいというのか」
樹実渡と火乃花の会話が聞こえてくる。
確かに、見た目は鬼みたいに怖い顔だ。失礼なことを考えてしまった。きっと心根は優しい人だ。怒りもせず謝ってくるくらいだから。源じぃは見る目はあるはずだ。友であったのだから、誤解が解ければうまく事が収まるだろう。
「相変わらずですね。考え無しで行動するとは無鉄砲ですよ。何度言えばわかるのでしょうね」
奥から落ち着いた声とともに小さな影が現れた。
もしかして、あれが流瀧か。
端正な顔立ちで確かに賢そうだ。青い水干姿がよく似合っている。いや、青じゃなく藍色か。
「なによ、久しぶりなのに私のことを侮辱するなんて。最低ね。私だって本気で成敗しようだなんて思っていないわよ。本気だったら火あぶりの刑よ。あーあ、流瀧に会うの楽しみにしていたのに、馬鹿」
火乃花は文句を言いつつも流瀧に抱きついた。またしても涙がキラリと光る。
気のせいだろうか。火乃花の話し方が少し柔らかくなったような。豹変モード解除か。というか豹変していたわけでもないのか。本気じゃなかったようだし。
「な、なにをするのです。女子がそのようなことをしてはいけません。道徳にも反します」
「もう、流瀧は頭が固すぎよ。久しぶりに会ったんだからいいの。ね、樹実渡もそう思うでしょ」
「どうだろう。おいらはよくわかんないや」
「わかりました。けど、もうそのくらいにしてください。僕も再会できて嬉しいですから」
流瀧は火乃花の肩に触れてゆっくりと身体を押して離した。なんとなく流瀧の顔が赤く見えるのは気のせいだろうか。
「火乃花、即行動ではなく考えてから行動ですからね」
「もう、そればっかり。いい雰囲気が台無しじゃない。いくら頭脳明晰でも女心はわからないのね。馬鹿、流瀧」
「いけませんね。『馬鹿』と何度も言うものではありませんよ」
「はい、はい。そうですか」
「返事は一回です」
「はーーーーーい」
「間延びする返事もいけません」
「二人とも、それくらいにしておこうよ。せっかくの再会だし楽しまなきゃ。それに今日は祝宴しなきゃな。な、そうだろう。美味しいもの食べれば幸せになれるってもんだろう」
「樹実渡ったら。けど、そうね」
「一理ありますね」
なんだかんだ言って仲がいいみたいだ。
本の御魂三人衆がこれで揃ったわけだ。なんだか心が弾む。
遼哉は伴治に肩を貸して奥の部屋へと向かった。
反対側にはハルと小海が付き添っている。足元には三人衆がついて来ている。まだなにやら話しているみたいだ。
ここに、源じぃがいれば勢揃いなのだろうけど。そう思ったら、グレンが足元に擦り寄ってきた。いつの間に。ずっとついてきていたのだろうか。
もしかして、源じぃもどこかにいるのではないだろうか。そんな気がしてきた。
いないのか。
少しばかり残念な気持ちが膨らみ、小さく息を吐く。
大丈夫。落ち着け。うまくいく。
源じぃの頼みだ。気合を入れて頑張らなきゃ。
ああ、なんだか余計緊張してきた。これも火乃花のせいかも。
伴治=鬼の図式が頭の中にこびりついている。どうしても身構えてしまう。これは鬼退治ではない。話し合いだ。
大丈夫、大丈夫、大丈夫。
なんども心の中で繰り返して、もう一度深呼吸をする。
ダメだ、なんか嫌な予感しかしない。火乃花が静かにしていることが最悪な事態を予兆しているのではないかと思ってしまう。杞憂だろうか。
「遼哉、大丈夫。なんか顔色悪くない」
「ああ、大丈夫だ。問題ない」
「そう、ならいいけど」
小海が心配するほど、顔色が悪いのだろうか。いやいや、大丈夫だ。
「それじゃ、行こうかね」
小海はハルに頷き、ドアベルを鳴らした。
少しの間があり、掠れた声とともに扉が開く。
うわっ、鬼だ。
遼哉は叫びそうになってその言葉をなんとか呑み込んだ。火乃花が鬼だと言うわけがなんとなくわかった。
「伴治、成敗してくれる」
「うわっ、これやめないか」
しまった。予想していたのに止められなかった。
火乃花が伴治の足を何度も何度も踏んづけたり蹴ったりしている。伴治は後退りして尻餅をついていた。
んっ、踏んづけて蹴っているだけか。あまり痛くなさそうだ。
そんなんで成敗は出来ないだろう。思っていたものと違った。かわいいものだ。いやいや、そういう問題じゃない。早く止めなくては。
「火乃花、やめなさい」
ハルの叱責に火乃花は動きを止める。樹実渡も火乃花の手を取って、頭を振っていた。
「なぜ、とめる。伴治は鬼だろう」
納得いっていない火乃花の顔がそこにあった。
「違う、違う。顔は怖いけど違うぞ」
やっぱり火乃花は攻撃してしまったか。可愛いらしい攻撃だけど。本気ではなかったのだろうかとも思える攻撃だった。実際のところはわからない。
樹実渡がしっかりと腕を掴んで引き止めているが、放っておいたらどうなっていたのだろう。あの小さな身体で足を踏んづけたり蹴ったりするくらいなら怪我を負わせることもないが、攻撃がエスカレートしていく可能性だってあったのかもしれない。
すぐにハルは伴治に頭を下げて、小海とともに立たせてあげていた。遼哉は動けずにいたが、小海に促されて手を貸した。
「大丈夫だ。驚いただけだから」
伴治は怒りもせずに、「私が悪いのだから、仕方がない」とも口にした。
火乃花は、それでもキツイ眼つきで伴治の様子を窺っていた。
「鬼はいない。大丈夫だ。火乃花、よく見てみろ」
「いや、あれはどう見ても鬼だ。私の目がおかしいというのか」
樹実渡と火乃花の会話が聞こえてくる。
確かに、見た目は鬼みたいに怖い顔だ。失礼なことを考えてしまった。きっと心根は優しい人だ。怒りもせず謝ってくるくらいだから。源じぃは見る目はあるはずだ。友であったのだから、誤解が解ければうまく事が収まるだろう。
「相変わらずですね。考え無しで行動するとは無鉄砲ですよ。何度言えばわかるのでしょうね」
奥から落ち着いた声とともに小さな影が現れた。
もしかして、あれが流瀧か。
端正な顔立ちで確かに賢そうだ。青い水干姿がよく似合っている。いや、青じゃなく藍色か。
「なによ、久しぶりなのに私のことを侮辱するなんて。最低ね。私だって本気で成敗しようだなんて思っていないわよ。本気だったら火あぶりの刑よ。あーあ、流瀧に会うの楽しみにしていたのに、馬鹿」
火乃花は文句を言いつつも流瀧に抱きついた。またしても涙がキラリと光る。
気のせいだろうか。火乃花の話し方が少し柔らかくなったような。豹変モード解除か。というか豹変していたわけでもないのか。本気じゃなかったようだし。
「な、なにをするのです。女子がそのようなことをしてはいけません。道徳にも反します」
「もう、流瀧は頭が固すぎよ。久しぶりに会ったんだからいいの。ね、樹実渡もそう思うでしょ」
「どうだろう。おいらはよくわかんないや」
「わかりました。けど、もうそのくらいにしてください。僕も再会できて嬉しいですから」
流瀧は火乃花の肩に触れてゆっくりと身体を押して離した。なんとなく流瀧の顔が赤く見えるのは気のせいだろうか。
「火乃花、即行動ではなく考えてから行動ですからね」
「もう、そればっかり。いい雰囲気が台無しじゃない。いくら頭脳明晰でも女心はわからないのね。馬鹿、流瀧」
「いけませんね。『馬鹿』と何度も言うものではありませんよ」
「はい、はい。そうですか」
「返事は一回です」
「はーーーーーい」
「間延びする返事もいけません」
「二人とも、それくらいにしておこうよ。せっかくの再会だし楽しまなきゃ。それに今日は祝宴しなきゃな。な、そうだろう。美味しいもの食べれば幸せになれるってもんだろう」
「樹実渡ったら。けど、そうね」
「一理ありますね」
なんだかんだ言って仲がいいみたいだ。
本の御魂三人衆がこれで揃ったわけだ。なんだか心が弾む。
遼哉は伴治に肩を貸して奥の部屋へと向かった。
反対側にはハルと小海が付き添っている。足元には三人衆がついて来ている。まだなにやら話しているみたいだ。
ここに、源じぃがいれば勢揃いなのだろうけど。そう思ったら、グレンが足元に擦り寄ってきた。いつの間に。ずっとついてきていたのだろうか。
もしかして、源じぃもどこかにいるのではないだろうか。そんな気がしてきた。
いないのか。
少しばかり残念な気持ちが膨らみ、小さく息を吐く。
0
あなたにおすすめの小説
魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密
藤原遊
ファンタジー
魔法が支配する世界で、魔力を持たない少女アリア・マーウェラ。彼女は、かつて街を守るために命を落とした英雄的冒険者の両親を持ちながら、その体質ゆえに魔法を使えず、魔道具すら扱えない。しかし、彼女は圧倒的な身体能力と戦闘センスを武器に、ギルドでソロ冒険者として活動していた。街の人々やギルド仲間からは「英雄の娘」として大切にされつつも、「魔力を捨てて進化した次世代型脳筋剣士」と妙な評価を受けている。
そんなある日、アリアは山中で倒れていた謎の魔法使いイアンを助ける。彼は並外れた魔法の才能を持ちながら、孤独な影を背負っていた。やがて二人は冒険の中で信頼を深め、街を脅かす魔王復活を阻止するため、「カギ」を探す旅に出る。
しかしイアンには秘密があった。彼は魔族と人間の混血であり、魔王軍四天王の血を引いていたのだ。その事実が明らかになったとき、アリアは「どんな過去があっても、イアンはイアンだよ」と笑顔で受け入れる。
過去に囚われたイアンと、前を向いて進むアリア。二人の絆が、世界を揺るがす冒険の行方を決める――。シリアスとギャグが織り交ざる、剣と魔法の冒険譚!
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛
タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】
田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。
【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~
いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。
地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。
「――もう、草とだけ暮らせればいい」
絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。
やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる――
「あなたの薬に、国を救ってほしい」
導かれるように再び王都へと向かうレイナ。
医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。
薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える――
これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
仕事で疲れて会えないと、恋人に距離を置かれましたが、彼の上司に溺愛されているので幸せです!
ぽんちゃん
恋愛
――仕事で疲れて会えない。
十年付き合ってきた恋人を支えてきたけど、いつも後回しにされる日々。
記念日すら仕事を優先する彼に、十分だけでいいから会いたいとお願いすると、『距離を置こう』と言われてしまう。
そして、思い出の高級レストランで、予約した席に座る恋人が、他の女性と食事をしているところを目撃してしまい――!?
【完結】魔法大戦 〜失われた古代魔法で無双する!〜
加瀬 一葉
ファンタジー
王立魔法学校。高等部に編入してきた冴えない生徒ラフィト。エリートが集うこの学校で、辺境出身のラフィトは落ちこぼれの劣等生なのだが……。
実は彼は、失われたはずの古代魔法を操る一族の末裔。魔族の脅威が増す時代に、ラフィトは人類を救うことができるのか?
過去と現在が交錯する、魔法ファンタジー。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる