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第二話 悲しき本の声
【十】ハルの家へ(二)
しおりを挟む「ねぇ、遼哉。朋美のことなんだけど」
「ああ、そうだったな。で、どんな感じなんだ」
「ごめんね。ずっと連絡しなくて」
「いや、それはいいけどさ。何かわかったのか」
早く知りたい気持ちをどうにか抑えて、落ち着いた感じを装った。
「優しいね」
急になんだ。そんなにみつめるなって。ドキッとしてしまう。
「ハル、早くくれ」
「待て、私が先だ」
「こらこら、樹実渡も火乃花もお待ち。これは、グレンちゃんのだよ」
騒がしい奴らが戻ってきてしまった。空気を読まない奴らだ。いい雰囲気になりそうだったのに。
グレンはハルから茹でられたささみ肉を貰って、唸りながらかぶりついていた。
『うまい、うまい』と聞こえるのは気のせいだろうか。
「おいらのは、まだか」
「違う、私のよ」
「まったく、仕方がないね。今、棒棒鶏を作ってあげるからもうちょっとお待ち」
「おお、それはいい。美味そうだ」
隣で火乃花も頷きながら「それって、なんなの」と樹実渡に訊いている。知らないのに火乃花は頷いていたのか。面白い奴だ。
ハルがキッチンに戻っていくと、樹実渡と火乃花はあとを追い静かになった。ここに流瀧がいたら二人とも叱られただろう。
そんなことよりも朋美の話だ。
「で、その。朋美さんのことはどうなっているんだ」
遼哉は小海に問い掛けた。
小海は今まであったことを掻い摘んで話しはじめた。
そうか、そんなことがあったのか。
「朋美は、何か隠していると思うのよね。それが美里のことなんじゃないかって私は思っているんだけど。それが何かはよくわからないの」
「なるほどな。それで火乃花は美里さんが朋美さんを苦しめていると思っているんだな」
「たぶんね」
「鬼か」
「美里が鬼ってことはないと思うんだけど。なんとなく、美里もおかしいような気もするのよね」
話を聞くと朋美も美里も素直に話してくれそうにない。ならば、どうするべきか。
「ああ、満足、満足。遼哉も食べればよかったのに」
大事な話をしているっていうのに樹実渡ときたら。
「棒棒鶏なんて初めて食べたわ。美味しいのね」
「おいらも初めてだ。そんな料理があることは知っていたけどな」
「ふーん」
火乃花も意外と食いしん坊なのかもしれない。もしかして、流瀧もそうだったりするのだろうか。いや、今はそんなことはどうでもいい。
「樹実渡、火乃花。今は、朋美さんのことを話し合っているんだ。一緒に考えてくれないか」
「そんなの決まっているじゃない。鬼退治ですべて解決よ」
火乃花の答えは明確だ。美里が完全に悪者確定してしまっている。そうと決まったわけじゃないのに。
「おいおい、待て。どういうことだ。おいらにはさっぱりわからない」
樹実渡は、小海の話を聞いていないからわからなくて当然だ。食い物で頭がいっぱいだったろうし。
「なあ、流瀧も呼んで話してみたらどうだろう。それとも、伴治さんのところに行ったほうがいいか」
樹実渡と火乃花の「いいかも」との言葉が重なった。こっちに向けて親指を立てている。
「いいかもしれないねぇ」
ハルも同意して頷いていた。
「小海もそれでいいか」
頷く小海に遼哉も頷き返す。
明日にでも伴治のところに訪ねてみよう。
話はこれで終了と思ったら、樹実渡が声をかけてきた。
「なぁ、行くのはいいが何がどうなっているんだ。誰か説明してくれ」
食べてばかりで話を聞いていないからそうなるんだろう。二度手間だ。
そんな樹実渡の顔をグレンが嘗め始めた。
もしかしたら、グレンは樹実渡を慰めているのかもしれない。その横で火乃花が「悪は滅びるのよ。私の炎で真っ黒焦げにしてくれるわ」と恐ろしいことを口にしていた。
絶対に火乃花は美里に近づけさせないほうがいい。伴治のときとは違い、本当に真っ黒焦げにしてしまいそうな勢いだ。
大丈夫だろうか。火乃花をずっと監視しているわけにはいかない。
ここは流瀧に頼むしかないか。きっと、なんとかしてくれるだろう。
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