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第二話 悲しき本の声
【十一】伴治のもとへ
しおりを挟む「三人で一致団結すれば鬼退治なんて楽勝よ。そうでしょ、樹実渡」
樹実渡はこっちに目を向けて、苦笑いを浮かべた。
「遼哉もそう思うでしょ。あっ、知らないか。私の力」
「まあ。そうだな」
曖昧な返事をして、小さく息を吐く。
火乃花の中では完全に鬼退治ありきで流瀧に相談を持ち掛けるつもりのようだ。おそらく、流瀧に却下されるだろう。
もしかしたら、樹実渡もそう思って何も言わなかったのかもしれない。
はたして、どうなることやら。
朋美とも美里とも会っていないから、今はなんとも判断できない。
火乃花の言う通り、美里が鬼なのか。まさか、それはないか。ただ、イジメられているのは事実なのかもしれない。そのイジメる心が鬼ってことなのか。そう考えれば、間違いではないのか。
遼哉は首を傾げてあれやこれやと解決策を練っていると、火乃花が突然歌いはじめた。
まったく人の気も知らないで。
本当に楽勝なんだか。
火乃花を見ていると、なんだかピクニックでも行くのかと錯覚してしまう。夕方からピクニックに出掛ける奴はいない。ちなみに、歌っているのは桃太郎の歌だ。
鬼退治繋がりだろう。
桃太郎と違うことは家来がいないことだ。強いて言えばグレンが家来になるのだろうか。桃太郎に猫は出てこないけど。家来だなんて言われたら、グレンは怒るか。
それにしても、なぜグレンは一緒に来たがるのだろう。猫って気まぐれでどこかへ勝手に行ってしまうというイメージがあるのに。そのイメージはおそらく間違っていないはず。グレンがちょっと違うだけだ。そのはずだ。
グレンに目を向けていたせいか、チラッとグレンがこっちに目を向けてきた。なんとなく、『なんだよ、そんなに見るんじゃない』とでも文句を言っていそうだ。睨まれている気がする。
考え過ぎか。
「綺麗な夕陽ね」
小海の声に沈みゆく夕陽を見遣る。確かに綺麗だ。
「これってなんとかの道みたいだな。なんて言ったっけ」
一直線の道の上を夕陽が照らして輝いている。
「光の道でしょ。そう言われればそんな感じに見えるかもね」
「小海に遼哉。デート気分はそれくらいにしておきなさいよね。鬼退治の作戦を練るんだから浮ついた気分でいられちゃ困るわよ」
火乃花、それこそ見当違いだ。デート気分というのは否めないが、鬼退治の作戦会議をするつもりはない。というか、桃太郎を歌っている火乃花のほうが浮ついているんじゃないのか。との言葉は呑み込んだ。
小海を横目で見ると頬を朱色に染めている。照れているのか、夕陽に照らされているせいでそう見えるのかちょっとわかり辛い。きっと、夕陽のせいだろう。
チラッと後ろを見るとハルが微笑んでいた。いつの間にかハルの腕にグレンが抱かれている。
「若いっていいねぇ」
ハルの微笑みが夕陽に照らされて輝い見える。
ハルは完全に小海と自分が付き合っているって思っているのだろう。
違うのに。
待てよ。小海はどう思っているのだろう。遼哉は頭を軽く振り、余計な考えを捨てた。
あれ、樹実渡はどこだ。消えた。
あたりに目を向けていると「おいらはここだ」とハルの腕に抱かれたグレンの奥から顔を出した。
樹実渡はグレンのことが大好きなのかもしれない。その前に、樹実渡のこと探しているってよくわかったな。
「こら、樹実渡。そんなところで怠けるな。気合だ、気合」
「火乃花、気合もいいけど温かいぞ、ここ。来てみろよ」
「な、なによ。私は平気だけど、樹実渡がそう言うなら。ちょっとだけ」
ハルがしゃがみ込むと同時に火乃花がグレンの腹あたりに飛び込んだ。
「どうだ、温かいだろう」
「ああ、あったかもふもふ。最高。生き返るね。あっ」
どうやら、火乃花はやせ我慢していたようだ。
遼哉は、んっと思った。
そもそも、人形は寒さ感じるのか。こいつらは特別ってことか。
「ああ、ここ天国。ぬくぬく、もふもふ。たまらない」
「だろう。おいら、なんだか眠くなってきちまった」
なんだかいいな。自分もグレンの湯たんぽの暖を取りたい。そう思ったが、小海を抱きしめたほうがもっと温かいなと思ってしまいすぐに頭を振った。何を考えている。
「なに、どうしたの」
小海が顔を覗き込んできて、ドキッとした。これは恋なのだろうか。違う。びっくりしただけだ。
「もう、何よ。その顔は」
「顔ってなんだ。いつもと変わらないだろう」
「変なの」
小海は訝し気に見ていたが、「あっ、伴治さんだ」と前方を指差した。
本当だ。連絡しておいたから家の前で待っていてくれたのか。寒いから家で待っていてくれたらいいのに。
「んっ、伴治の肩にいるのは流瀧か」
遼哉がそう呟いたとたん、火乃花と樹実渡はグレンの湯たんぽから飛び出して駆け出していった。
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