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第二話 悲しき本の声
【十三】御魂三人衆、学校へ
しおりを挟む「みんな、おとなしくしていてね」
「わかっています。問題は朋美が学校へ来ているかどうかにかかっています」
「確かにそうね」
流瀧の言う通りだ。
小海は小さく息を吐き、弁当の中の玉子焼きに箸をつけた。
朋美、今日は来ているだろうか。食べ終わったら、隣のクラスを覗いてみよう。
「おい、その玉子焼き食わないならおいらにくれ」
「樹実渡、出てきちゃダメでしょ。それに、玉子焼きは食べるからあげない」
「そうか」
樹実渡はしょぼんとした顔をして鞄へと戻っていく。あげればよかったかな。
「あっ、朋美だ」
えっ、どこ。
「きっと図書室に向かったんだ」
図書室。
小海は後ろの開いた扉から見える廊下へと目を遣ったが、姿は見えなかった。
「小海、前よ、前」
火乃花の声に前へと目を向けると一瞬だけ顔が見えた。
間違いなく朋美だ。来てくれた。それだけで、胸の内に心地よいそよ風が吹いていく。
まだ問題が解決されたわけじゃない。わかっている。それでも、ずっと家に閉じ籠っていた朋美が前を向いてくれたことに胸が弾む。
本の御魂三人衆も連れてきて正解だ。
鞄に潜んでいる本の御魂三人衆が小声で話し合っている。よく聞こえてこないが、きっと流瀧がみんなの行動を再確認しているのだろう。
確か朋美が来た場合、流瀧の話だと昼休みに行動開始すると話していた。今がその時のはずだが、どうするのだろう。今出てきたら、みんなにみつかってしまう。
急いで食べて図書室に向かうべきだ。火乃花の言う通り、朋美が歩いて行った先に図書室がある。実際のところはわからないけど、本好きの朋美なら図書室に行った可能性大だろう。
小海はまわりに気づかれないように鞄に近づき「みんな、どうする」と小声で問い掛けた。
「まずは、小海のポケットに移動するとしましょう」
「ちょっと、三人は無理よ」
「火乃花だけスカートの内側に隠れていてもらいましょうか」
「えっ、スカート」
「女子同士でしょう。気にすることはないはずです」
確かに流瀧の言う通りだ。それでも、なんだか気が進まない。ここは人助けだし、大したことじゃない。流瀧と樹実渡だったら絶対にお断りだけど火乃花なら、まあいいか。
「そ、そうね。わかったわ」
「樹実渡、火乃花、みつからないように素早く行動するように。では僕から行きます」
小海は鞄を開けて、何かを探す素振りをした。なんだかドキドキする。なんとなく周りのみんなに見られているような気がしてしまう。そんなことはないのに。
ごくりと生唾を呑み込み、『早く、移動して』と心の中で呟いた。
「小海、パン買いに行かないの」
突然、背後から声をかけられてビクッと身体を震わせた。
「え、何」
麻衣か。いつも一緒にパンを買いに行っているから誘いに来てくれたんだろう。
「何って、パンよ。売り切れちゃうわよ」
「麻衣、今日は弁当持ってきたんだ。ごめん」
「お弁当。あっ、本当だ。玉子焼きひとつ貰うね」
麻衣は玉子焼きを頬張り、教室を出て行った。
もう麻衣ったら。
それにしても、びっくりした。小海は胸を撫で下ろして息を吐く。
「移動完了しましたよ。小海、弁当はお仕舞いにして行きましょう。僕たちは人目につかない場所で抜け出して朋美を監視します」
小海は「わかったわ」とだけ呟き、残ったごはんとおかずをみつめ蓋を閉める。
あまり食欲はなかったから丁度いいか。鞄に弁当箱をしまい立ちあがる。
うまく解決できるだろうか。今日は流瀧がいる。きっと大丈夫。
今、自分にできることはない。いや、あるか。一緒に図書館に行って話したほうがいいような。どうしよう。なんだか少し胃が痛む。
「小海、どこかいい場所があったら頼みます」
「ええ」
廊下に出て、図書室へと向かう。
人目につかない場所なんてあるだろうか。
「小海のパンツは薄いブルーなんだ。ふーん」
「ちょっと、火乃花。何を言っているのよ。もう」
「なるほど、そんなパンツを履いているのか。おいら想像しちゃうな。流瀧もだろう」
「いけません。女性の下着を想像するなど破廉恥です」
「そうよ、流瀧の言う通り。いい加減にして。樹実渡、夕飯は無しにするからね」
「ごめん。おいらが悪かった」
食いしん坊の樹実渡には食事無しの言葉は効果覿面だ。
クスクスと笑う火乃花の声が聞えてきて小海は「火乃花もよ。夕飯抜きね」と小声で話すと「ごめん。もう言わないから許してよ」と素直に謝ってきた。
ああ、もうなんでこんなことになっちゃうのだろう。
そういえば、誰もいなかっただろうか。一人で話していたら絶対におかしな人だと思われてしまう。小海はあたりを見回して誰もいないと確認して息を吐く。
とにかく、図書館へ急ごう。
ここは祈るしかない。
そんなことを考えているうちに人だかりのいるパン売り場に来ていた。図書室はこの先だ。
ポケットをそっと覗いてみたら、もう流瀧たちは消えていた。いつの間に。あの三人は目立ちそうだけど意外と気づかれないのかもしれない。いや、そんなことはないか。朋美に気づかれたし、美里にも気づかれそうになった。
それは火乃花だったからなのだろうか。流瀧がいると、やっぱり違うのだろうか。
『みんな、頑張ってね』
「あれ、小海。どうしたの。弁当食べてパンも食べるの」
「えっ、まさか。もう麻衣ったら変なこと言わないでよ」
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