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第二話 悲しき本の声
【十六】本の泣き声
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やっと終わった。なんで先生の話を聞いていると眠くなるんだろう。
勉強が嫌いだから。夜更かしをしているせい。
どっちもか。
小海は苦笑いを浮かべて目の前の小さな紳士に目を向けた。
流瀧だ。
今日は、流瀧のおかげでいつもよりは目が冴えている。
教室には生徒がたくさんいるのに流瀧が机の上に飛び出してくるんだもの。話しはじめたときは心臓が飛び出そうになった。杞憂だった。
やっぱり流瀧は、火乃花とは違う。
本当に不思議。
周りの人達には話し声は届いていないなんて。姿も見えていないなんて。
流瀧は呪術の本を徹夜して学んできたらしい。小規模だったら結界を張れるようになったとか。ただ三十分が限界で休憩が必要だと話した。
それだけあれば朋美と美里の話をするには十分だった。
まずは美里と話さなくてはいけないという結論に達した。
「では、行きましょう」
「んっ、行くのか。おやつ食いに。目覚めのお菓子は最高だからな」
「樹実渡、違います」
「そうだ、違うぞ。鬼退治だ」
「火乃花、それも違います」
「じゃ、何よ」
「美里と話をするんです」
「もう、流瀧はまどろっこしいんだから」
「ああ、饅頭食いてぇ」
しかたがない二人だ。まともなのは流瀧だけなの。
流瀧が咳払いをして「とにかく、行きましょう」と樹実渡と火乃花の話を遮った。
小海は頷き、席を立つと隣のクラスを覗く。教室をゆっくり見回して首を傾げた。
あれ、いない。
もう一回見回してみても結果は同じだった。美里も朋美も姿はなかった。
もう帰ってしまったのだろうか。それとも、校舎内にいるのだろうか。
もしかして、すでにどこかの電気店に向かっているのだろうか。万引きをさせるために。どうしてそんなことをさせようとするのだろうか。
美里のことはあまり知らないけど、記憶が確かなら裕福な家庭だった。ドライヤーくらい親に頼めば買ってくれるはず。朋美との間に何か亀裂が入るようなことがあったのだろうか。それで困らせようとしているのだろうか。それとも美里は最初から朋美のことを嫌っていたってことなのか。
わからない。
とにかくみつけないと。
図書室にいるかもしれないと急いで向かう。朋美と一緒にいる可能性もある。
***
もう帰ってしまったのだろうか。
図書室にはいなかった。理科室、美術室、音楽室、どこにもいない。視聴覚室かもと期待したけどいなかった。屋上にもいなかった。
「いないようですね」
「そうね、流瀧」
「下駄箱で靴があるか確認しましょう」
「あっ、そうか」
最初からそうすればよかった。早く教えてくれればよかったのに。
小海は下駄箱へと急ぎ、確認した。靴がない。
やっぱり帰ったのか。それならここにいても仕方がないか。帰ろう。
靴を手に取り履こうとしたとき、目の端に何かが映り何気なくそっちへ目を向ける。
そこには一冊の本が落ちていた。
『虹鳥』だ。
朋美の本だ。なぜ、ここに。また落としたのだろうか。大事な本のはずだ。つい落としてしまったなんてことがあるのだろうか。
「あっ、すすり泣きの声だ」
樹実渡が鞄から顔を出して呟いた。
すすり泣きの声ってどういうこと。
「確かに聞こえますね。あの本から」
流瀧まで身を乗り出して本をみつめている。火乃花は鞄から飛び出して本の前にしゃがみ込む。
「本当だ、泣いている。私にも聞こえる」と呟いた。
もう、火乃花ったら急に飛び出しちゃいけないって言ったのに。あたりに目を向けて、誰もいないとわかりホッとする。
小海は本を手に取りじっとみつめた。本が泣くなんてことあるのだろうか。もしも泣いているのなら、なぜ。
気づくと、流瀧も樹実渡も鞄から飛び出していた。
「なるほど、そういうことか」
流瀧は腕組みをして頷いている。何か本が話しているのだろうか。本の御魂だから、通じるものがあるのだろう。きっと、そうだ。
樹実渡も火乃花も聞き耳をたてているようだ。そう思ったとき、本の御魂三人衆の目が見開かれた。
何、どうしたの。
爆弾発言でもあったのだろうか。自分だけ聞こえないなんて。ああもう、何を話しているの。
「ねぇ、何がどうなっているの。私にも教えてよ」
「体育館の裏です。そこに朋美と美里がいるようです」
流瀧が真剣な眼差しを向けてきた。
そのとたん、火乃花が駆け出して行った。
「鬼だ、鬼だ、鬼だ。鬼退治だ」
「火乃花、いけません。止まりなさい」
流瀧の声が届かなかったのか走り去ってしまう。
何がどうなっているの。わからない。けど、今の火乃花の顔。
緊急事態なのは間違いなさそうだ。
「急ぎましょう」
小海は流瀧と樹実渡を再び鞄に入れると火乃花を追いかけた。朋美と美里が体育館裏にいる。
胸がギュッと締め付けられた。どう考えても、嫌な予感しかしない。
手遅れになる前になんとかしなくちゃ。
勉強が嫌いだから。夜更かしをしているせい。
どっちもか。
小海は苦笑いを浮かべて目の前の小さな紳士に目を向けた。
流瀧だ。
今日は、流瀧のおかげでいつもよりは目が冴えている。
教室には生徒がたくさんいるのに流瀧が机の上に飛び出してくるんだもの。話しはじめたときは心臓が飛び出そうになった。杞憂だった。
やっぱり流瀧は、火乃花とは違う。
本当に不思議。
周りの人達には話し声は届いていないなんて。姿も見えていないなんて。
流瀧は呪術の本を徹夜して学んできたらしい。小規模だったら結界を張れるようになったとか。ただ三十分が限界で休憩が必要だと話した。
それだけあれば朋美と美里の話をするには十分だった。
まずは美里と話さなくてはいけないという結論に達した。
「では、行きましょう」
「んっ、行くのか。おやつ食いに。目覚めのお菓子は最高だからな」
「樹実渡、違います」
「そうだ、違うぞ。鬼退治だ」
「火乃花、それも違います」
「じゃ、何よ」
「美里と話をするんです」
「もう、流瀧はまどろっこしいんだから」
「ああ、饅頭食いてぇ」
しかたがない二人だ。まともなのは流瀧だけなの。
流瀧が咳払いをして「とにかく、行きましょう」と樹実渡と火乃花の話を遮った。
小海は頷き、席を立つと隣のクラスを覗く。教室をゆっくり見回して首を傾げた。
あれ、いない。
もう一回見回してみても結果は同じだった。美里も朋美も姿はなかった。
もう帰ってしまったのだろうか。それとも、校舎内にいるのだろうか。
もしかして、すでにどこかの電気店に向かっているのだろうか。万引きをさせるために。どうしてそんなことをさせようとするのだろうか。
美里のことはあまり知らないけど、記憶が確かなら裕福な家庭だった。ドライヤーくらい親に頼めば買ってくれるはず。朋美との間に何か亀裂が入るようなことがあったのだろうか。それで困らせようとしているのだろうか。それとも美里は最初から朋美のことを嫌っていたってことなのか。
わからない。
とにかくみつけないと。
図書室にいるかもしれないと急いで向かう。朋美と一緒にいる可能性もある。
***
もう帰ってしまったのだろうか。
図書室にはいなかった。理科室、美術室、音楽室、どこにもいない。視聴覚室かもと期待したけどいなかった。屋上にもいなかった。
「いないようですね」
「そうね、流瀧」
「下駄箱で靴があるか確認しましょう」
「あっ、そうか」
最初からそうすればよかった。早く教えてくれればよかったのに。
小海は下駄箱へと急ぎ、確認した。靴がない。
やっぱり帰ったのか。それならここにいても仕方がないか。帰ろう。
靴を手に取り履こうとしたとき、目の端に何かが映り何気なくそっちへ目を向ける。
そこには一冊の本が落ちていた。
『虹鳥』だ。
朋美の本だ。なぜ、ここに。また落としたのだろうか。大事な本のはずだ。つい落としてしまったなんてことがあるのだろうか。
「あっ、すすり泣きの声だ」
樹実渡が鞄から顔を出して呟いた。
すすり泣きの声ってどういうこと。
「確かに聞こえますね。あの本から」
流瀧まで身を乗り出して本をみつめている。火乃花は鞄から飛び出して本の前にしゃがみ込む。
「本当だ、泣いている。私にも聞こえる」と呟いた。
もう、火乃花ったら急に飛び出しちゃいけないって言ったのに。あたりに目を向けて、誰もいないとわかりホッとする。
小海は本を手に取りじっとみつめた。本が泣くなんてことあるのだろうか。もしも泣いているのなら、なぜ。
気づくと、流瀧も樹実渡も鞄から飛び出していた。
「なるほど、そういうことか」
流瀧は腕組みをして頷いている。何か本が話しているのだろうか。本の御魂だから、通じるものがあるのだろう。きっと、そうだ。
樹実渡も火乃花も聞き耳をたてているようだ。そう思ったとき、本の御魂三人衆の目が見開かれた。
何、どうしたの。
爆弾発言でもあったのだろうか。自分だけ聞こえないなんて。ああもう、何を話しているの。
「ねぇ、何がどうなっているの。私にも教えてよ」
「体育館の裏です。そこに朋美と美里がいるようです」
流瀧が真剣な眼差しを向けてきた。
そのとたん、火乃花が駆け出して行った。
「鬼だ、鬼だ、鬼だ。鬼退治だ」
「火乃花、いけません。止まりなさい」
流瀧の声が届かなかったのか走り去ってしまう。
何がどうなっているの。わからない。けど、今の火乃花の顔。
緊急事態なのは間違いなさそうだ。
「急ぎましょう」
小海は流瀧と樹実渡を再び鞄に入れると火乃花を追いかけた。朋美と美里が体育館裏にいる。
胸がギュッと締め付けられた。どう考えても、嫌な予感しかしない。
手遅れになる前になんとかしなくちゃ。
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